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主に映画の感想文を書いています

映画「ホテル・ムンバイ(2019)」雑感

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先週のムービーウォッチメン『ホテル・ムンバイ』だったので観ました。ライムスター宇多丸さんが劇場公開中の作品を評する人気コーナーですが、こんな状況のため先週の回からは取りこぼしの過去作品や配信限定作品を取り上げています。わたしも本作は取りこぼしていたので、いい機会でした。

概要

2008年にインドの都市ムンバイにて発生した同時多発テロ事件を描く、事実に基づいた物語。様々な施設が襲撃されたが、本作ではムンバイの誇る五つ星ホテル「タージマハル・ホテル」を主な舞台とする。

雑感

実行犯と思われる青年たちがボートでムンバイに上陸する場面から始まる本作。テロ事件の実行犯サイドを掘り下げているノンフィクションというと、いろんなところで言及されてはいますが9.11を描いた『ユナイテッド93(2006)』がやはり思い出されます。強い信仰心の絡んだ犯行であるところも共通しています。

主な舞台は、“五つ星”の「タージマハル・ホテル」。想像していた以上に絢爛な佇まいのホテルで驚きました。あれはサリー、で合ってるでしょうか、美しい民族衣装に身を包み、かつ耳には近未来的なインカムを付けたおそらくはチーフ級の女性スタッフの姿が印象的です。いかにも「最高級のおもてなし」を提供してくれそうな説得力。うわ、こんなホテル泊まってみたい、と開始数分で思わせてくれます。

高級ホテルといえば料理。のちに大事な避難場所となる厨房でも細やかな仕事が光ります。とにかくこのホテルの従業員はプロフェッショナルである、ということをしっかり見せるオープニング。しかし、そんな一つの塵もないような五つ星ホテルが、一瞬にして血と煙にまみれてしまうのです。

「人間ではないと思え」という指示のもと、まるでゲームかのように視界の中の客や従業員を淡々と銃殺していく青年たち。そこにためらいや慈悲が全くみられない恐ろしさ。なかでも観ていて硬直してしまったのは、冒頭で印象的だったサリー姿の女性スタッフが銃を突きつけられながら客室にかける電話とその結末。全てにおいてショッキングなシーンでした。

で、映画の本筋としては、主にレストラン勤務の従業員たちが、命からがら逃げてきた宿泊客らを安全な厨房に匿い、応援も少ないなか脱出を試みるお話なのですが、…なぜかそんなに入り込めなかったというのが今回の感想。「あの状況であそこまでお客様ファーストできるもんかね」となんだか妙に冷めてしまい。でも例えばすごく似た演出もある『Fukushima 50(2020)』では素直に入り込んでいたりもして、何がそんなにスッと気持ちを一歩退かせてしまったのはいまいち分かりません。まあ「相性」かな、って思います。

ただ、ひとつ思い当たったのはわたしが元々この事件を知らなかったということです。9.11や3.11はどちらも非常にリアルタイムで鮮烈な出来事。対する本作のテロ事件は全く知らなかった出来事。さらにインドという縁のない土地。同じ「事実に基づく物語」を観ても、前者はノンフィクションとして没入でき、後者はどこかフィクションとして見てしまった=「そんなことあるかよ」と思ってしまった。実際は「あった」のに。

少なからず冷めた目で観てしまった自分の心が醜いなあ、と鑑賞後しばし自己嫌悪に包まれたのでした。

ちなみに本作のムービーウォッチメン評、最初に読まれたリスナーさんからのお便りが、それはもうものすごい映画体験のお話で感動しました。わたしと真逆のパターンで、ざっくりいうと「ムンバイで本作を観た」エピソード。数日中には公式書き起こしもアップされると思いますのでぜひご一読ください。2020年4月17日の回です。なんなら映画本編以上におすすめのエピソードです(笑)

(2020年63本目/PrimeVideo)

ホテル・ムンバイ(字幕版)

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  • 発売日: 2020/03/03
  • メディア: Prime Video
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何を間違えたか、U-NEXTにあるのにPrimeVideoの課金レンタルで観てしまった。不覚。経済回した、ってことにしておこう…。