カメラを止めるな!(2017)
深夜、寝苦しくて聴いていたライムスター宇多丸さんのムービーウォッチメンで絶賛されており、思わず起き上がってチケット予約。ネット予約のできるミニシアター渋谷ユーロスペースは3日前の時点でほぼ満席でした。寝ぼけてるのかと思った。なお、これから観ようと思われてる方は絶対に読まないほうがいいです!
※ちなみに上記リンクのムービーウォッチメンは、宇多丸さんかなりネタバレに気を使ってくれているので(わたしもフルで聴いたうえで十分楽しめたので)聴いても大丈夫だと思います。内容に一切触れない「新方式」おもしろい(笑)
概要
監督&俳優養成スクール・ENBUゼミナールの《シネマプロジェクト》第7弾作品。2017年11月に先行公開。その後、国内及び海外の映画賞を数々受賞し、2018年6月に日本国内で凱旋上映を行った。監督・上田慎一郎にとっては初の劇場長編作品。
カメラを止めるな! - Wikipediaより
笑い涙で顔がぐちゃぐちゃ
かなり期待値を上げながら、同時に「あんまり上げると期待外れになりがちなんだよな」とも思いながら、やはり期待して渋谷のユーロスペースへ。チケットカウンターでは当日券のお客さんへ「立ち見となりますが…」との案内が聞こえ、シアターに入ると立ち見どころか階段の座り見まで。いつぞや小林賢太郎で行った下北沢本多劇場を思い出すも、こちらは映画。映画館で立ち見座り見なんてきょうびあるんだな…。
期待に満ちた空気のなか、ついに上映開始。うっすらとした前情報でわかってはいたけれど、最初しばらくは長回しワンカットでのチープなゾンビ映画。ちょいちょい笑いが起きるようなものではあったものの、まったく趣味でないゾンビ映画を映画館で観る日が来るとは…と思いながらの鑑賞。40分弱が経過し、ゾンビ映画にエンドロールが流れると、カットがかかってスクリーンに走査線が出る。そしてこの「ゾンビ映画」制作のドキュメンタリーへと突入。これが映画ではなく「生放送のゾンビドラマ」だとわかる。ただ、ここまでこれといった名作感はなし。
しかし! ドキュメンタリーが「生放送のワンカット」シーンに差し掛かると、これまでじわじわと昇ってきたジェットコースターは一気に落下を開始する。なんだこれ面白い。面白すぎる。笑いすぎてむせるし、涙が出てぐちゃぐちゃである。少し舐めてかかってた作品で、まさかこんなことになってしまうとは。なんだこれ!!なんだこれ!!
ひたすら大爆笑だった上映が終了すると、心なしかみんなぐったりしているように見える。笑い疲れか。
というわけで、非常にたいへんな作品でした。これはすごいぞ…。
この先そこそこネタバレします
本作、ざっくり言うと二層構造になっております。一層目は「第一幕」こと、37分の長回しワンカット。二層目の前半「第二幕」はドキュメント。そして後半「第三幕」で、第一幕ワンカット撮影の舞台裏(カメラ裏とでも言いましょうか)のマルチアングル。ただし全てのことが「劇中」なので、さらにその手前、上田慎一郎監督直下のカメラ「三層目」があるという魅惑の構造。
監督は実際これと似たような構造の舞台を鑑賞したことからインスピレーションを受けて制作にあたったそうですし、複層構造の映画というのは特別に斬新なものというわけではありません。ですが、なんだろう、この二層目は楽しすぎる!! ネタバレ厳禁だからうまく言えない、とかではなくて、とてもあの体験を文章化することができない…!!というほうが正しいです。まあでも少しは書いてみないといけないので、書き始めてみます。長くなりそう。
上にも書いたように、第一幕のワンカットはせいぜい「ワンカットである」ということくらいしか見どころはありません。というのは、期待値に対して、です。これだけ持ち上げられている作品、さぞ面白かろうと注視していても別段そこまで面白いというわけではない、それが第一幕。ところどころ「妙な空気感」や「謎の間」があったりするも、そこだけが際立って気になるわけではない程度には全体がチープ。しかしそれが効いてくるんや…。
「カーット!」からの第二幕。さっきまで見せられていたものが、「ワンカット生放送ゾンビドラマ」というテレビの企画であることが判明します。そしてここからは登場人物のキャラクターを短い時間でしっかり描いてゆきます。これが、観終わったあとで思い起こしてみると本当に的確な人物描写になっていて、引き続きとりたて面白いというわけでもない普通のドラマを見ていたつもりがじつはここで山のような伏線を張り巡らされていた、という。そしてこの時点で観客側も少しずつ第一幕での「違和感のタネ」を察していける作りになっています。
さあ第二幕後半ワンカット本番、カメラを止めるな! 第一幕からカメラひとつ引いた二層目の視点で、今度はカット割りも有りで、悲劇の舞台裏の喜劇をご堪能あれ。
これがもう本当に、抱腹絶倒とはこのこと。映画館でこんなに笑ったことないし、というか周りがこんなに笑ってたことないし、「シン・ゴジラ」の応援上映だってそんな笑うもんではなかったし「デッドプール」なんかほんとはこれくらい笑いたかったけど周りも我慢してたし、この感じはそう、演劇に近い! 小林賢太郎の舞台を観ながら腹筋痛めてるあの感じに近い! 客席一体型映画といいますか、スクリーンの演者と観客の笑いで完成するタイプの映画、ですね。こんなにも「満員御礼の映画館」で観るのが相応しい映画っていうのもなかなかない…!
「近くで見ると悲劇、遠くから見ると喜劇」とはよく言ったもので、まさに本作はそういう作品でした。近くで見るとなんならクオリティ的にも悲劇だったものが、数歩下がっただけでこれほど喜劇になってしまうとは。それもただギャグ的に面白いというだけではなく、大量に仕掛けた伏線をかたっぱしから残らず拾っていくことによる暴力的な面白さがエグい。挙げてたらキリないんで(涙をのんで)書かないですけど、個人的に予想外も相まって「死ぬ」と思ったのは「何これダサかっけー。え、カメラマン変わった?」のとこです(笑) もっかい観てえわー。
ここまで、ゾンビ映画、ドキュメンタリー映画、ギャグ映画と、これだけでも100分足らずの映画としては十分すぎる特盛。ですが傑作というのはどこまでも傑作なのでしょう、最後の最後には笑い涙じゃないほうの涙腺まで刺激されます。めちゃくちゃさりげなく。いかにあの短い時間で的確な人間ドラマを描いていたかという大きな伏線がここにきて回収される、超サプライズです。完全に書きそびれてしまいましたがキャストの皆さんも心底魅力的です。劇場でご確認ください。
フェイクな作品に相応しいフェイクな主題歌で、眩しいエンドロールへ。ここで流れる映像は監督の頭につけたGoProで撮影された「三層目」。本作の本物の撮影チームが、二層目のフェイクチームと同じ動きをしているところにまた少し涙腺が緩み。そんな客席の我々は「四層目」ですね。笑い疲れてもうろうとしながらパンフレットを買って、ロビーの椅子で息を整えてから、四層目は劇場をあとにしました。
よい作品というのは感想を書いていても息切れします。そこまで具体的な感想は書いていないのに心拍数が高いので、全てに言及していたらおそらく生命の危機です。未見の方がここまで読んでいないことを願いますが、もしも読んでしまっていて、かつこのような拙文で「観てみたい」と思っていただけているようであれば、その気持ちを止めるな!ということで(笑)劇場へダッシュしていただけたら幸いです。
公式サイトにも載っている業界人からのコメントで、水野美紀さんの言葉がシンプルにそれそれ!って感じだったので抜粋引用させてもらいます。
映画館でこんなに笑ったの産まれて初めて。
まんまとこんなに愛おしい気持ちにさせられて、満ち足りた気分の帰り道。
友だち誘ってもう一回観たい!
わかる。わかる。わかる。人に見せたい! ものすごく見せたい! ぜひ、観てください! 以上です!
(2018年151本目 劇場鑑賞)