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主に映画の感想文を書いています

映画「岬の兄妹(2018)」ぐるぐる雑感

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昨年、ライムスター宇多丸さんの周辺を大いに賑わせていた映画『岬の兄妹』ポン・ジュノ監督の作品などで助監督をつとめていた片山慎三さんという監督の長編デビュー作で、宇多丸さんのシネマランキング2019ではTOP10内にランクイン。そのほかの機会にも度々タイトルを耳にする作品でした。

なんとなーく観ないまま過ごしてきましたが、先日これまた宇多丸さんの『映画カウンセリング(の、最近出た文庫版)』を読んでいたところ─

文庫版特別対談「岡村靖幸宇多丸の映画カウンセリング」内にて岡村さんが「最近だと『岬の兄妹』が印象に残りました」と言っていて、またか!と(笑) そんなわけで重い腰を上げました。

あらすじ

港町のボロ家に二人きりで暮らす、足の不自由な兄と自閉症の妹。自分のわずかな稼ぎだけを命綱にどうにか妹の面倒を見てきた兄だったが、突然のリストラでその綱すら断たれてしまう。窮地のさらに先まで達したとき、彼は苦肉のビジネスを思いつく。妹を売るってのはどうだろう。1時間1万円で。

雑感

こーれは……。「問題作」と呼ばれる作品はあまたあれど、トップクラスに問題作なんじゃないか…という一本でした。確かに面白かった、強烈だったけど、これをエンタテインメントとして消化してしまっていいのか?と自分の中で葛藤が巻き起こります。

ただ、そう思う理由って「本作の主人公たちが障害者だから」というところが大きいわけで、そこを意識しすぎるのはまた逆に差別的なのでは?となる、なかなか気持ちの処理に困る映画なのでございます。

バラックのような家に辛うじて住所を持っている最底辺生活水準の家族を描いた映画といえば『万引き家族(2018)』が思い出されるところですが、あの家族においても例えば松岡茉優演じる若い娘は風俗店で働いています。でも、それを見て「いやいやいや、駄目だろ…」とは正直思わない。健常者か障害者かの違いがあるだけで、やってることとしては本作の妹とさほど変わらないのでは?

障害を持った女性が主人公ということで共通点の多い『37セカンズ(2020)』においても、車椅子のヒロインが歌舞伎町で女性用風俗を利用するというシーンがあるのですが、もし健常者の女性であったなら、ちょっと過激な性描写、程度の印象しか受けないはず。でもこの作品ではなかなかショッキングに映る。何がそんなに、倫理観(的なもの)に訴えかけてくるのか?

もしくは。ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』においてピーター・ディンクレイジ演じる小人症のティリオンは娼婦のヘビーユーザーで、不意にドアを開けてみればしょっちゅうお楽しみ中だったりします。でも、それを「小人症の男が……」などと思う人はあまりいないはず。なにせティリオンは1・2を争う人気キャラですから、そんなところも一応含めて親しまれているはず。逆に、それはなぜ? 男だからいいのか?

…といった具合に、ぐるぐるしちゃうのでございます。そしてそれこそが、こういう映画の味わい方として正しいところなのでしょうね。宇多丸さんも「忘れがたい一本」として、シネマランキング発表時に紹介していました。

僕はね、基本的に毎年ベストを選ぶ時、迷った時に最後の基準になるもの。上位に来るものはやっぱ忘れがたいっていうか。「その後も結構思い出しちゃってるな、俺」みたいな。そういうものを選んでいます。『岬の兄妹』、忘れがたい1本でございました。

宇多丸が選ぶ 2019年映画ベスト10

おすすめかと問われたら個人的にはあまり無責任に「おすすめ!」と言いたい映画でもないのですが、ものすごい映画なのは確かなので、ご興味ありましたらどうぞ。好きなシーンは「香典のお金」と「マクドナルド」です。窮地なので食べ物は基本おいしそうです。

(2020年64本目/U-NEXT) 名演中の名演を見せてくれた妹役の和田光沙さんインタビュー。このとてつもない役を彼女はどんな気持ちで演じたのか等、あわせて読むと興味深いです。

岬の兄妹

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現時点ではU-NEXTもPrimeVideoも400〜500円ほどの課金レンタルとなってます。あ、ちなみに! 本文中で例に挙げた『37セカンズ』がNetflixに来てます! ぜひ!