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主に映画の感想文を書いています

吉田大八監督の最新作『敵』好きすぎるかも、な話。

池袋シネマ・ロサにて『敵』を観ました。原作は筒井康隆、吉田大八監督の最新作になります。ものすごい好きでした。今のところ2025年暫定トップです(1月の暫定トップほど当てにならないものはない、が、しかし)。

妻亡き後、残りの日々を丁寧に暮らす老境の主人公・儀助。人生のXデーを決めて、遺言書も入念に準備しながら前向きな余生を送っています。そんな主人公のもとに忍び寄る「敵」。夢かうつつか、翻弄されまくる彼の生活——。


『敵』ポスタービジュアル
『敵』ポスタービジュアル

好きポイントは山ほどあるのですが、誰もが言うところで、まずはモノクロームの映像が素晴らしい。わけても食べ物描写が罪深すぎる。同日公開の『劇場版 孤独のグルメ』と戦ったらこちらに軍配が上がる可能性すらある(こちらも孤独のグルメだし)。さまざま登場するなかで、もう極め付けだったのは「ひとり焼き鳥」ですね。レバーを牛乳に浸すところから味は確約されてるし、うわ、それを食卓でそう焼くんだ、という衝撃と羨望。彩度0な世界で人の想像力はここまでフル稼働するんだなと驚かされました。

あの家もいいですよね。築年齢は高いけれど、台所やお風呂場など水回りはしっかりリフォームされていて。IHになっているのも安全でよい。食卓のある部屋は音声ガイドで「食堂」と言っていてちょっと新鮮に思ったのですが、あとから原作を読んだらなるほど、原作で「食堂」となっているんですね。小津みすらある住環境のなかで突如ボーンと鳴るMacの起動音も一瞬ミスマッチを感じて楽しいし、そこの音声ガイドでちゃんと「Mac」と言ってくれてるのも嬉しいところ(往年のりんご使いとして)。

小津みと言えば、『光る君へ』の明子こと瀧内公美さん演じる教え子の初登場シーン、あまりにも「原節子み」がないかいと思っていたら本当にそのイメージで演出されていたようで*1。いや、すごかったです、あの原節子み。ブラウスの袖具合とか。モノクロとの相性もとんでもない。加えて安定の河合優実さんもいらっしゃるのですからすごい布陣です。消えちゃう感じもいいよなあ。ジャンル的には『箱男』とか『春画先生』あたりと並べて語ることもできそうですが、わたしは本作が抜きん出て好み。

ちょっとした会話も気が利いています。うろ覚えだけど、松尾諭さんとのこれ、好き。——「バードウォッチングですか?」「むしろ裏窓だね、ヒッチコック的に言うと。鳥よりも」——ベタだけどベタにならず、うまいなあと思って。原作では『裏窓』は出てましたが、『鳥』と絡めた小粋な会話はなかったはずなので映画化にあたってのお見事なアレンジですね(絶賛読み途中ゆえ、出てきてたらすみません)。

短い出演シーンで場と肉をかっさらっていくカトウシンスケさんもよかったし(鍋パクパクモリモリ食べてるとこ、藤子F先生タッチで脳内変換された)、河合優実さんと並ぶ昭和顔だなあつくづく!とあらためて思わされた中島歩さんもやはり短い出演ながら存在感抜群。中島歩さんを深町くんにして『時をかける少女』大林版リメイクしてほしい、と急に思った。

ううむ、きりがない! 好きな人はものすごく好きなやつかと存じます。おすすめいたします。