これは無責任におすすめできません。今週末から劇場公開されているロシア映画『DAU. ナターシャ』を観ました。
「ムービーウォッチメン(fromアトロク)」の課題映画に選ばれたこともあって観ようと思っている方そこそこいらっしゃると思うのですが、だいぶいやな映画でございます。ご覧になる場合は、まったく娯楽映画ではないという認識でどうぞ。
この映画は何やら15年もの歳月をかけた巨大なプロジェクトのほんの一部として先行公開されたものらしく、作品の評価はさておきプロジェクト自体の「掴み」は超強力です。手っ取り早く公式サイトから「掴み」の部分を引用します。
オーディション人数39.2万人、衣装4万着、欧州最大1万2千平米のセット、主要キャスト400人、エキストラ1万人、制作年数15年……
「ソ連全体主義」の社会を完全再現した狂気のプロジェクト !
(イントロダクション | 映画「DAU. ナターシャ」公式サイトより)
撮影は徹底的にこだわって行われ、キャストたちは当時のように再建された研究所で約2年間にわたり実際に生活し、カメラは至るところで彼らを撮影した。本作には本物のノーベル賞受賞者、元ネオナチリーダーや元KGB職員なども参加。町の中ではソ連時代のルーブルが通貨として使用され、出演者もスタッフも服装も当時のものを再現した衣装で生活。毎日当時の日付の新聞が届けられるという徹底ぶりで、出演者たちは演じる役柄になりきってしまい、実際に愛し合い、憎しみ合ったという。
(イントロダクション | 映画「DAU. ナターシャ」公式サイトより)
なんかよくわかんないけどすげえ、ってなりますよね。
第一作となる本作『DAU. ナターシャ』は研究所併設のカフェで働くナターシャというウェイトレスを主人公とした作品で、同様に「DAU世界」の様々なキャラクターを切り取った『DAU. なんちゃら』が順次公開されていくってことらしいです。
ちなみにIMDbで監督のフィルモグラフィを見ると、まだ世に放たれていない『DAU』たちがずらっと異様に並んでいます。これ、本当に全部出すのか……?
で、まあ観た感想なのですけど、パッと浮かんだところでは『CLIMAX クライマックス(2018)』と『サウルの息子(2015)』を足したような生き地獄映画、って思いました。【フィクション的な生き地獄+ノンフィクション的な生き地獄=エンタメ性皆無】みたいな映画です。
いや、エンタメ性も一応あるにはあります。ひたすらカオスな光景を傍観する可笑しみ。その乾いた魚なんやねんと突っ込みたくてしょうがない可笑しみ。満島ひかりみたいな笑い方の歳下ウェイトレスもウザカワ&ウザだし、語りたくなるシーンは沢山ある。
ただ、後半出てくる拷問シーンがあまりにもおすすめできなくて。アメとムチのムチがひどすぎて。拷問の過程で中年ウェイトレスのナターシャは素っ裸にされるのですが、いたたまれなくてなるべく身体を見ないようにしたくらいです。男のわたしでこうなんだから女性はもっときついのでは。
しかもこれ拷問の内容はアドリブらしくて。と言ってもこの拷問してくる男、リアルに元KGBの大佐なんですよ。だからきっと実際に経験のある拷問スキルを発揮してるんじゃないか、っていうことなんですよ。『サウルの息子』ならホロコーストの非人道的行為を追体験する映画だと覚悟を決めて観れる、しかし説明もなくこのリアリティ・ショーを見せられた場合は何を思えばいいのか。
公式サイトに載せられたコメントで「我々はこれが現実ではないことを知っているが 現実とは一体何を意味するのだろうか?(ザ・フィルム・ステージ)」というのがあって、ほんとそれ、って思いました。アートとしては「ご自由に」だけど、一般公開する映画作品としては、うーむ。
無音のエンドロール、ただスクロールしていく無味乾燥なクレジットを見ながら息を呑み静まり返った劇場がたいへん印象的でございました。きっとみんな必死に反芻していたのだろうけど、答えもきっと出ていないんじゃないかしら。
プロジェクト自体への興味は依然あるものの、次回作以降を劇場で観るかと言われたら躊躇します。メイキングなら観たいです。というかおそらく多くの人がこの作品から欲するものはメイキングだと思う。『トゥルーマン・ショー』の壁が見たい。カットがかかって、笑ってほしい。
(2021年40本目/劇場鑑賞)
久々に観たくなりました。