クラウドファンディング「ミニシアター・エイド(Mini-Theater AID)基金」のリターンとして先月末まで特設配信サイト「Thanks Theater」内で観ることができた2作品を駆け足で観ました。
「Starting Position(2020)」
2011年6月。『この世界の片隅に(2016)』制作初期段階のとある日、片渕須直監督と監督補の浦谷千恵さんがコルクボードを前に腕組みして唸る小一時間の記録。62分。初公開。
冒頭とラストのドキュメンタリー的編集がなければただのノーカット会議室映像であり、ていうかドキュメンタリーですらないのではと思ってしまうほど大胆な作品でしたが、それでも着実に構成や枠組みが見えてくる様はときに興奮を覚える部分もあって、煮詰まっている時に観たいヒーリング映像という感じ(でももう観れない……)。
おもしろいのが、監督と監督補(なお奥様)が話し合っているように見えてじつはおそらく監督のプレゼンタイムなんだろうなと。監督の中では大体決まっていて、悩んでいるふりをしながら少しずつ手持ちの案を提示していっているように見えました。
ほんの62分でも、いかに『この世界の片隅に』が綿密なリサーチのもと作られているかが垣間見える貴重な映像だったと思います。むしろ一時間でここまでまとまるのか!という驚きもありました(ずっと壁時計が映っているので、リアルタイムの一時間なのです)。また何かで観れる機会があるといいんですけどね。
#ミニシアターエイド
— 片渕須直 (@katabuchi_sunao) 2020年5月14日
クラウドファンディングのリターンのひとつサンクス・シアターに出すために編集中の作品「Starting Position」の画面です。
この密室で、登場人物二人だけで、物語は出来上がってゆく。1時間。
クラウドファンディング締め切りは、今日5月15日いっぱい。https://t.co/swxrbm22LN pic.twitter.com/7goFlebvYg
「ただいま、ジャクリーン(2013)」
『勝手にふるえてろ(2017)』『私をくいとめて(2020)』などの大九明子監督による2013年製作の短編。40分。出演は染谷将太、趣里、いっこく堂など。
映画美学校の脚本コース第1期初等科作品とあったためてっきり大九監督の学生時代の作品なのかと思い込んであまりの高クオリティにぶっ飛び。じつは勘違いで、脚本家・村越繁さん(『シドニアの騎士』など)が在学中の作品だったのでした。いや、なにせ先日観た『意外と死なない(1999)』がすごかったもので大久監督ならこれくらい作りかねないと。
主人公はバス事故で孤児となった少年。そして、事故現場で彼に拾われた腹話術人形。ジャクリーンと名付けられたその人形と共に彼は育ち、立派な青年になった。あるとき、かつて暮らしていた施設のイベントで腹話術を披露してほしいと頼まれた彼は、久しぶりにジャクリーンと向き合う。
内容はだいたいこんな感じ。これとにかく、腹話術人形ジャクリーンが素晴らしくて。ただの不気味な人形だったのが、いっこく堂さん扮する「元の持ち主」から命を吹き込まれると一転、感情豊かなキャラクターとして生まれ変わるんです。すごい。いっこく堂さんも、いま改めてすごい。
以降、基本的には腹話術ではなくアフレコされた「ジャクリーンの声」で展開していくのですが、このへんの塩梅も見事で。独特の声色、一挙一動の可笑しさ、小気味良い効果音、しかし切なさ。すっかり虜になってしまいました。現実から少しだけ浮いた絶妙なファンタジー感、イマジナリーフレンド的存在の表現など、大久監督の作家性とも非常に合致していると思います。
なお観てから気付いたのですがこちらは各種サブスク等で普通に観れます。いまひとつ星は振るわないようですけどもわたしはすごく好きでした。
(2021年101・102本目/Thanks Theater)