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映画「あの日のオルガン(2019)」感想|生き生きとしたキャスト、自ずと生まれる厭戦の思い。

シネマ・チュプキにて、映画『あの日のオルガン』を観ました。久保つぎこさんによるノンフィクション『あの日のオルガン 疎開保育園物語』を原作とした、太平洋戦争末期「疎開保育園」の物語です。


映画「あの日のオルガン」ポスター
映画「あの日のオルガン」ポスター


ウクライナの子どもたちへのチャリティー上映となっていたことが鑑賞動機。例によって予備知識のないまま観たのですが、これがすごくよくできた映画で、厭戦映画としてはもちろん、わちゃわちゃ喜劇としてのクオリティがまず素晴らしかった…!

監督・脚本の平松恵美子さんは、山田洋次監督のもとで共同脚本や助監督を長年つとめてこられた方なのだそう。驚くべきは、とにかく始まった瞬間から役者陣のアンサンブルが完璧に仕上がっていて、「これは期待できる!!」ってな朝ドラの初回を観たときのような感じで……。監督のかた、すごいな?!とゾクゾクしながらスクリーンにかじりついていました。

おそらくこれまでのキャリアで監督は家庭内での会話劇なんかを散々やってこられているのだと思うのですけど、そういうシーンのテンポ感がとてつもなく良くて、冒頭の芝居じみた職員室シーンから既に面白いし、舞台を古寺に移してからもちゃぶ台囲んだ会議シーンという地味な絵面ながらばっちりみんなのキャラを立たせてて、お便所行きまーすって人ひとり通るだけで可笑しみがあって。手練れとはこのこと。感服。

キャストも、それこそまさに朝ドラ級のキャストがそろっているんですよね。主演に戸田恵梨香さん大原櫻子さん、次いで佐久間由衣さん三浦透子さん堀田真由さん、田畑智子さんまで出てきた!すごい! 堀田真由さんは観ている間思い出せなかったけど、そうだ今『鎌倉殿の13人』でガッキー亡き後の義時妻でしたね。それで言ったら三浦透子さんは義経妻だしね。いや〜豪華だなあ。

閑話休題)だもんですから、戦時中といえども賑やかで楽しげな空間がそこにはあって、この幸せくらいは守りたいよねという気持ちが画面を見ているだけで十二分に生じて、だからこそ突き刺さってくる後半の展開のつらさ。戦場の映らない戦争映画として、厭戦映画として、非常によくできていました。

「私たちの文化的生活を作ろう」という言葉も印象的でした。つくづく思いますけどコロナ禍を体験することでわたしたち、いわゆる「戦時中」と心が近くなって、以前よりも格段に戦争映画を肌感覚で味わえるようになってしまったなと。「文化的生活」の脆さもあらためて実感するここ数年でしたから、響く言葉でした。

あまり自分から進んで手に取るような作品ではなかったため、こうして観ることができてよかったです。チュプキでは8/16(火)まで上映していますが、配信等もありますのでぜひこの夏の時期にどうぞ。

以下、はみ出し雑感を少し。

  • 戸田恵梨香さん、戦時中の質素な服装だとなおのこと『愛の不時着』のユン・セリ(北朝鮮滞在モード)に見える……似てる……。「怒りの乙女」の決壊は、そらそうよってレベルで泣かされます。ヒロインだけどヒール。好演でした。

  • 大原櫻子さん、彼女なくしてこの映画は成立しないほどの、あらゆるパワー炸裂。子どもの扱いもうますぎて、もしかして本当に保育士??と思ったけどそうではないらしい。天性か。ちなみに、だいぶ前にライブを拝見したことがあります。めっちゃ歌うまかった。終盤の弾き語りの説得力よ。

  • 佐久間由衣さん、好きだわ〜〜。どの作品でも感じられるあの温かさ、懐きたくなってしまう包容力は、長身から来るものなのかしら。大原櫻子さんとのコンビをあそこまで仕上げておいて、そこからの突き落とし。憎いけど、うまいんだわ、使い方が……。

  • 三浦透子さん、いるよ、いるよね、ああいう保育士さん絶対いる。三浦透子三浦透子みを存分に発揮できていて最高のキャラでした。公式サイトのキャストプロフィール見てて、おいおい『カムカムエヴリバディ』も『ドライブ・マイ・カー』も書いてないってどういうことよと一瞬思ったけど全部このあとか。そらそうだ。つくづく躍進だったんですなあ。

  • アン・サリーさんによる主題歌『満月の夕(2018ver.)』、ピアノだけのシンプルなアレンジと思いきや、しっとりオルガンが被さってくるところで涙。あの音色、ずるい。ちゃんとあの日のオルガンなんだ。

(2022年129本目/劇場鑑賞)