映画「ミッドウェイ(2019)」雑感|真珠湾攻撃〜ミッドウェイ海戦を中立視点から描いたローランド・エメリッヒ最新作(しかし居心地が悪い)
ローランド・エメリッヒ監督の新作『ミッドウェイ』を劇場鑑賞しました。太平洋戦争における真珠湾攻撃からミッドウェイ海戦までの戦局を、日米双方の視点で描く作品です。日本からは山本五十六役の豊川悦二さんをはじめ、國村隼さん、浅野忠信さんらが海軍上官として出演しています。
この映画の予習というわけではなかったのですが、ちょうどこの夏は太平洋戦争に関する映画を沢山観ていました。真珠湾攻撃〜ミッドウェイ海戦を直接的に描いた作品としては以下の5本くらいでしょうか。50年代から80年代までいい具合にばらけていますね。
- 太平洋の鷲(1953)
- ハワイ・ミッドウェイ大海空戦 太平洋の嵐(1960)
- 連合艦隊司令長官 山本五十六(1968)
- トラ・トラ・トラ!(1970)
- 連合艦隊(1981)
同じような題材の作品を繰り返し観ているうちにこのあたりの戦局についてはだいぶ馴染みが出てきて、このタイミングでの『ミッドウェイ』はまさに満を持して、といった感じだなと楽しみにしておりました。
そんなわけで観てまいりましたが、正直とても困った。なんか、あんま好きじゃなかったのです。しかし日本人として、真珠湾攻撃以後の日米戦を描いた映画に「あんま好きじゃなかった」という感想を抱くのってすごい複雑な気分になってしまいまして。いや別にそういう意味じゃないんだけど、映画として肌に合わなかったんだようと、なかなか難しいところです。
先にいいところからいきましょう。巨大な米空母がゴゴゴゴと大写しになる冒頭なんかはかなり掴み良好で、映画館のど真ん中を陣取ってよかったなと早くも満足しました。続くシーンもなかなか衝撃的で、停泊中の甲板で日曜礼拝の準備かなんかのんびりとやっているところに突然の機銃掃射。そう、いわゆる真珠湾攻撃です。
日本映画でこの局面を扱う場合は「そこに至るまで」があり、日米合作の『トラ・トラ・トラ!』においても同様ですが、本作では完全に「奇襲」として描かれるので(「奇襲かどうか」はともかく、不意打ちだったことには違いありません)、なるほどこんな感じか……となりました。妙に安っぽい綱渡りシーンが挿入されたりするせいで気が散ったり、航空アクションに関しても実写ならではの重量感がある『トラ〜』に軍配が上がりますが、淡々かつショッキングな遺体安置所の描写などはこちらも効果的だったと思います。
印象に残ったのは、当時の米軍が日本軍をかなり恐れている様子です。『太平洋の嵐』で描かれる、真珠湾攻撃からミッドウェイ海戦前までの「敵なし」な状況と照らし合わせると、確かにこれぐらい強敵と見られていてもおかしくはありません。それゆえ、真珠湾での痛手をバネに次こそは迎え撃ってやるという血眼の姿勢がミッドウェイで実を結ぶこととなるわけです。対する当時の日本は余裕しゃくしゃくモードですから、そりゃああもなる。
同じ局面を異なる視点から見るという歴史的おもしろさでいうと、ミッドウェイ海戦において米空母から戦闘機が発艦していくところは個人的にかなりピークでした(真珠湾攻撃の真珠湾視点は『トラ〜』で既にピーク記録済)。これが、あの、鉢合わせするやつか!!と。日本側の偵察機がちゃんと出てきたりするのもよくできていて感心しましたし、日本が最終的に空母「飛龍」を手放すあたりなども『太平洋の嵐』と全く同じ流れなので、本作と『嵐』は併せて観るのがおすすめですね。
恥ずかしい余談をひとつ。『太平洋の嵐』では三船敏郎さんが演じ、本作では浅野忠信さんが演じている山口多聞。飛龍と運命を共にする軍人ですが、わたしこの「多聞」って役職かと思っていて。名前だったのか!と気付いたのが昨日です。字面にしても「たもん」という読みにしても、なんか名前っぽくないじゃないですか! 参謀、中尉、艦長、多聞、みたいなもんかと思っていたよ。なんかご意見役みたいな人かと思っていたよ。
さてそれでは、あんまり肌に合わなかった点。ドイツ出身のエメリッヒ監督としては中立の視点で「戦争に勝者はいない」「戦争には喜びなど存在しない」というメッセージを込めたそうなのですが(【インタビュー】『ミッドウェイ』ローランド・エメリッヒ監督「戦争に勝者など存在しない」 ─ 日米海戦を中立的に撮り分ける意義とは | THE RIVER)、どうもそうは見えなかったというのが正直なところでした。まず中立ということでは、明らかに米軍側のほうがパーソナルまで描かれている。軍人ではない時間、夫であり父である時間が描かれている。そして何より米軍側は勝利に向かっているので、ハッピーエンドの香りがある。
日本が作る太平洋戦争の映画というのは敗戦を終着地点として進んでいくため、どんどん苦い味わいになってゆくんですよね。戦況が悪くなり、特攻隊がばんばん飛ばされ、原爆を落とされ、ラジオの前でうなだれて終わる。みなまで描かなくても、どうやっても戦争の愚かさに行き着くのですけども。対する本作はハリウッド調の音楽に乗せて、この人はその後こんな栄誉にあずかりましたよ、戦争のヒーローになりましたよ、みたいな感じに着地しちゃうのがどうも違和感で(なお日本側はみんな死んじゃうんで、申し訳程度の山本五十六しか出てきません)。なんなら戦意高揚映画を見せられているような感覚だったんですけどさすがにそれはエメリッヒに悪いよね、とか思いつつ……。
あとはまあ、とにかく居心地の悪い映画です。ある程度仕方ないのだろうけど、全校集会で先生に叱られてるような感じがする。1970年に日米合作で作られた『トラ・トラ・トラ!』が意外にもきわめてフラットで居心地の悪くない映画だった(それもそれで気味が悪いですが)ことを考えると、50年後にこれか……、と複雑な気持ちになりました。
そんな感じで、いまいち好きになれなかった理由は「中立を謳っておきながら古臭いハリウッド調の演出でハッピーエンドじみたものへ向かっていく違和感」でございました。わたしが日本製の太平洋戦争映画に馴染みすぎてしまったというのもあるとは思うんですけども。ヒリついた『軍艦マーチ』と『海ゆかば』が欲しくなってしまうのだ。
(2020年161本目/劇場鑑賞)