「女王陛下のお気に入り(2018)」のヨルゴス・ランティモス監督作品。正式な邦題は「聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア」。
字面だけ見ると「聖なる・鹿殺し」なのかと思ったんですが、The Killing of a Sacred Deer なので「聖なる鹿・殺し」なんですね。声に出して言うとき、どういうイントネーションにしたらいいんだろう。聖↑な↑る↑鹿↑ 殺し↓ かな…。
さておき、ヨルゴス・ランティモス監督作品マラソン、最後です! 観る順番は気分で決めたのでばらばら。いやしかしこれ、最後に取っておいて正解だったかも。だってめちゃくちゃ趣味悪い映画ですもん(笑)
どういう映画か
ホラーですね。PrimeVideoのジャンル欄に「ホラー」とだけ書いてあるのを見て、この人がホラー撮ったらどえらい悪趣味なもんになるんじゃ…と思わず身構えました。ええ、とても悪趣味でした。
主人公スティーブン(コリン・ファレル)とその妻アナ(ニコール・キッドマン)はお医者さん夫婦。可愛い息子と娘に恵まれ、ハイソで理想的な生活を送っています。スティーブンは、マーティンという少年と交流がありました。少年は父親を病気で亡くしていたため、スティーブンのことを父のように慕ってくれます。ちなみに彼の父を手術したのはスティーブンで、死因は医療ミスでした。
ある日突然、息子ボブの脚が動かなくなり搬送されます。心因性だと診断されますが、心当たりがなく腑に落ちません。そんなスティーブンに、突如マーティンが警告をします。ほどなくして「4つの悲劇」があなた以外の家族に襲いかかるよ。①立てなくなる ②食べられなくなる ③目から血を流す ④死ぬ。 誰かひとり選んで殺さないと全員死ぬよ。さあ急いで。
わあ怖い。書きながら背筋がゾッと。つまり少年マーティンは「父殺し」の代償をスティーブンに払わせようとしていたのです。
まっ、そんな映画ですね。
ザ・不条理ホラー
前回「籠の中の乙女」の感想で、一見ぶっ飛んでるけどじつは筋の通った映画ですなんてことを書いたんですけど、本作は逆に全く筋が通ってないお話です。「ロブスター」の「独り身が45日間続くと動物にされる」が可愛く見えてくるくらい不条理。なんで?! 知るか!! っていう強引さでお話が進んでいきます。事態が好転するでもなく、謎の「呪い」に抗えないまま「誰かひとりを選んで」幕引きに向かっていく家族の姿はめちゃくちゃホラーです。家族愛なんて、なかったんや…。
ヨルゴス・ランティモス作品のなかで「籠の中の乙女」や「女王陛下のお気に入り」が《滑稽に見えるけど、あながち…》系だとしたら、「ロブスター」とこの「聖なる鹿殺し」は《愛なんてもんは、所詮…》系かなと思いました。不条理設定も通じるところがあります。あと、どっちも両目やられる。悪趣味。
こわい要素いろいろ
まずはですね、ニコール・キッドマンですね。この人、立ってるだけでホラーですからね。庭の草木に水やってるだけのシーンで腰抜かしそうになりましたよ。彫刻のように美しくて、こわい! ニコール・キッドマンでホラーというと個人的には「アイズ・ワイド・シャット(1999)」。そういえばあっちも医者でした。
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それから、マーティン役のバリー・コーガン。彼は確実にMVPです。だって、超やべえもん、何あいつ、超やべえよ。タイ・シェリダンみたいな顔して超サイコパスじゃん超やべえよ。彼がいなければこの映画はここまで印象的なものとはなっていなかったことでしょう。まさに怪優ですね。 最初は超好青年、でもいつしか「あれ…?」って感じになってきて、コイツ深入りしちゃマズいんじゃね?と思ったところで「おはよう先生」。あんなに恐ろしい「おはよう」があろうか。下手したら邦題が「モーニン 〜世界一こわい“おはよう”の仕方〜」とかになってた可能性すらある。
なお彼、どうやら「ダンケルク(2017)」に出てた模様。それも、思い出せる役です。あの、民間船で死んじゃった彼。ああ〜〜!!ですよ。チョイ役だけど印象的でしたよ。やっぱすごい役者さんっぽいですね。今後に注目です(「アメリカン・アニマルズ」見逃しちゃったなあ)。
こわい要素、あとはベタベタに音楽。っていうか音。これもだいぶ悪趣味。ヨルゴス・ランティモス監督は室内楽のような落ち着いた劇伴が多い印象でしたが今回のはゴリッゴリにホラーな劇伴。やめてくれ〜〜って感じでした。本作、本人的にはコメディのつもりで作ったらしいので、この音もギャグなのかも。いやひとつも笑えませんて。辛うじて笑えたの、秘密言い合いっこ(出し損)と陰毛のくだりぐらいだわ。全て下ネタ。
といった具合に、これに考察も加えたら本当いくらでも書けてしまうような(考察できる脳味噌がなくてよかった)、そうか要は面白かったんだなあ、面白い…? うん、まあ面白い作品、です。と言いつつ、おすすめできない度はヨルゴス・ランティモス随一かも。心臓の弱い方は用心してください。
さて、ここでちょっと久々に「女王陛下のお気に入り」を観直してみようかなと思っております。BD買うだけ買って、特典映像しか観てませんでした。劇場鑑賞時には得られなかった感想が出てくることを期待しています。
(2019年67本目)
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