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映画「トラ・トラ・トラ!(1970)」雑感|真珠湾攻撃を日米共同製作で描いた作品

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1970年の映画トラ・トラ・トラ!を観ました。タイトルは「ワレ奇襲ニ成功セリ」を意味する暗号電信文。第二次世界大戦において日米開戦の引き金となった真珠湾攻撃を描いた作品ですが、てっきりアメリカ映画だと思っていたので日米合作であることに驚きました。

米国側の監督はリチャード・フライシャー、日本側は舛田利雄監督と深作欣二監督のダブルクレジットで、主要キャストに山村聰さん三橋達也さん東野英治郎さんなど。もともと日本側は黒澤明監督(!)でスタートしたものの、紆余曲折あってこの布陣に落ち着いたそうです(Wikipediaが詳しいです)。

描かれる範囲は、山本五十六連合艦隊司令長官に着任するところから、真珠湾攻撃作戦の終了まで。日米でそれぞれ撮影したものを最終的な編集で一本の映画にまとめるというコラボスタイルが非常にうまくいっており、「ハリウッド映画が描く日本」みたいなトンチキ事案は一切発生しません(せいぜい、劇中で国が切り替わる際にやたらオリエンタルな音が鳴るくらい)。

ここ最近立て続けに太平洋戦争ものの日本映画を観てきて、日本視点での真珠湾攻撃は何度も見ていました。前述のとおり本作の日本パートは日本が製作しているため、そこだけ観ていると日本の戦争映画と変わりありませんが、そのぶんいざ真珠湾攻撃作戦開始となった際に「逆視点」があるのは非常にインパクト大です。B-29の下で『この世界の片隅に』のすずさんたちが生きているのと同じように、大量の零戦が奇襲をかけた真珠湾基地は円谷特撮のミニチュアではないのです。

ただ、もっと居心地の悪い映画を覚悟していたのでその意味ではやや拍子抜けしました。本作が扱っているのはアメリカからすれば忌むべき歴史そのものなわけで、でもそれにしては意外とフラット(というのが適切な表現かは分からない)な描き方だったように感じます。むしろ米国側が撮影を担当した零戦の発艦シーンなど息を呑むような美しさで撮られていたりして、不思議な映画だなと思いました。

なおそのシーンはまさに真珠湾へ向けて飛び立っていく場面。まだ暗い未明の時間帯から、徐々に夜が明けて美しい朝焼けとなっていくなかを次々と零戦が発艦していくのですが、なかなかどうして類を見ないほどの「高揚感」に溢れており、戦争が青春だったというのはこういうことか、と腑に落ちてしまいます。軍国教育を受けて育った当時の日本人の感覚というのが、続けざまに戦争映画を観ていると多少は想像できるようになってきました。まあ繰り返し書いておくとこれは米国側製作のシーンなんですけど。どうしてこんな美しく撮ってくれたのかしら……。

また、同じく米国側が製作した航空アクションのクオリティも目を見張るものがあります。多くのシーンでは「パッと見、零戦」な改造機を実際に飛ばしているようで、円谷特撮のややチープな感じに慣れてしまった身からするととてつもなく重厚でリアルです。地表すれすれに低空飛行する零戦から掃射を受けた真珠湾基地の戦闘機が連鎖的に大破していく様などはちょっと見たこともないような壊れ方のバリエーション。もう少し後になるとCGや視覚効果も多用されるようになってしまうはずですから、1970年っていい時期だったのかもしれません。とにかくすごい映像が見れます。

日本パートはこれまでの太平洋戦争映画でお馴染みの場面がいっぱいですが、ところどころで違いも見受けられました。例えば甲板で白昼堂々と戦略会議をしていたり、真珠湾の立体模型が登場したり、「反転帰投できない奴は辞表を出せ!」のくだりが艦内の食堂にて着席でおこなわれていたり、食堂で優雅に会食をするシーンがあったり、といった具合です。会議室と仏頂面だらけの地味な画どうにかならない?? とでも言われたのでしょうか。

新鮮な描写もありました。ラッパ隊が出てくることはあっても吹奏楽編成の音楽隊はこれまであまり見なかったように思いますが、本作には何度か登場します。上官が若いパイロットたちと敵機・敵艦のシルエットクイズで盛り上がっているシーンもおもしろかったです。大本営発表で公表される戦果は、前線のパイロットたちから集めた「目視の・あやふやな」情報を元にしていたといいます。なるほど、と納得してしまうシーンです。

最近読んでいるおもしろい本。


真珠湾攻撃とその過程を描いた映画でこれまで何度も見てきた場面をより多角的に、より高い解像度で見ることのできる本作。日本の暗号電信はアメリカでどのように傍受されていたか、ワシントンでの和平交渉や当時のアメリカの指揮系統はどんな感じだったのか、ミニチュアでばかり見ていた真珠湾基地はその日どういう空気感だったのか。等々、非常に興味深く鑑賞しました。

(2020年148本目/U-NEXT)