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主に映画の感想文を書いています

本の感想「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発(門田隆将 著)」

映画『Fukushima 50(2020)』の原作本「死の淵を見た男 吉田昌郎福島第一原発を読みました。東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所の事故と各所の対応について、著者の門田隆将さんが膨大な調査とインタビューをもとにまとめ上げたノンフィクションです。

タイトルになっている吉田昌郎さんとは、映画版で渡辺謙さんが演じた事故当時の現場トップ、福島第一原子力発電所所長。震災から2年4ヶ月後に食道癌で早逝されました。

この本、一番アピールしたいのはその「読みやすさ」です。原発というワードがあるだけでこれはもう難しい本だろうと身構えてしまうところですが、いざ読み始めてみると全500ページ(文庫版)を2日で、時間でいうと6時間くらいで一気に読みきってしまったのでした。

百聞は一見に如かず、角川のサイトから60ページ分ほど試し読みができるので、ぜひ気軽に開いてみてください。

驚くほどするすると読めてしまう、はず。そして「え、もっと読みたい」となる、はず。ご購入を、どうぞ。

映画原作として

読み進めていくと、ほとんどのエピソードがそのまま映画『Fukushima 50』に活かされていることがわかります。映画版で「ここは演出が強すぎるでしょ」と感じていたようなところも、むしろそんなところこそ細部まで実話だったりして驚かされます。真実は小説より奇なり。ノンフィクションの醍醐味です。

映画に登場する在日米軍のエピソードは原作にない部分ですが、試し読みでも読める「GE村」のくだりは映画劇中のとあるエピソードを補足してくれるので必読でしょう。著者が別件で偶然この土地について調べていたときに震災が発生した、というある種運命的な巡り合わせも印象的でした。そのことが書かれた「はじめに」の7ページで、わたしは早くも心を掴まれました。

また、津波で亡くなった東電若手社員とそのご家族の話や吉田昌郎氏のその後など、映画版では扱われていないエピソードもいくつかあります。こちらはかなり胸の痛む話です。

政府オールスターズ

映画版では福島第一原発元所長の吉田昌郎氏を除いて全員が仮名もしくは役職名のみでの登場(合体キャラになっている人も)となりますが、原作では誰もが実名で登場します。思わず興奮してしまうのは、視点が政府側に移ったとき。菅元首相を筆頭に、海江田、枝野、班目……あの当時を思い出すと、まるでオールスターが一堂に会したような感覚です。リアルタイムで知っている時代を「歴史」として読むのはなんとも不思議でした。

大丈夫なんかいな、と映画版で苦笑してしまった菅首相の描き方。しかし裏の菅首相って本当にあの感じだったんですね。イラ菅…。原発関連の番組などはそんな積極的に見ていなかったので知りませんでした。映画版と同様に首相や東電本店への冷ややかな視線が強めではありますが、とはいえどうにかギリギリで中立のラインは保たれているのがご苦労様ですという感じです。

語弊はあるが「面白い」

最初に書いたように、とにかくこの本は読みやすいです。現場(原発、関連企業、自衛隊etc)、政府(首相、原子力安全委員会委員長の班目氏etc)、地域住民(記者、元町長、東電社員の家族etc)、ありとあらゆる膨大な量のインタビューを資料的というよりも物語的に再構築している著者の手腕。語弊はありますが、文庫版解説にも同じ表現があったので堂々と言います。はっきり言って「面白い」です。

この題材のものがある意味エンタメ的に昇華されてしまっていいのだろうか、というのは映画版でも少し感じた葛藤ですが、いいんだと思います。映画版の感想にも書いたとおりで、「知らない」よりよっぽどいい。知ること、記憶に残すことが重要なのだと思います。映画とあわせてぜひこの本、おすすめしたいです。