TBSラジオ「アフター6ジャンクション」にて、時代劇研究家の春日太一さんによる「元特攻隊の脚本家・須崎勝弥が描いた『日本の戦争映画』 特集」という企画が放送されていました(2020年7月22日20時台)。そのなかで春日さんが紹介していた3本の太平洋戦争映画『太平洋の翼』『太平洋奇跡の作戦 キスカ』『連合艦隊』を、せっかく“我慢の連休”とやらで時間があったため一気に観てみました。
特集はSpotify等で聴くことができますので、「元特攻隊の脚本家・須崎勝弥さん」についての詳細はここでは省きます。また、ここで挙げる3作はいずれもPrimeVideoで視聴可能です(要課金・各400円。3本観ても「午前十時の映画祭」1本分!)。
「太平洋の翼(1963/松林宗恵監督)」
長引く戦況で腕のあるパイロットが減ってきており、もはや特攻あるのみ、な風潮の日本軍。しかし三船敏郎演じる航空隊の中佐は「そんな軽々しく玉砕なんて言うな!」と猛反対。硫黄島やフィリピンなどに点在する優秀なパイロットに招集をかけ、命を犠牲にせず成果も出せる精鋭部隊を結成します。……とは言ったものの、空も海も厳戒態勢ななかでみんな無事集まれるのか?? ってなところから始まるお話。この3作のなかでは一番明るい、仁義と笑いに満ちた作品でした。三船敏郎、加山雄三、夏木陽介、佐藤允、渥美清、志村喬といった超豪華キャストによるところも大きいのでしょう。志村喬さんが上司にいるとなんか安心しちゃうし、佐藤允さんと渥美清さんのムードメーカーっぷりは最高! 佐藤允さんって笑った顔がシナトラっぽいですね、ファンになっちゃいました。渥美さんの遠隔着陸、超イケてたなあ。
アトロクの特集では日比アナが「エンドゲーム」「アッセンブル」なんてワードも出していましたが、確かに前半のアッセンブルな内容とコメディ感は『アベンジャーズ/エンドゲーム(2019)』に通じるところがあると思います。ただ、最終的な着地もまた『エンドゲーム』同様にビターです。
「太平洋奇跡の作戦 キスカ(1965/丸山誠治監督)」
こーれは、めちゃくちゃ面白かったです。イチオシです。こちらも特集内での表現を借りれば日本版『ダンケルク』と言える作品で、アリューシャン列島のキスカ島というところに取り残されてもはや玉砕あるのみ、な状況に置かれた5,000名以上の隊員を全員救出した奇跡の実話「キスカ島撤退作戦」を描いたもの。他の2作品と違って特攻隊は出てこないのですが、代わりに「待つことも闘いのうち」「帰ればまた来ることができる」というメッセージが込められた、つまりは「死んだら意味ないんだよ」を力説していることには変わりのない作品になっています。かつ、ハッピーエンド! 腰抜け呼ばわりされようとも頑としてただひたすら好機を待つ司令官・三船敏郎の姿が超絶かっこいいです(まあ三船敏郎だからとても腰抜けだなんて思えないんですけどね)。
また本作は円谷英二さんによる特撮も素晴らしい! 『太平洋の翼』も円谷さんなのですが、あちらはカラーなのに対しこちらは白黒なことでリアリティと映像美が段違いでした。濃霧の中を艦隊がじりじりと進む、ただそれだけの画をものすごい重量感と説得力で魅せてくれます。
「連合艦隊(1981/松林宗恵監督)」
一気に飛んで80年代の作品ですが、監督は『太平洋の翼』と同じく松林宗恵さんです。じつは1963年の『太平洋の翼』以降、思うところがあって戦争映画を撮っていなかったのだそう。でも依頼と天啓が重なって撮ることにした、それが本作。『太平洋の翼』と比べるとだいぶずっしり重い内容になっています。扱っている題材は真珠湾攻撃から戦艦大和の沈没までと幅広く、太平洋戦争のダイジェスト的に観ることができるもよう。恥ずかしながらわたし自身そんなに太平洋戦争のことを知らないので、「そうなんだ」というゼロからのスタート感があります。
後半では戦艦大和がメインに据えられますが、13メートルもあるミニチュア(?)を使って撮影されたということでその迫力は確かにすごい! 父親に『宇宙戦艦ヤマト』を散々見せられて育ったわたしは、やっぱ大和かっこいいなあと久しぶりに思うのでした。特に正面から望遠で捉えた姿がたまらない。ヤマトといえば、本作のクライマックスではハネケンこと羽田健太郎さんのピアノをバックに大和が沈んでいくのです。『宇宙戦艦ヤマト』も宮川泰×羽田健太郎の哀愁が最大の演出だった作品。あらためて、大和とハネケンのなんと合うことよ……、と敬礼をしたくなりました。
以上が番組で紹介されていた3作品ですが、単純に映画として面白く&おもしろく、フィクションな部分もあるでしょうけども勉強にもなり、これを機にこういう日本の戦争映画をもっと観てみたいと思える作品たちでした。教科書の文字だとピンとこなくても、そこに三船敏郎がいたりすると一気に近く感じられるのですよね。気の進まない勉強につくづく映画はもってこいです。
そしてそんなわたしにうってつけの、春日太一さんの新著『日本の戦争映画』。模範的なリスナーなので早速買いました。まだ部分的にしか読んでいませんが(締めに大林監督の名前があって嬉しい)、「戦後に日本で作られた戦争映画の変遷を追った一冊」ということでちゃんと読むのが楽しみです。なんでもコロナ禍に80本くらい戦争映画を一気見して書かれた本だとか。なんて素敵な有効活用……!