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至高の音楽映画「アメリカン・ユートピア(2020)」感想|めちゃくちゃ良かったとしか言えない

映画「アメリカン・ユートピア」より
映画「アメリカン・ユートピア」より

巷で話題の音楽映画アメリカン・ユートピアをやっと観ました。めちゃくちゃ良かったのでぜひ映画館で観てください。以上です。

と済ませたいところなんですがもうちょっと何か書かないといかんですよね。一応概要としては、「元トーキング・ヘッズのフロントマン、デイヴィッド・バーンと11人の仲間たち」による音楽パフォーマンス中心のブロードウェイ公演を、なんとあのスパイク・リー監督が映像作品に仕上げたもの。です。多分そんなところです。

ただこの情報、特筆しなくてもいいかなと思っています。というのもわたし、これまでトーキング・ヘッズもデイヴィッド・バーンも全く聴いたことがなかった上に、スパイク・リー作品と言われると一瞬身構えてしまうような感じだったので。

では何を特筆すべきかといえば、繰り返しになりますが「めちゃくちゃ良かったのでぜひ映画館で観てください!」に尽きます。いやもうほんと、めちゃくちゃかっこいいんです。人間の原始的な本能が疼きまくるんです。ここ数年いろいろ拗らせてて音楽映画って避け気味だったんですけど、やっぱり音楽はよいものです……。

というか本作もだいぶスルーの機運が高まっていたところ、「トーキング・ヘッズとか全然知らずに観たけどすごい良かったですよ」とおすすめしてもらったおかげで見逃さずに済んだので、わたしも誰かにとってのそんな一声になりたい。トーキング・ヘッズとか全然知らずに観たけどすごい良かったですよ!


もうちょっと何か書く。

「グレーの揃いのスーツに裸足、配線をなくし、自由自在にミュージシャンが動き回る、極限までシンプルでワイルドな舞台構成。マーチングバンド形式による圧倒的な演奏とダンス・パフォーマンス」
映画『アメリカン・ユートピア』公式サイト

この「マーチングバンド形式」というのが一番楽しいところで、つまり「ドラムがいない」んですよね。全部生演奏なのに、めっちゃグルーヴィーだったりダンサブルだったりするキレッキレのバンド演奏なのに、そこにドラムはいない。

じゃあどうしているのか。通常は一人が両手両足で演奏する「ドラムセット」を、このバンドでは何人ものプレイヤーが分割で担当しています。バスドラムだけを叩く人、スネアとハイハットだけの人、タムだけの人、シンバルだけの人、といったようにです。全ての楽器は専用のアタッチメントに装着され、立奏できるようになっています。

ただまあこれは先ほどから出ている「マーチングバンド」のスタイルであるわけで独自の目新しさとは言えません。が、しかし。たとえルックスはよくあるマーチングバンドでも、しっかりマイキングされて作り込まれたサウンドでエレクトリックなバンドのリズムセクションとなった時、その受ける印象は全く違うんです。これ本当にすごい。音楽を、楽器をやっている人ほど「なんだこりゃ、すげえ」という驚きは強くなると思います。

わたしも吹奏楽におけるタイコ叩き人間を長年やってきた者として、しかもこういう分割ドラムスタイル(マーチングにはあらず)も何度かステージで経験があるのですが、いやちょっと待って、こんなの見せられたらもう一度このスタイル挑戦したくなっちゃうわ、極めてみたくなっちゃうわ、などと非常に疼きました。

オーディエンス的観点から見ても、なんと楽しそうな空間であることか。いつの間にかオールスタンディングみたいなことになってるわけですよ。うわあ、いいなーーーーー、って。少し前に松竹ブロードウェイシネマで『キンキーブーツ』のウエストエンド公演を観たときもめちゃめちゃジェラスでしたけど、同じような感情。アフターコロナの世界ではしばらく味わえなさそうな密度なのが、また切ないファンタジーなんですよね……。

とまあそんなわけで、もちろん見どころとなる部分は人それぞれです。プレイヤー視点、オーディエンス視点、スパイク・リー作品ですからメッセージ性も強いです。でも、どう見るにせよ至高の体験ができることは間違いありません。ぜひ!映画館の音響で!どうぞ!

(2021年109本目/劇場鑑賞) わたしがロッテントマト握り潰す勢いで爆アガりしたのはブロンドのカウベルお姉さんが出てくるところです。すっかり『ブラック・ウィドウ』観た気になりましたからね。まだ観てないんですよね、早く観ないとね……。

あと、脇に抱えた小さな締め太鼓みたいなやつ、ピッチが変わるやつ、よく出てきますけどもあれは「トーキング・ドラム」というやつで、脇の締め込みで実際ピッチが変わるのです。「ロートタム」っていう、ハンドルを回すことでピッチを変えられる楽器も出てきますね。知らないと「やっぱり生演奏じゃないのでは?」なんて思ってしまいそうなポイントなので一応補足です。

もいっちょ、今回は初めて池袋のシネマ・ロサさんを利用したのですけども、地下のシアターがとても居心地が良くてですね。座席もしくは床面に僅かな傾斜が付けられているのか、座ると平衡感覚がおかしくなるような感じがあって(スクリーンの高さが予想と違う!ってなる)、それが気持ちいい。「ひと座り惚れ」しちゃいました。また行きたい!