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大林宣彦監督作品「漂流教室(1987)」感想|どうしようもないけど愛せなくもない珍品

大林宣彦監督の漂流教室を観ました。4月にWOWOWで放送されていたものです。

映画「漂流教室」ポスター(最高!)
映画「漂流教室」ポスター(最高!)

楳図かずおさんの同名漫画作品を原作としている本作、ソフト化はされていないそうで今回が初見だったのですが、ファンなりたての頃(注:ほんの1年ちょい前)から「珍品」としてお噂はかねがね、という感じでした。

具体的にどんな噂かというと、とにかく「ゴキブリ」。「ゴキブリ姿の大林監督がピアノを弾いている」珍作であると各所で見聞きしていたのです。だもんでその先入観が強すぎて、観ている間じゅう「ところでゴキブリはいつ出てくるんだ」と気が気じゃない始末。しかも、出てこないでやんの。

いや、正確には多分出てるんだ、ゴキブリっぽい何か。ただ、わたしがイメージしていた、というか確実にどこかの媒体で目にした「(燕尾服のような)ゴキブリ姿の大林監督がピアノを弾いているバックショット」のイラストに該当するようなシーンが、明確にはなかった。あのイラストはどこで見たんだったかなあ。

そもそもゴキブリなのか?っていう話で。映画秘宝の大林宣彦入門特集なんかを見てみると確かに町山さんや大槻ケンヂさんが「ゴキブリ」と言ってはいるのだけど、ファンのあいだでゴキブリのイメージが一人歩きしているのでは?と思わないでもありません。なにより後述の本で監督は「怪獣」と書いている。まあ、いいや。なんか痒くなってきたし。

さておき、かなり「炸裂」しているのは間違いない作品でした。『HOUSE/ハウス(1977)』を上回るレベルで多用される書き割り背景。インターナショナルスクールを舞台にした外国人だらけのキャスティング。のっけのツンデレザコンが強烈な主人公・林泰文さんに、謎の超悪漢・尾美としのりさん。まごうことなく「やっちまってる系」大林作品です。

俗に言う原作レイプ的な案件でいうと、ブラックジャックに手を出してしまった『瞳の中の訪問者(1977)』あたりとだいぶ近いポジションの本作(なお、いずれも手塚治虫先生から苦言を呈されている)。でもご本人的にはそれなりに楽しんで撮った、のかと思いきや、『全自作を語る』によればこの作品だけは明らかな「黒歴史」として語られていました。

曰く「僕の映画人生で最悪の状態になりましてね、僕だけでなく関係したみなさんにとってもそうだったと思うけど……(p323)。なんでもプロデューサーの恭子さんすら監督を残して降りてしまうくらいにはひどい状況だったらしいです。砂漠が舞台なのに全編書き割りのセット撮影なのも、当初はオーストラリアロケの話で進んでいたのがダメになったんですって。学校がインターナショナルスクールに改変されているのも監督が関わる以前、企画の時点からだそう。

とはいえ個人的には結構おもしろい作品だと思っています。珍しくミュージカル演出があったり(そこだけ服部克久さんがアレンジしているとか!)、こちらも珍しくハリウッド大作映画のパロディ的なものが散見されたり。グーニーズ?? E.T?? その三輪車はどう見てもシャイニングだね??みたいな。

音楽も久石譲さんだし、さらに主題歌は筒美京平さんだし、南果穂さん(当時23歳、可愛い)が弾くピアノのテーマ曲は大林監督の作曲ですごくいい曲だし、原作を知らない身としては終盤のゴリゴリSF展開にギョッとしてしまったし、いやむしろ好きだなって、またしてもやられてしまったなと。

大林作品って、トンチキなものを見せられていたつもりがいつの間にか心震えていたりする、感情のアハ体験みたいなところがあって。そういう意味では十分に「大林印」のついた、それなりに愛せる作品だったと思います。

(2021年85本目/WOWOW

原作おもしろいんだろうなあというのも十分に伝わってきたので、読んでみたいです。