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映画「ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記(2020)」感想|少女の純粋な目線で知る、沖縄の「悲しみ」。

映画「ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記」ポスタードキュメンタリー映画『ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記』を観ました。

北国・能登半島から沖縄へ15歳にして単身移住してきた好奇心旺盛な少女、坂本菜の花さん(さかもと・なのはな/本名)。老若男女入り混じるフリースクールでの勉強や交流、学生記者としての取材などを経て彼女は沖縄のことを深く知っていきます。そしてその様を追いながら観客も一緒に学んでいく、そんな作品です。

ひとつ前に観た同じく沖縄についてのドキュメンタリー『沖縄 うりずんの雨(2015)』がかなりヘヴィーでしたので、対するこちらはとても見やすい、心温まる作品という印象が際立ちました。とはいえ扱っている内容はさほど変わりません。こちらもやはり、観ていくうちにドスンとくるものへ突き当たります。

教えてね、教えてください。例えば戦争って何?

これは大林宣彦監督の遺作『海辺の映画館─キネマの玉手箱(2020)』に出てくる、語り部の少女の台詞。もちろん本作とは関係ありませんが、「少女」が主人公となることでつい様々な物語と重ねながら見てしまったところが少なからずあります。

菜の花さんは高校進学のタイミングで能登半島から沖縄へやって来ます。そして沖縄での在学中、彼女は地元石川の新聞にコラム「菜の花の沖縄日記」を寄稿し続けます。ずらっと並べられた切り抜きを見て、同じく大林宣彦監督の所謂「戦争三部作」一作目『この空の花 長岡花火物語(2012)』を強く連想しました。


『この空の花』は、「まだ戦争には間に合う」という新聞コラムを読んだ女子高校生(奇しくも?名前は「花」)が、記事を原作とした反戦演劇を上演しようとするお話です。菜の花さんはコラムの第一回を「おじぃ なぜ明るいの?」と題するのですが、その答えが次第に見えてくる様なども含めて、ドキュメンタリーと劇映画が渾然一体となった名作『この空の花』に通じるものがありました。

また、菜の花さんが15歳という若さで故郷を離れた理由が少しだけ伺えるのですが、そこからは現在放送中の朝ドラ『おかえりモネ』の主人公モネ(清原伽耶さん)を連想したりもしました。高校卒業後、故郷の気仙沼を離れて登米へ単身移り住んだモネ。実家は漁業、対して登米で彼女が就職したのは森林組合です。海と山、正反対の場所で生きながら、しかしモネは全てが繋がっていることを学びます。漁業、林業、さらには気象や自然災害と、非常にドキュメンタリー的色合いの強い朝ドラなので今からでもぜひご覧くださいとついでにプッシュ。

おじぃ なぜ明るいの?

おばぁも、なぜ明るいの?

学びを深めていくにつれ、菜の花さんはそのわけを知っていきます。「沖縄のイメージは月」だという菜の花さんの言葉が印象的でした。一般的には、沖縄といえばどちらかというと「太陽」ではないでしょうか。でも彼女曰く「月」であると。こんなイメージの違いにも、本土と沖縄の溝があらわれているのかなと思いました。

このあたりのことで連想したのは、是枝裕和監督のドキュメンタリー映画大丈夫であるように -Cocco 終らない旅-(2008)』です。


当時の感想記事に「沖縄の人たちはなぜ明るく、歌い、踊り、三線を弾いているのか」とわたしは題しましたが、これはつまり「おじぃ なぜ明るいの?」とイコールですね。沖縄といえば「なんくるないさ〜」のイメージだけど、でもこの言葉、ただ楽観的なだけの言葉じゃないんだよ、というのは近年広く知られるようになってきたこと。同様のことが沖縄には沢山あるのでしょうから、知っていかないといけないなとあらためて思いました。

また、『大丈夫であるように』のなかで、沖縄出身の歌手Coccoさんは沖縄の暗部を知らしめるだけでなく、自分の知らなかった日本の暗部、例えば青森の六ヶ所村にある核燃料再処理工場を訪れてみたりします。本作中でも菜の花さんは沖縄の暗部を知ったのち、故郷・石川県に再度目を向けます。そんなところも通じる作品です。

ちむぐりさ

本作がただ温かいだけの見守り系ドキュメンタリーに終わっていないのは、ところどころ残酷に挿入されるニュース映像のもたらす衝撃によるところが大きいでしょう。温かさと痛ましさのコントラストが非常にショッキングです。

どれだけ人々が辛抱強く平和を願っても、お構いなしに起き続ける事件・事故。墜落するヘリコプターやそのパーツが市井を脅かし、ヘリが上空を通過する際には子供たちを校庭から避難させる学校もあるといいます。こんなの戦時中じゃないかと。全くその通りですね、と言うほかありません。

フリースクールを卒業した菜の花さんは故郷に帰るのですが、辺野古移設に関する県民投票の際に再び戻ってきます。すっかり大人の顔になった菜の花さん。頼もしい限りです。しかし、印象的なのは県民投票後、7割の県民が「反対」と投じたにも関わらず途切れることのないトラックの列(同じ日本の光景と思えない)を前に呆然とする彼女、そしてその帰り道に見せる顔。明らかな、怒りと悲しみの顔。


沖縄の言葉、ウチナーグチには「悲しい」という言葉はない。それに近い言葉は「肝(ちむ)ぐりさ」。
誰かの心の痛みを自分の悲しみとして一緒に胸を痛めること。それがウチナーンチュの心、ちむぐりさ。映画『ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記』


タイトルの「ちむぐりさ」にはこんな意味があるそうです。菜の花さんが沖縄再訪時に見せた顔は「ちむぐりさ」を感じさせるものでした。

結局ドスンとくるほうの感想ばかり書いてしまいましたが、まずはとにかく菜の花さんがほんとうに素敵、魅力的!なので、軽い気持ちでご覧いただければと思います。

なおわたしが鑑賞したシネマ・チュプキ・タバタでは、6/29までの上映だったところ、好評につき8/1からアンコール上映となるそうです。田端の小さな映画館チュプキ共々おすすめの作品です! ぜひ!

(2021年100本目/劇場鑑賞)

連載をまとめた書籍も出ています。菜の花さんのファンになってしまったので読みたい。アンコール上映の頃に買おうかな。

ちなみに本作で今年の鑑賞総数100本目、ついでに劇場鑑賞本数もキリよく50本目となりました。さらにどうでもいいことを付け足すと鑑賞日6/28はわたくし353(通称さんご)の35歳の誕生日。沖縄といえば珊瑚。菜の花さんが通っていたフリースクールの名前も珊瑚舎スコーレ。とかなんとか、奇しくも奇しくも。

ていうか15歳の頃わたしは何か考えていたか? きっと何も考えていないぞ? 『沖縄 うりずんの雨』に引き続き恥じ入るばかり、フォントサイズを下げるばかりの駄目な大人ですが、生暖かく見守っていただければ幸いです。