ジュディ・ガーランドの伝記映画『ジュディ 虹の彼方に』。楽しみにしていた作品です。新型コロナウイルス感染拡大に伴う公開延期をすれすれで免れてくれたので初日に観ることができました。主演のレネー・ゼルウィガーがアカデミー賞で主演女優賞を獲っていますが、そういえば今年のオスカー獲得作で延期になってしまったのは『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』だけでしょうか。惜しい…!
概要
『オズの魔法使(1939)』ドロシー役への抜擢で、当時17歳にして一躍スターダムへ駆け上がった女優ジュディ・ガーランド。しかし彼女はその栄光の陰で心身ともにハリウッドの餌食となっていた。47歳という若さでこの世を去った彼女の晩年を生々しく描いた作品。
雑感
エンドロール中、映画館の椅子に背中が張り付いてしまうような作品、たまにありますが本作もそれでした。アカデミー賞作品の公開初日にも関わらずおそらくはコロナウイルスの影響でかなり人のまばらな客席、しかしすすり泣くような音がいくつも聞こえてきました(花粉かも)。
レニー・ゼルウィガーのインタビューによれば「ジュディを“過去の犠牲者”としては描きたくない」という思いのもと作られた映画とのことですが、正直かなりつらい映画だったと思います。悲劇的な側面を持った近年の伝記映画、例えば『ボヘミアン・ラプソディ(2018)』や『ロケットマン(2019)』よりもだいぶ救いがないと、個人的には思う…。性別の違いによるところもあるのかもしれません。
そういう意味では、ジャニス・ジョプリンをモデルにしたフィクション作品『ローズ(1979)』を強く連想しました。特に終盤、電話ボックスのシーンなどはまさしく『ローズ』じゃないでしょうか。
- 発売日: 2019/02/08
- メディア: Blu-ray
かなりエグいなと思った点として、実質の「ハリウッド告発映画」であることが挙げられます。長女ライザ・ミネリが「母はハリウッドに殺された」と言っていることは有名ですが、本作はその実情を生々しく描写しています。MGMの社長ルイス・B・メイヤーの各種ハラスメント、当時当たり前のように使われていたという「気付け薬」の覚醒剤、過剰な食事制限に長時間労働etc...、ジュディやマリリン・モンローなどのWikipediaで読んではいても、実際に子役*1を使って映像化されると非常にショッキングです。これがよくオスカーを獲れたなと。
また、後半どんどん落ちぶれていく老年ジュディ*2が、単純にジュディ・ガーランド好きとしてつらい。そう、わたしはジュディがとても好きなんですよ。だからあんまり見たくない光景だった。こんな映像をわざわざ作ること子供達もよく許可したものだな、と思ったらライザ・ミネリは母に関するノンフィクション映画を認めてないんですね。こういう場合、板挟みのレネー・ゼルウィガーがつらいよな。
そんなわけで「いい映画」とは一口に言えないけども、非常に印象的な映画ではありました。純粋に楽しめたのは主に子役時代のシーンですかね。冒頭、メイヤーに説得されて出て行った先がおそらくは「虹の彼方に」を歌うシーンのセットであるとか─
子役時代の相棒ミッキー・ルーニーが予想通り登場してくるとか─
いずれも興奮いたしました。そんなに多くの作品を観ているわけではないので分からなかったのですが、あのダイナーのシーンとか、プールのシーンも全部元ネタがあるんでしょうかね。俄然、観てみたくなる。
ミッキー・ルーニーは1930〜40年代のMGM作品に馴染みのある人なら言わずもがなの人物ですが、そのへん知らないとよく分からないかもですね。芦田愛菜さまと鈴木福くんみたいなものです。本作ではジュディの5番目の夫である「ミッキー」・ディーンズという人物が登場してくるので余計分からなくなっているおそれがあります。
なお本作にはベースとなった『End of the RAINBOW』という舞台があって、ミッキー・ディーンズが深く関わってくる脚本などはそこから踏襲されているようです。この舞台、日本でも上演されていたようですが知りませんでした。ドラマ『SMASH』の劇中劇「Bombshell(マリリン・モンローの晩年を描いたミュージカル)」はこの作品なんかもイメージしたものだったりするんでしょうか。
ジュディ・ガーランドのおすすめ映画3選
そんなに観ているわけではありませんがいくつかおすすめを。
「スタア誕生(1954)」
2018年に鑑賞(感想記事)して以来、未だにものすごく印象に残っている映画です。この物語は何度もリメイクされており、レディー・ガガ主演の『アリー/スター誕生(2018)』が最新のもの。高評価だったと思われるガガ版ですが、個人的にはこのジュディ・ガーランド版(なお、こちらもリメイク)があまりにも良かったので完全に霞んで見えてしまいました。この映画、実質ジュディの伝記映画のような見方ができます。といっても劇中でジュディ演じる主人公は全く落ちぶれることなく、逆に彼女の夫がどんどん堕落していくのですが、その姿が皮肉にもまるでジュディの鏡写しのようなのです。ジュディの素晴らしいパフォーマンス(本当に、歌唱も何もかも素晴らしい)を堪能しつつ、彼女の人生も見ることができてしまう、なんとも独特な作品です。長尺ではありますが、非常におすすめです。
「イースター・パレード(1948)」
フレッド・アステアとの共演作。なんといってもアーヴィング・バーリンの名曲「イースター・パレード」が聴ける、それだけで垂涎です。わたしはいつかこれを生で聴くためだけにNYのイースター・パレードを訪れたい。先日『ジョジョ・ラビット(2019)』でのスカーレット・ヨハンソンがこれを彷彿とさせるなあなんて書いた浮浪者ダンスが見れるのも本作。
アステア映画なのでアステアの見どころも山盛り。タップはもちろん、序盤のドラム芸は70年以上経った今でも単純に「すげえ」と息を呑んでしまいます。アステア映画の入口としてもおすすめです!
「オズの魔法使(1939)」
言わずもがなの作品。1939年公開というかなり古い映画ですが、なんとカラーです(ちなみに同年の有名なカラー作品には『風と共に去りぬ』がありますね)。モノクロで始まったかと思えば、オズの国への扉を開けた瞬間カラーが広がる!という演出がとても印象的でした。ここだけでも観る価値ありです。大名曲「虹の彼方に」はジュディ本人の歌唱です。吹き替えも多かったこの時代、17歳の若さでこの歌唱力を披露したことが、特別ルックスに秀でていたわけではなかった彼女をスターダムへ押し上げました。映画的にも音楽的にも文化的にも、様々な面でのスタンダードである本作、未見でしたら一度はぜひどうぞ(PrimeVideoでは20/03/14で会員特典から一旦外れるようですよ)。
というわけでぜひこの機会に『ジュディ 虹の彼方に』とあわせて往年の名作もお楽しみくださいませ。
(2020年36本目/劇場鑑賞)
- 発売日: 2020/09/02
- メディア: Blu-ray
*1:とはいえ、演じているダーシー・ショウさんは『オズ』のジュディと同じく17歳ですが。彼女すごくよかったです。彼女でリメイクした『オズ』が観てみたい。
*2:と言ってもまだ46か47、女優業であればなおのこと本来そこまで老け込んでいる年齢ではないはず。実年齢よりも老け込ませて見せるレネー・ゼルウィガーの演技はすごいです。