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本多猪四郎×円谷英二の戦争映画「太平洋の鷲」「さらばラバウル」雑感|米空軍提供の記録映像も見られる作品

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毎年8月を意識的に戦争映画月間にしているというライムスター宇多丸さんに倣い、今月中はとことん戦争映画を観ていきます。さて今回観たのは1953年の『太平洋の鷲』、1954年の『さらばラバウルです。どちらも本多猪四郎監督×円谷特撮のタッグで撮られており、『ゴジラ(1954)』直前のフィルモグラフィーとなっています。

「太平洋の鷲(1953)」

太平洋の鷲

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  • 発売日: 2014/07/01
  • メディア: Prime Video
上層部視点で作られた戦後最初の戦争映画だそうで、言われてみればここのところ観てきた戦争映画は、いずれも戦後間もないとはいえ1960年代以降のものばかり。1950年代前半のものを観るのは確かに初めてです。

本作で描かれているのは太平洋戦争の開戦から山本五十六の死まで、という定番の範囲ですが、「過ちから戦争の愚かさを学べ」のコンセプトを前面に出している映画なので、真珠湾攻撃はそこそこにミッドウェイ海戦のほうがじっくり描かれます。他にも、これまで観てきた同様の作品と比べてみると結構違いがあるなと感じました。

まず思ったのは、妙に特撮がリアルだぞ、っていうかこれ実際の映像じゃないか?? という点。じつは冒頭で「米空軍から記録映像お借りしてます」と断り書きが入っており、どうやら「実際の映像」が含まれているのは間違いなさそうです。さらに調べてみると、戦時中の戦意高揚映画から流用しているシーンも多いようで、それはどういうことかといえば「実機で撮れる」っていうことなんですよね。妙にリアルだと思った空中アクションのシーンなどはつまり本物の戦闘機を使った撮影なのでしょう。

また真珠湾攻撃のシーンも非常によくできた特撮なのですが、こちらはかの有名な戦意高揚映画『ハワイ・マレー沖海戦(1942)』から流用しているようです。のちに多く流用されるカラー版の真珠湾攻撃特撮も悪くはないですが、特撮はやはり白黒のほうがリアルに見えます(GHQが記録映像と見まごうほどだったとか)。戦争映画がカラー主流になってしまったことで、かつての特撮や実機アクション、記録映像が使えなくなってしまったのはちょっと勿体無い。

本作で山本五十六を演じているのは大河内傳次郎。最近立て続けに見ていた三船敏郎山本五十六と比べると、こちらのほうがフラットな人物像でいいなと思いました。三船敏郎はどうやっても三船敏郎だし、どうしてもヒロイックに見えてしまう。今でいうキムタクみたいなものかなと。なお三船敏郎は本作にも端役で出演していますが、座ってるだけでミフネなもんだから笑ってしまいます。

あとそうそう、音楽が古関裕而で「おっ」となりました。朝ドラ『エール』主人公のモデルとなっている作曲家で、以前関連本も読んだあの古関裕而です。本まで読んでおきながら軍歌以外の古関メロディを全く聴いたことがなかったのですが、もともと西洋音楽を志していたのも納得というか、あまり戦争映画らしくない、当時の日本映画らしくない劇伴が付いているように感じます。過剰に音楽で盛り上げず、緊張感漂うシーンでは無音を貫いている(これは本多猪四郎監督のさじ加減?)のも印象的です。

「さらばラバウル(1954)」

さらばラバウル

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こちらはミッドウェイ敗北と山本五十六の死以後、ラバウルの海軍基地を舞台とした作品。冷徹な鬼隊長が徐々に心を溶かしていく物語で、従軍看護婦など女性の出演者も多く、『太平洋の鷲』と比べてドラマ性や反戦のメッセージがより強く感じられる映画となっています。

池部良さん演じる通称「鬼隊長」の航空隊大尉は、隊員たちが酒や女で現実から逃げることを嫌い、ハイリスクな地点に不時着した機には救援を出さないなど、人情のかけらもないような人物として登場。しかし「鬼隊長なんて言ってもやっぱり人間」です。捕虜にした米軍パイロットに「人間の生命を軽視するような国家が戦争に勝てるわけがない」とずばり言われてしまったあたりから行動を改め、血も涙もある隊長へと変化していきます。

と書くと都合のいい陳腐なお話に思えるのですが、そうではなく「心の奥に封じ込めていたものが溢れ出てくる」ようにしっかり見えるのは池部良さん*1の魅力によるものでしょう。池部良さんは先日観た『潜水艦イ-57降伏せず(1959)』の艦長役もとても印象的でした。戦時下において人の心を失わない冷静な上官と、そのビターな結末。共通するところがあります。

岡田茉莉子さん演じる従軍看護婦もまた、感情表現は控えめながら眼差しの奥から溢れ出るものが印象的な役柄でした。何も言わず静かに通わせる戦時下ならではのラブロマンス。もし生きて帰ったら魔法も解けてしまうんだろうなと、『秋刀魚の味(1962)』の笠智衆さんなどを思い浮かべながら見ていましたが。

本多猪四郎監督作品というところで言うと、『太平洋の鷲』も本作も、「窓の外」の描き方が特徴的だなと思いました。『太平洋の鷲』では首相官邸の窓の外が桜から雪景色まで季節性豊かに時間の流れを描きます。本作では戦闘機の窓の外に雨を降らせていたりします。『ゴジラ』以外の本多作品をよく知りませんが、「窓の外」にこだわりのある監督だったのかもしれません。

また、本作でも米空軍提供の記録映像が多く使われています。いくら円谷特撮が優れているといえ、当然ながら「リアル」に勝るリアリティはありません。『太平洋の鷲』でも感じたのですが、記録映像に映る空は白黒なのに青く見えます。よく晴れた日、という空気感が伝わってきます。これもやはり特撮の背景画からは得られない印象で、ぞっとしました。この2作品、太平洋戦争の実際の記録映像が見られるという点だけでも非常におすすめできます。

(2020年139・140本目/PrimeVideo)

太平洋の鷲  東宝DVD名作セレクション

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さらばラバウル [DVD]

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  • 発売日: 2005/07/22
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*1:三船敏郎は呼び捨てにしてしまい、池部良さんは敬称を付けたくなる、なんかそういうのありませんか。「三船敏郎さん」より「三船敏郎」のほうが格好良く見えるし、池部良さんの場合はその逆パターン。一応ここでは自分の感覚に従っております(笑)