「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男(2015)」雑感
『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』を観ました。冷戦下の「赤狩り」で弾圧されながらも、正体を隠して『ローマの休日(1953)』などを書いた脚本家ダルトン・トランボの物語です。
監督は『スキャンダル(2019)』が記憶に新しいジェイ・ローチ、主演は『ブレイキング・バッド』のブライアン・クランストン。『スキャンダル』の監督と知って、質の高さとバランス感覚に納得です。
概要
1940年代後半、共産主義者を弾圧する「赤狩り」の対象となりハリウッドから締め出された脚本家ダルトン・トランボ。しかし、厳しい状況に置かれながらも彼は書くことをやめなかった。彼が正体を隠したまま世に送り出した作品の代表格は『ローマの休日』。偶然か意図的か、平民になりすました王女の物語であった。
雑感
Netflixドラマ『ハリウッド』からの流れで観た映画です。『ハリウッド』ではファンタジーとして「表現の自由が認められた1940年代後半」を描いていますが、史実は対照的でした。
奇しくも先日観た『ブリッジ・オブ・スパイ(2015)』と同じく冷戦下のアメリカが舞台となっており、公開年も同じです。さらに翌年にはやはり赤狩りを背景とした『ヘイル、シーザー!(2016)』が公開になっているようで、こちらは未見ですが観てみようと思います。この時期に冷戦ものが重なっているのは何かそういう流れでもあったのでしょうか。(追記:観ました。ちょっと思ってたのとは違った!)
偶然でいうと、本作でトランボの妻を好演するダイアン・レイン(すごく、すごく良かったです)の元夫は『ヘイル、シーザー!』主演のジョシュ・ブローリンだったり。
赤狩り
よく聞く言葉ですが詳しくは知らなかった「赤狩り」。ここのところ東西冷戦について以前より知るようになっていた(元がゼロに等しかったんですけどね)おかげでだいぶ理解がしやすく、順番大事だなと思いました。結構前に読んだ「ハリウッド100年史講義」の該当箇所を読み返してみたら、以前なら読み流してそうなところがちゃんと“読める”ようになっていて嬉しくなりました。お恥ずかしい限りとも言えます。
- 作者:圭介, 北野
- 発売日: 2017/07/14
- メディア: 新書
とはいえ、初見ではやはり分からない部分も多かったので、ハテナな部分をざっくり潰してからもう一度(主に前半)観てみたところ、だいぶ解像度が上がりました。『ブリッジ・オブ・スパイ』もそうでしたが、こういった社会派な要素を含む映画は二度目の鑑賞で俄然面白くなるのですね。
不屈の男
「不屈の男=ストイキー・ムジック」は『ブリッジ・オブ・スパイ』のキーワードですが、本作で描かれるダルトン・トランボもじつに不屈の男でした。絶望してもおかしくないほどの苦境に立たされながらも「自分には書くことしかできない」と覆面作家にあっさり転身する姿からは、苦境であるはずなのに文章を書く楽しさすら溢れ出ていました。『ローマの休日』を売ってお金ができたぞ〜!とはしゃぐシーンなどはその最たるものです。まあこの印象は、演じるブライアン・クランストンによるところも大きいんでしょうけども。
以前『大統領の陰謀(1976)』を観たときに、タイプライターって武器みたいだと感じました。本作でもトランボが衝動的に叩くタイプライターの音が非常に格好良いです。思わずこの文章を打つ勢いも強くなってしまいます。父親にずっと憧れてきた長女(大真面目な顔で“大人の話”にやたら同席する姿が可愛い)がこの闇作家稼業の一員となり「タイプライターが増える」シーンなども、軍備が増強されたようで勇ましい気持ちになります。
脚本: ダルトン・トランボ
キューブリック監督の『スパルタカス(1960)』を手がけた頃からトランボの名はクレジットに復活します。映画館で『スパルタカス』を観るトランボの、眼鏡越しの涙がとてもグッときました。日本以外では映画のエンドロールで退席する人が多いと聞きますが、本作ではエンドロールにトランボ本人の映像が使われていたりと意識的に「クレジットを見せる」作りになっていた気がします。
まだクレジットされていない頃の『ローマの休日』を映画館で観るシーンも、当時は「真実の口」のシーンがこんなふうにウケていたんだなあと、やはりなんだかグッときてしまいました。どうも最近、涙腺がいつに増して脆いです(ここ何本かの感想記事、どれも最後泣いてる)。自覚はないけれど弱ってるんでしょうかね。
弾圧を描いた映画ですがどちらかというと前向きな気持ちになれる物語だったので、そんなわけで弱った心にもおすすめです。また、脚本家を意識せず『ローマの休日』や『スパルタカス』などを観ていたわたしのような人も多いと思うので、そんな方にもおすすめです。
(2020年77本目/PrimeVideo内 スターチャンネルEX)
『ゲーム・オブ・スローンズ』最終章ぶりにスターチャンネルEXを再開。いよいよ、若干出遅れた“あのへん”に手をつけてみようと思います。なお本作はスターチャンネルEX非加入のPrimeVideo課金レンタルでも視聴可能です。