運び屋(2018)
「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズを繰り返し見せられて育ったので、クリント・イーストウッドという名前はかなり幼い頃から認識していました。ただし「昔の西部劇の人」としてですけど。
とんでもないことを言うと、イーストウッドがまだ生きている人だと知ったのは映画を積極的に観るようになったここ数年のことです(笑) まあでも88歳ですから、ご存命じゃない可能性も十分にある年齢。そんなお方が、監督&主演の新作を2018年に公開です。すごいなんてもんじゃありませんね。
ということでわたしにとって初めての、映画館でのリアルタイムなイーストウッド主演映画観賞! 監督作品は「15時17分、パリ行き(2018)」を観ていますが、出演作は初。「午前十時の映画祭」でもイーストウッド作品は観てなかったので、完全に初めての「スクリーンでイーストウッド」。楽しみにしてました。
イーストウッドが演じるのは、デイリリーという花の栽培に人生を捧げていた園芸家のアール。その界隈の第一人者として成功を収めていましたが、世の中の流れについていけず事業をたたみます。これまでの人生でアールは仕事を最優先、家庭は一切省みてこなかったため、家族からも見放されてしまいます。天職も家族も失いすっかり落ちぶれてしまった80代の老人。あるのは無事故無違反のゴールド免許だけ。
そんな彼に、麻薬組織が目をつけます。無事故無違反、どう見ても麻薬など運んでいなさそうな老人に「運び屋」をさせようというのです。失うものはなく、時間だけはあるアール。軽い気持ちで一往復。すると想像以上の報酬金が手に入り、たまげます。お金があれば、これまでの借りを返せる。家族にも振り向いてもらえる。そう思ったアールは2回、3回と「犯罪」を重ねていく。そんなお話です。
シリアスな作品なのかなと思っていたら、これはほぼほぼコメディでした。ハートフル・コメディと言ってもいいくらいのやつです。
のっけから「このジジイただのプレイボーイやんけ」と理解させてくれる作りになっています。ジジイどんどん調子に乗っていきます。いきなり車買い換える時点で、天性のお調子者と言えましょう。それでいて誰からも愛されてしまうキャラクターが見事です。ジェームズ・ステュアートに似てる(要審議)。
完全に身勝手な男のロマンだし、最終的にもだいぶハートウォーミングなほうへ着地してしまうので引っかかる人は引っかかると思いますが、しみじみすごくいい映画でした。なにせ80代のおじいちゃんです。映画から感じ取れる「今を大事にしろよ」「でも、人生しくじったってまだまだ遅くないぞ」というメッセージに説得力があります。
エンドロールに流れる、今のイーストウッドそのもののようなフリューゲルホルンの暖かい音色。音楽を担当しているアルトゥーロ・サンドヴァルさん、トランペッターでもあり、エンドロールの曲もこの方が吹いてるんですね。
マフィアのボス的な風貌がとても素敵なんですけど、じつはこの方の半生を描いたテレビ映画でアンディ・ガルシアがこの方の役をしているそうです。そしてアンディ・ガルシアは本作でマフィアのボスを演じております。なるほど感。
近年だと「15時17分〜」にしろ「ハドソン川の奇跡(2016)」にしろ、実話ベースの作品が多いイーストウッド作品。本作も、園芸家から80代で「運び屋」へ転身したレオ・シャープという人がモデルになっています。 年齢の近い自分が演じたら面白かろう、とイーストウッドはこの話を選んだそうです。
ただ、このレオ・シャープという人のパーソナルについては詳しいことが分からず、そこに関しては創作をすることになりました。どんな人物像を作ったかというと、「仕事第一で家庭をおろそかにしていた男」。それはイーストウッド自身とも大きく重なるのだとか。
伴い、キャスティングにもパンチの効いた要素が加えられました。アールを忌み嫌う娘役に、イーストウッドの長女にあたるアリソン・イーストウッドが起用されたのです。
だいぶマグナムな私生活を送っていたイーストウッド。このアリソンが生まれてから3年後、早くも離婚しています。今でこそ関係は良好らしいですがそうでない時期もあったようで、その頃の気持ちを思い出しながら演じた、とアリソンは言っています。役作り不要、真に迫った演技(っていうか真)が見れます(笑)
そんなキャスティングをしつつも、本作でイーストウッドはなんとベッドシーンをこなしていたりするという現役マグナム感。イーストウッドって硬派なイメージがあったので、今回いろいろ調べてみて結構意外でした。
クリント・イーストウッド、なんだかんだでもうすぐ90歳。さすがに、走れなくなる日も遠からず訪れてしまうはず。これが最後になる可能性も大いにあります。観れてよかったです。少なくとも「イーストウッドの時代を生きた!」と胸張って言えます。
ちなみに、公開中の「グリーンブック」に続いて本作もロードムービーです。行く先々で差別的な発言(を、するイーストウッド)がちょいちょい出てきたりするので、「グリーンブック」「ビール・ストリートの恋人たち」などを観たばかりだと気付く点も多いかもですね。
(2019年29本目/劇場鑑賞)