宝塚の沼へようこそされている記録〈第一段階:つま先〜足首〉
手を出すまいと思っていた宝塚。しかし己を幸せにしてくれるものはできる限り多いほうがいい昨今。緊急事態だ、やむを得まい。そんなわけで早くも4公演くらい(映像で)観ています、もう手遅れでは? という第一段階の記録です。
星組公演「Killer Rouge(キラールージュ)」
帰ってきてWOWOWをつけたらちょうど始まったところだった、という事故案件。どうやら副音声があることに気付き、紅ゆずるさん&綺咲愛里さんのおしゃべりをおともにすっかり楽しく最後まで観てしまいました。演目を楽しんでいたというよりも、中の人めっちゃ喋るやん、めっちゃおもろいやん(紅ゆずるさんはひときわ面白い方だったらしい)ってのを楽しんでいた印象のほうが強いです。
おふたりとも卒業された後ということでしたが、宝塚がいかに素晴らしい世界であるかを繰り返し熱弁しておられたのも印象的です。ショービズ世界の内幕なんて泥まみれに違いないと思い込んでいたわたしにとって、その意外性が興味につながりました。
月組公演「BADDY(バッディ)-悪党(ヤツ)は月からやって来る-」
宝塚ファンの人をフォローした記憶はないのにいつの間にか「そちら側」の人が増えていた我がTwitterのタイムライン。一瞬つま先をつけただけで沼の底から手がいくつも伸びてきました。こわいこわい。そういえばちょっと前にみんな「BADDY」のタイトルを連呼していたような頃があったな、ということで今度はU-NEXT(知らないうちに宝塚作品がいくつも入っておりました)にてこちらを鑑賞。
これは超絶ぶっ飛びの衝撃作で、宝塚のEテレかな?って感じでしたが、ぶっ飛んだ作品が大好きなわたしは(大林宣彦監督にハマったきっかけ『HOUSE/ハウス』と同じベクトルで)見事にやられてしまいました。伝統的なイメージのある宝塚が、その枠から大きくはみ出たことをやっている、そのギャップに(やはり意外性というやつに)惚れちゃいました。キャストでは「怒っている」愛希れいかさんが好きでしたね。
花組公演「CASANOVA」
フォロワーさんからのおすすめを2票いただき、再びWOWOWにて鑑賞。今回の副音声は明日海りおさん&仙名彩世さん。紅ゆずるさんのドッカンドッカンしたおもしろに比べたら静かなものでしたが、やはり宝塚という世界の素晴らしさを熱弁する様、それから宝塚特有の「褒め合い」がとても心地よく、いいなあという気持ちを強めました。
演目そのもので衝撃だったのは、明日海りおさん演じる主人公カサノヴァ(めっちゃプレイボーイ設定)の超絶イケメンっぷりです。うわ、男役さんってこんなにかっこいいんだと唖然。男役に惚れることはないだろうと思っていたので、これは奥深いぞ……とあらためて怖くなりました。宝塚のショウを観ていると「この世に男なんていらんのでは」と本気で思えてきます(わたしは男です)。
花組公演「ポーの一族」
『CASANOVA』で明日海りおさんと仙名彩世さんのコンビを気に入ったわたし。次に手を出すべき作品はこれと決まっていました。じつは以前、一度だけ宝塚に手を出そうとしてみたことがあり、それがこれでした。というのも子供の頃から萩尾望都作品の大ファンで、『ポー』や『トーマ』で育っていたからです。宝塚が『ポー』をやるんなら観ないわけには! そう思って一般発売から挑みましたが、まあ「観ないわけには!」と思う人の数を想像すれば玉砕するのは当然の結果です。確かライブビューイングすら取り損ねたんだったかなあ。とにかく一度、逃していたわけです。
ついに観れた「宝塚の『ポー』」は、いやはや『ポー』そのものでした。思えば、萩尾作品の中性的なキャラクターと仰々しさを具現化する手段は宝塚しかないのでは。ポーツネル男爵一家がホテルの階段を降りてくるシーンの「この世のものではない」佇まいとか、漫画そのままで感動しました(と思って原作の該当シーンを見返すと記憶ほどオーラは放っていなかったのですが、トータルの印象ですね。目に生気のこもってないようなあれですね)。
無垢な少年時代から低体温バンパネラ時代までのエドガーをいずれも違和感なく演じた明日海りおさんのとんでもなさは言わずもがな、今回非常に気に入ってしまったのは仙名彩世さんのシーラ夫人でした。もう、完璧ですよ。完璧。細かく説明できないけれど完璧。何かを超越した美しさ、温かさ、冷たさ。仙名さんの歌唱力の高さもあいまって、最高、完璧でした。あれを肉眼で見たらきっと浮世に戻ってこれなくなるから、今でよかった。退団された方ばかりなのが寂しい反面ありがたいというか。みなさん現役だったらちょっともう、抑えられてないかも。
という感じで、本命作品はあからさまに「つま先」以上の引き込み力があったようです。足首までは確実にいってますね。まだ見ぬ己の今後に期待です。
宝塚の公演を見ていると、わたしが近ごろ心酔してやまない映画作家・大林宣彦監督の作品と共通したものを感じます。「宝塚」「大林映画」という枠組みを強調していること。作り物であり、演者はあくまで演者であることを意識させること。ときに笑ってしまうほど仰々しくあること。しかし圧倒的な感動をもたらすこと。2020年、そんなエンタメばかりに引き寄せられております。
第二段階へ続く、のかどうか。ちなみに冒頭の写真は、日比谷に行くたびいつも撮ってしまう東京宝塚劇場ビルヂングです。好きなんです。これは3日前の撮りたてほやほや。いつか入りたい。