宮部みゆきの同名小説を原作とした大林宣彦監督の映画『理由』を観ました。主役はおらず、じつに100名以上ものキャストが絡み合って展開する群像劇ミステリー。160分の長尺に複雑な物語でとっつきづらい作品ながら、好きでした。
あまり「そ、そうだったのかー!!!」系のお話ではありませんが、一応ミステリー/サスペンスなので以下はネタバレ要素が含まれます。
あらすじ
高層マンションの一室から男が転落死した。警察が駆けつけると、部屋の中では三人の家族が殺されていた。しかし調べていくうち、死んだ四人はこの部屋の住人ではないと判明。さらにこの四人は家族ですらなかった。一体何が起きていたのか。関係者たちが事件を語る。
雑感
いきなりこれですよ(笑) 身構えるわ〜〜。
とはいえ、観終わってみると一番クセが強かったのはこの冒頭からプロローグくらいまでかなと思いました。作り物っぽさが強すぎる夕景の交番。雨なんか降っていないのに傘を持った少女が挙動不審に現れて、「週刊誌で見た人が、うちにいるの」とおまわりさんに告げます。そして彼女は続けます、「荒川の一家四人殺し」と。
半信半疑のおまわりさんが自転車で彼女の家に向かい、交番に残された彼女の友人が「あんな大変なこと、私たちとは全然関係ないと思ってたけどな」と呟く。不穏なプロローグはここまで。半年ほど前に遡って本編開始。
以降とにかく沢山の関係者が登場しますが、みんなカメラに向かって話しかけてきます。といってもデップーちゃんよろしく「第四の壁」を越えようとしているわけではなく、捜査や取材を受けているのです。よくカメラの前に「どうぞ」とお茶が置かれます。距離感的にどうも「聞き手」はいなさそうなのが奇妙ですけど。また、あらたまった場で証言をする人もいれば、その現場からリアルタイムに話しかけてくる人もいます。奇妙です。
そう、とにかく奇妙です。お話自体はそれなりに背筋の冷えるサスペンス。それをドキュメンタリー方式で紐解いていく。そこまではいいとして、さらにそれを大林宣彦スタイルで撮るとこうも奇妙になる、という。思えば『時をかける少女(1983)』のエンドロールみたいなことが160分続く映画なんですよね。好きな人はかなり好きなんじゃないでしょうか。わたしは好きでした。
さらには本作が小説の映画化ということでそのメタ的な演出も。終盤、事件の重要参考人である人物が取材を受けていると、毎度のごとくお茶が運ばれます。いつもなら「聞き手」は映らないのですがこの時ばかりは初めてインタビュアーが直接お茶を受け取り、その姿も見せます。「小説化」のシーンです。そしてもう一段階カメラが退くと、大勢の撮影スタッフと機材、カットをかける大林監督がフレームインして「映画化」のシーンになるのです。おもしろ!
このシーンを見て真っ先に連想したのが『カメラを止めるな!(2017)』のエンドロールでした。劇中の俳優を演じる俳優たち、劇中で撮影スタッフを演じる俳優たち、それらを撮る実際の撮影スタッフたち、を最後尾から撮る監督。大林監督の訃報に際して上田慎一郎監督はこんなツイートを寄せていたので、きっと本作のこの演出もあのエンドロールに繋がっているんだろうな、なんてことを思いました。
「ハウス」を観て映画ってこんなに自由なのかと衝撃を受けた。カメ止めを観て頂いた時はぎっしり手書きの感想を書いて送って下さった。初めてお会いした時は「いいパジャマを着なさい。妻にだけ見せるお洒落だからね」という言葉をもらった。大林宣彦監督。唯一無二の方でした。ご冥福をお祈りします。
— 上田慎一郎 (@shin0407) April 10, 2020
ちなみにわたしはこのツイートを見て、一週間前はじめての大林作品に『HOUSE/ハウス(1977)』を選びました。繋がってゆく。
オープニングで延々横スクロールしていくクレジットから既にくらくらしてしまう100名超の豪華キャストも見ものです。キービジュアルだとまるで犯人のように見える岸部一徳さんは前半の語り部。あれ、この顔は…と思ったら岩井俊二作品でおなじみの伊藤歩さんだったり、きらきら純情な宮崎あおいさんがクラリネットにスワブ通してたり、映画初出演の多部未華子さんが幼くて可愛かったり、声優の花澤香菜さんも本作で映画デビューしてるみたいなんですがこれは確認できず。Wikipediaで出演者の欄チェックしてみるだけでも観たくなってくること請け合いです。
オープニングが印象的なら、エンドロールもまた印象的。というかむしろトラウマ級のエンドロール。こちらも必見。サツジンジケン ガ ムスブ キズナ。
大林作品、当たりが多いなあと嬉しくなりつつ、ものすごいハズレも引きそうな気がして依然こわいです。引き続き観ていくか、それとも一旦ここらでやめておくか…(笑)
(2020年62本目/U-NEXT)