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映画「ある日どこかで(1980)」感想|強い気持ちで時空を超える、衝撃のトラウマ恋愛物語

かなり異色のタイムトラベル恋愛映画ある日どこかでを観ました。すごく……すごく良かったけど強烈なトラウマ映画にもなった感。寝る直前に観るもんじゃなかったな。


映画「ある日どこかで」ポスター
映画「ある日どこかで」ポスター


観たきっかけは、大林宣彦監督の『時をかける少女(1983)』。こちらの劇伴は松任谷正隆さんが担当していますが、依頼するにあたって大林監督は『ある日どこかで』の「あのメロディの気配をやってくれ」と指定したそうです。

音楽参考試写として松任谷さんとジョン・バリーの「ある日どこかで」を見たんですよ。そしてこの映画に目を泣きはらして感動できる作曲家を得たからこそ、この「時をかける少女」の音楽が成立したわけです。(「大林宣彦メモリーズ」p292に再掲された「キネマ旬報」1983年7月下旬号・石上三登志さんと監督の対談より)


また音楽だけでなく、物語としても和製『ある日どこかで』をやろうとしていたようです。

大林 深町一夫と芳山和子は、時代が違うということで結ばれず、年齢差も時代も違うということじゃ『Somewhwre in Time』。
──『ある日どこかで』。
大林 あれがそうでしょう。時代が違ったから結ばれなかった。そのふたつを映画的に結び合わせれば、タイムリープものはそのまま年齢差の悲劇にもなる。そういう発想ですよね。
(「大林宣彦、全自作を語る」p167『時をかける少女』新録インタビューより。「あの気配をやってくれ」のくだりもこちらに収録)


先日ヒッチコックの『めまい(1958)』経由で『時をかける少女』を観直してえらく感動したことから、より作品理解を深めるため『ある日どこかで』も観てみることにした、という経緯でした。

そしたらまあこれが『時かけ』以上にトラウマSF恋愛映画だったわけです。以下ネタバレを含みますので、もしこれから観てみようかなと思ってる方おられたら余計な情報を入れずにまずご覧になるのがおすすめです(トラウマとか言っちゃったけど、いい映画です)。


さてこの映画、時空を超えた遠い過去で何かあったんだな、今はさっぱりだけど最終的にはどっぷり泣かされるんだろうなと期待できるかたちで幕を開けます。懐中時計、ホテル、肖像写真、ラフマニノフ。いくつものアイテムと記憶が周到に結びついていくのだろう、ぼくはむせび泣くのだろう。受けて立ってやろう。

時は1980年。ただならぬ縁がありそうな見知らぬ女性ジェーン・シーモアにひょんなことから魅入ってしまった主人公クリストファー・リーヴは、若かりし彼女に会うべく自己催眠型タイムトラベルを試みます。

これがまず面白くて。行きたい時代の衣服をまとい、その時代の硬貨をしのばせ、「現実」を想起させるものを取り除いた部屋で強く念じながら眠る。うまくいけば、目が覚めた時そこは……。つまり「強い気持ち」だけでタイムトラベルをするということです(『時かけ』もそうですね)。

SF的ガジェットを使用しない「入眠」による時間旅行。滑稽にも思えるのだけど、あわよくば自分にもできてしまうかも、と思えるリアリティがそこにはあります。要は「夢」。まあ本作のようにロマンチックないい夢を見れることはあまりないですが、悪夢から飛び起きてしばらく現実に帰れないなんてことはよくある体験でしょう。

かつて彼女が宿泊したホテルの一室で自己催眠型タイムトラベルを見事成功させた主人公は、1912年のホテルで目を覚まします。見知らぬ想い人は世にも美しい人気女優ですが、強い運命に後押しされて思い描いた通りのラブロマンスが展開、夢見心地の主人公。しかし──。

そう、幸せの絶頂で夢から覚めてしまう。現実に戻ってしまう。まあまあ、よくある話ですよ。さあここからどうやって1912年に帰る? ホテルの記念館で何かを見つけるか? 懐中時計は彼女の手元。まだ鼻歌レベルなラフマニノフはどう絡んでくる? ここから、ここからですよ! 強い気持ち・強い愛! がんばれ主人公!!

……まさかここで終わるとは思わんですよね。衝撃でしたよ。エンドロールの文字が流れてきて「マジで?!」って声に出ちゃいましたよ。普通、もうひと展開あるだろ。中盤だろ、さっきのは。そこで終わるってことは、いくらなんでも、ないだろ。

でもね、ここで切ってるから名作なんですね。語りきらないことの効果を強く感じました。語られないエピソード、回収されない伏線の数々。いくらでも想像する余地はある。聞くところによればファンクラブがあり、公開記念日には毎年ホテルに多くの人が集うのだとか。わかる。確かにこの映画はカルトに愛せる気がする。

ホテルにはあの肖像写真も売っているそうで、おそらくだけど同じように額装して「念じて」みたファンも一定数いるんじゃなかろうか。だってそれこそ1912年のグランドホテルに飛んで、彼のスーツからコインを抜き取っておけばいいわけでしょ。誰かやってるよ。んでもって映画の結末とは違う時間軸ができてるよ。

大真面目にそんなことを夢想してしまう、きわめて映画的な映画でございました。あとね、劇中で彼が宿泊した6月28日、わたしの誕生日なんですよね。そういうことがあるとまた一気に映画って自分の物語になるじゃないですか。はい。いいですね。映画。

(2021年128本目/PrimeVideo)

書ききれなかったけれど、肖像写真一枚で一目惚れさせる説得力の持ち主ジェーン・シーモアが本当に本当に魅力的なこと。体格・等身・顔面なにからなにまでディズニープリンスのごとき(こんな男性が実在するとは)クリストファー・リーヴの陽と陰。ジョン・バリーによる、個人的には『フォレスト・ガンプ(1994)』のテーマと並ぶトラウマ級な泣かせの劇伴。特筆ポイントは尽きません。