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映画「プリズン・サークル(2019)」感想|日本初、刑務所内の更生プログラムに密着したドキュメンタリー

日本の刑務所に初めてカメラが入ったドキュメンタリー作品『プリズン・サークル』を観ました。かなりビビッドかつキャッチーなキービジュアルなので、これか!となる方も多いのではないでしょうか。


映画「プリズン・サークル」ポスター
映画「プリズン・サークル」ポスター


「刑務所」は、どこかファンタジーですらある場所だと思います。「日本の刑務所」であればなおのこと。映画やドラマではよく見るけれど、実際の刑務所がどんなところなのかは全く知らない。それもそのはずで、原則カメラが入ることは許されない場所だから。

そんななか、この『プリズン・サークル』は交渉に6年を費やし「日本初となる刑務所内の長期撮影(2年間)」を実現した作品なのだそうです。そうつまり、日本の刑務所の内側が見れるわけです。

これまで外国の受刑者を取材し続けてきたという坂上香監督が今回密着したのは、「島根あさひ社会復帰促進センター」という刑務所(らしからぬ名前だと思ってしまいましたがこれもまたリアル)で実施されている「TC」なる更生プログラム。間違いのないよう詳細は公式サイトより引用します。

「島根あさひ社会復帰促進センター」は、官民協働の新しい刑務所。警備や職業訓練などを民間が担い、ドアの施錠や食事の搬送は自動化され、ICタグCCTVカメラが受刑者を監視する。しかし、その真の新しさは、受刑者同士の対話をベースに犯罪の原因を探り、更生を促す「TC(Therapeutic Community=回復共同体)」というプログラムを日本で唯一導入している点にある。なぜ自分は今ここにいるのか、いかにして償うのか? 彼らが向き合うのは、犯した罪だけではない。幼い頃に経験した貧困、いじめ、虐待、差別などの記憶。痛み、悲しみ、恥辱や怒りといった感情。そして、それらを表現する言葉を獲得していく…。映画『プリズン・サークル』公式ホームページ


本作では4名の若い受刑者たちにスポットを当て、刑務所に入れられるほどの「犯罪者」である彼らの内面を2年間じっくりと見ていきます。先に書いておきますが、この映画は(もしかすると期待するような)見世物ではありません。不思議とセラピーのような136分です。すごくすごくよかった。

出たとこ雑感

刑務所の実録映像を2時間強も見続けて、あろうことか最大の感想は「羨ましい」でした。でもこれ、観た方ならわかっていただけるんじゃないかな。だってあんなに自分の話を聞いてもらえて、自己分析を深められて、とにかく胸の内を整理できる経験なんて普通に生きていたらまずできないこと。羨ましい、あの輪に入りたい、セラピーを受けたい。その感情が大半を占めました。

ただもう一度言い直すと、こんな「(語弊はありますが)恵まれた環境」は外の世界にはないですね。規律に守られた生活、定期的に己と向き合える時間、優れた相談者。そんなものは、そうそうない。なので彼らの本当の闘いは間違いなく出所後なはず。どうにか耐え抜いて、頑張ってもらいたいです。

さて。映像の中で「刑務所に入れられるほどの『犯罪者』」たる彼らが吐露する内容は、その多くが「幼少期の記憶」です。犯罪者の話を聞いているはずなのに、どういうわけか被害者の話を聞いている気持ちになります。すごく純粋そうな少年が「窃盗の悪さがどうしてもわからない」と悩む様子などを見ていると、これは本当に根深い問題だと思わざるを得ません。「犯罪者」の概念が覆されそうになります。

無論それが全ての犯罪者に当てはまるわけではないでしょう。「TC」に参加できるのは更生の見込みが高い受刑者からほんの40名程度だといいます。とはいえ彼らの罪状は「窃盗や詐欺、強盗傷人、傷害致死」です。日頃ニュースで見れば冷ややかな目を向けているはずの「犯罪者」です。親の顔が見てみたいわ、とか思うやつです。でも、そんな彼らがホワイトボードを前に出自を語る際、何食わぬ顔で「4人目の父」なんてワードを発しているのを見てしまったら。「サークル」に「循環」の意味も感じた瞬間でした。

尋常ではない成育環境を経た彼らは、真っ当な感情を取り戻す、もしくは「知る」必要があります。ネガティブな感情をポジティブに変換してしまう癖があったり、悲しいはずの場面で悲しくなれなかったり、何事も自分事として考えられなかったりする、と彼らは語ります。全編通して砂絵アニメーションで語られる「嘘つき少年」の物語が胸に刺さります。

ある受刑者が最後のほうで「いろんな話を聞いて自分事として考えて、自分は今どうして泣いてしまったんだろうなどと考える」というようなことを話していました。これ、わたしにとっては「映画」だなと思いました。映画にはカウンセリング効果があると常々思っていますしこうやって感想を言語化するのもそうした作業の一環と認識していますが、まさか刑務所のドキュメンタリー映画を観てそれが裏付けられることになるとは、です。

本作に関しては羨むと同時に、まるで自分自身がセラピーを受けているような心地良い感覚もありました。特に後半で登場する「二つの椅子」という心理療法はおもしろい。相反した自分の感情と対話する演劇風の手法で、ある種「映画的見せ場」にもなっています。これってじつは普段から無意識に走らせている思考であるらしく、観賞後に感想を言い合っていた際にも「それ二つの椅子じゃん」なんて言われたりして。そうか、これが心理学なのか。

なんかもう全然まとまらなくなってきたので雑感はここまで。本当にこの映画、観てよかったです。2021年9月現在はシネマ・チュプキ・タバタのみで、9/21(火)まで上映されています。チュプキはとても小さな映画館なので観終わってからスタッフさんと感想を言い合ったりできちゃうのですが、今回はそれがいっそうありがたく感じました。本日9/11(土)20時からはオンラインアフタートーク企画もあるそうです。

(2021年157本目/劇場鑑賞)

最初の掴み(言葉を借りればアイスブレイク)も良くてですね。「あの椅子だ!」っていう興奮から始まって、シュールな「クリームパン」とか、「こんなエレクトリカルパレードは嫌だ」的なやつとか(終盤で音だけ聞こえるのがまたじわじわくる)思わず笑ってしまうところも多いのでぜひ気負わずご覧ください。もっと手軽に観れるようになってほしい。

映画「オールド(2021)」感想|秒で過ぎ去る一生、老後悔いなく往生(韻を踏みたく候)

こんにちは、さんごです(伏線)。M・ナイト・シャマラン監督の新作『オールド』を観てきました。と言いつつシャマラン作品は全く観たことがなかったんですけども(かすりもしていないことに驚き)、こういう感じなら好きかもしれない。つまり好きでした。

以下、ネタバレ控え目です。


映画「オールド」ポスター
映画「オールド」ポスター


「そのビーチでは一生が一日で終わる」とはポスターなどに書かれているコピーですが、ざっくりそんなお話です。時の流れが異常に早いビーチ(※この設定に疑問を感じてはいけない)に閉じ込められてしまった旅行客たちが、秒で過ぎ去る人生に狼狽する奇妙な物語。「秒で成長・老化する」設定は既に宣伝段階でオープンになっていたので、そのギミックを使いつつどんな映画にするのか、っていうところがお楽しみでした。

少なくとも日本では「謎解きタイムスリラー」と銘打たれていますけど、振り回されはするもののこれ謎解きではないと思います。薄気味の悪い映画が好きな人は好きなやつですし、いわゆる「寓話的」な映画でもあるのでそういうのが好きな人には合うと思いますが、「どうして?」を求める人には期待外れかもですね。もう一度言っておくと、つまりわたしは好き。

公開からだいぶ遅れての鑑賞だったことにより「ツッコミどころ満載」であることは散々見聞きしていたので、そこがノイズにならなかったのもラッキーでした。もし予備知識ゼロで観ていたらツッコミどころが多すぎて折れてたかもしれません。でもあのビーチで手術受けたいって人そこそこいるんじゃないかな(笑)

また、ライムスター宇多丸さんの評で「人生について考えさせられる映画」だと聞いていたのも大きかったです。人生について考えさせられる映画、好きなんですよ最近。よおし人生について考えちゃうぞ〜とワクワクしながら観に行って、しっかり期待通りのものを得て帰ってきた、そんな幸せな人間がわたしです。

何書いても受け売りになっちゃうので詳しくは聴いてくださいって感じですけども、確かに理不尽なのは時の流れだけで、あのビーチで起きていることって基本ごくありふれた「人生」なんですよね。そして「圧縮した人生」とはイコール我々が日頃親しんでいる「アレ」であるという宇多丸さん的解釈。この映画は「見方」を知ってから映画館へ行くほうが吉と出るかもしれません。

あ、そういえば伏線回収を忘れてました。なんかね、わたし突然嫌われるんですよ。結構ショッキングな手紙でしたね。もし覚えてたら劇場で同情してください。

はみ出し雑感

  • サンセリフ体からセリフ体にフォントが変容していくタイトルバックがかっこいい。宇多丸さん曰くヒッチコック風のタイトルバック作りを得意とする方が担当しているそうで、まだそんなに観れてないけど確かにヒッチコック作品どれもOP印象的。『(1963)』のかじられていくやつとか。

  • ヒッチコックといえば、楽しみにしていた『裏窓(1954)』オマージュは予想以上にそのまんまで感動すらしてしまった。

  • 近年では『アス(2019)』なんかを思い出させる「車でリゾート地に向かう家族」という平和かつ経験上不穏なオープニングからの、ホテルに到着するや提供される奇妙なドリンク。それを差し出す女性スタッフの、どこか不自然な筋張った身体。どこか何か気持ち悪い。う〜ん、いい感じ。

  • ちなみにどこか不自然な筋張った身体の女性スタッフはフランチェスカイーストウッドさん。そう、クリント・イーストウッドの娘さん。ってことは『運び屋(2018)』に出てたりした、あの娘さん? と思ったらそれはまた別の娘さんだった(アリソン・イーストウッドさん)。

  • どっかで観たような→ああ!!ってなキャスティングが本作わりと多い。例えば成長したお姉ちゃん役のトーマシン・マッケンジーさんは『ジョジョ・ラビット(2019)』に出ていたあのユダヤ人美少女。もうひとり成長したお嬢ちゃん役のエリザ・スカンレンさんは『ストーリー・オブ・マイライフ(2019)』のベス。豪華!

  • 成長した弟くんのアレックス・ウルフ氏も『ヘレディタリー/継承(2018)』や『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル(2017)』および続編に出ている彼。最後の成長は正直わかんないレベルだったな。弟くんに限らず「成長キャスティング」がお見事。

  • うまいなあと思ったシーンは「わかるでしょ、想像してくれ」のシーン全般。アレとかアレとかアレとか。めっちゃ嫌(褒め)だなあと思ったシーンは「布に包まれたとあるものがカラカラ音を立ててる」やつ。いいなあと思ったのは「チート的に危機を乗り越えた二人」の晩年。

  • あと、てっきり『ビバリウム(2019)』的ループの胸糞エンドかと思いきや案外後味良く終わってくれるのもよかった。なお『ビバリウム』は「お部屋探し中のカップルが内見で連れてこられた奇妙な住宅地から抜け出せなくなる」お話なので結構近いタイプの映画。

  • 最後に一応付けられている「どうして?」のくだりは個人的にわりと好き。というか納得。あのひと意外と何事もなく過ごしてるな、とは思っていたので。スッキリ謎が解けたと言えなくもない。

  • トレントとカラが「プロムも体験しないまま青春が終わる」みたいなことを話してるシーン(成長のプロセスでプロムの知識も自動的に入ったのだろうか……)、コロナ禍の学生に重ねてしまった。コロナ禍はわりかしあのビーチみたいなもんだと思うのよ。


(2021年153本目/劇場鑑賞)

マーロン・ブランドジャック・ニコルソンが云々。