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主に映画の感想文を書いています

映画『ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。(2026)』感想

ライムスター宇多丸さんがTBSラジオでずっと続けている映画時評コーナー、現在は「アフター6ジャンクション2」内の「ムービーウォッチメン」。ガチャガチャで作品を決めて翌週の放送で評論するというランダム性が特徴だが、去年からはわたしも「ガチャで当たった作品は全部観る」ことにしていて、下記ページに載っている50本をコンプリートした。

既に観ている作品が当たることもあるし、遅かれ早かれ観たかった話題作が当たることもあるが、シンプルに興味の向いていない作品が当たってしまうこともある。他にも観たい映画が溜まっているなかで、放送日までには観なければならないというマイルールは時に厳しい。このあいだ雨の中わりと早起きして『おさるのベン』を観に行った際は、リスナーの鑑だなあと池袋の道を急ぎながら自分を讃えた。結果、ただのお猿ホラーだと思っていた映画に『CODA あいのうた』のトロイ・コッツァーが出てきて「えええ」となったりもするので、ガチャシステムの恩恵は大きい(ただのお猿ホラーに変わりはないのだけど)。

前置きが長くなったが、この『ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。』はまさにガチャありがとうな一本だった(ちなみに今年のガチャ15本目だ)。監督・田口トモロヲ×脚本・宮藤官九郎のタッグで1980年前後ぐらいのパンクロックシーンを描く、実話ベースの伝記映画。86年生まれのわたしはまず世代的に全く違うし、音楽の趣味的にも全く通っていない、興味関心がないジャンルと言ってしまってもいい。よって、ガチャに当たらなければ観なかったはず。クドカンも、『ふてほど』のインティマシー・コーディネーターの件などでだいぶ心が離れてしまっていたし、この布陣だから観る!とはなりにくい。でも『サンセット・サンライズ』はすごくよかったな。こっちを覚えておくべきだったな。

本作はパンクロッカー(という呼び方が適切なのかも分からない、すみません)たちの物語だが、主人公は控えめなカメラマンの男ユーイチ。劇中でことあるごとに「まともな人」と評される彼は地引雄一氏という実在の人物がモデルになっており、写真家でありながらのちに数々の伝説的バンドたちのマネージャーとなって、なんならこの映画の原作「ストリート・キングダム」を書いた。映画の冒頭、学園祭で猥褻物陳列および臓物散布および放尿などのトンデモパフォーマンスを繰り広げるバンドに困惑の表情を見せながら、ユーイチはスクリーンを超えてこちらに語りかけ、時間を巻き戻していく。わたしは放尿バンドにドン引きしていたが、それ以上に「こちらへ語りかけてくるやつ」が好きなので一瞬で絆された。

以降、今で言うインディーズパンクロックシーンの、協調性のない個性派揃いの中でユーイチは不思議と皆に信用され、ムーブメントの影の立役者となっていく。出てくるバンドたちや人物が全て仮名なことも分からないくらいのわたしだけれど、地引氏が撮影したと思われる実際の写真や映像がちょいちょい挟まれるので、知らない歴史を感じながら観ることができた。そっくり!というわけではない再現度のものもあり、そこがまたリアルでよかった。キャストもとても魅力的で、思い入れのない歴史に入り込ませてくれるだけの説得力があった。手触りとしては、吉祥寺バウスシアターの歴史を描いた映画『BAUS 映画から船出した映画館』などとも、知らない歴史という点含めて近かったかもしれない(大友良英さんが音楽を担当しているのも共通点)。

終盤、この映画を象徴するような「自分の踊り」というワードが登場する。象徴するような、というか、わたし的には「うわ、めちゃ刺さる言葉あった」の気持ちで感想の第一声(ツイート的なるもの)に入れたのだが、誰の感想を見ても大体このワードが含まれているので、概ね全員に刺さる超普遍的メッセージだったらしい。まあ、当然か。それはそうと「自分の踊り」って本当に難しくて、このブログひとつとっても2018年のスタート以降迷走しまくりである。「自分の感想」を書きたいと思っているものの、書き始めると結局なんだか型にはまってしまう。映画の序盤、初めて入ったライブハウスでユーイチが思わずカメラを向けた、ゆらゆらと立ち上がり身を揺らすオーディエンスのように、ゆらゆらと立ち上がる感想を目指したい。そういうタイプではないのかもしれないけれど、憧れとして。