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主に映画の感想文を書いています

映画「トラスト・ミー(1990)」感想|86年生まれ、初めてのハル・ハートリーにわりと驚く。

ハル・ハートリー監督の『トラスト・ミー』を観ました。ポッドキャスト別冊アフター6ジャンクション」でこの特集を聴いたのがきっかけです。

「#66 ジェーン・スーも絶賛!今絶対にチェックすべきNYインディ映画シーン重要監督とは? podcast特別編 - 別冊アフター6ジャンクション」


ちなみにこれ別にジェーン・スーさんは出てこないので釣りタイトルなんですけど(笑) 30年ぶりに『トラスト・ミー』観たらめっちゃ良かった、というツイートをジェーン・スーさんがしていたらしくて、そのへんにも絡んだハル・ハートリー近況&入門特集となっております。なお当該ツイートはこちら。


ハル・ハートリー監督、どうやらミニシアターブーム世代の方々には超懐かしい!!って感じみたいなんですが1986年生まれのわたし的には馴染みがなくてですね。せっかくの機会なので初ハートリーしてみることにしました。

で、確かにこれ、30年前の映画とは思えない価値観が織り込まれた作品で驚きました。序盤こそ「高校生の妊娠」「相手はアメフト野郎」みたいなところから入るのですけど、その行き着く先は毒親問題だったり、自立した生き方についての問い掛けだったりするんですよね。2020年代の作品だよと見せられたら「さすが、しっかりアップデートされている」とか言っちゃいそうです。


主演二人が写るキービジュアル
主演のお二人。この写真、すごく好きです。


キャストもすごく良くて、まず主演のエイドリアン・シェリーさん。ケバケバのギャルで登場しておきながら、ひとたびメイクを落とし髪をまとめ眼鏡をかけてシンプルなシャツワンピに着替えたらその後ずっとそのまま一張羅を貫くっていう、おそらくは寓話的?な衣装設定なのでしょうが単純に可愛いので好き。

この方、上記ポッドキャストで知ったのですが最近日本版も上演されていたブロードウェイ・ミュージカル『ウェイトレス』の原作者さんだそうで、しかし2007年の初演直前に40歳の若さで(痛ましい事件で)亡くなっているという……。『ウェイトレス』は周囲でとても評判が高かったので何らかのかたちで観れたらいいなと思っております。

そしてもう一人の主役、マーティン・ドノヴァンさん。なんていうか、いいキャラなんですよねえ。常に手榴弾をお守りとして持っていて「誰も愛さない」とか言っちゃう偏屈なのに、すごくマトモな、信頼できる男にも見えてしまう不思議。彼がお義母さんと酒を酌み交わしているシーンでの、レコードの喩え話がすごく好きです。

「おやじとの関係はまるでレコードみたいだ。レコードが載ってるプレーヤーには古びた針がついてる。音が飛ぶ。ひどいもんさ。溝がつぶれてる。でも頭の中で想像して聴く。知ってる曲だから。」

「知ってる曲だから」で、ぶわっと。

お(義)母さんもいいんですよね。何がいいって、めちゃくちゃ顔がいいの。イケメンなの。お母さんだけど。毒親だけど。なんでそんなに顔がいいのよ。でも最初から見返してみると、冒頭では「妻」もしくは「母」の顔してるんです。ああ、なら意図的に「この顔」なんだ、って。彼女にも幸あれと思います。

人間ドラマとシュールのバランスも好ましくて、重めのネタを扱っているわりに特別どすんと来るほどではなく、いいもん観たなってそこそこ清々しい気分で思える約100分でした。せっかくU-NEXT入ってるので、ハル・ハートリーもうちょい観てみましょうね。

(2021年111本目/U-NEXT)