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映画「意外と死なない(1999)」感想|大九​明子監督の初監督作にして、大九​作品の原液!

勝手にふるえてろ(2017)』『私をくいとめて(2020)』などの大九​明子監督が映画学校在籍時に課題で制作した初監督作品『意外と死なない』を観ました。

現在この作品は、クラウドファンディングミニシアター・エイド(Mini-Theater AID)基金」のリターンとして特設配信サイト「Thanks Theater」内で観ることができます(視聴可能本数は支援額により異なります)。まだ一本も観ていなかったのですが、今月いっぱいで終了してしまうため駆け足で観ることに。

そこで一本目に選んだのが大九​監督の『意外と死なない』です。このタイトル、じつは『勝手にふるえてろ』劇中でも台詞として登場します。どういう文脈を持つ言葉なのかというと、監督曰く、こうです。

個人的に、映画美学校時代に撮った映画のタイトルとリンクして、若い女なんて言うのは「大変だ、大変だ」と言いながらも「意外と死なない」生き物なんだから「勝手にふるえてろという20代の自分に向けた応援みたいな一文とともに、イメージが浮かんだんです。大九明子監督、魂の叫び「若い女なんて“大変だ”と言いながらも意外と死なない生き物だから『勝手にふるえてろ』」【インタビュー】 | FILMAGA(フィルマガ)


実際に観てみると「リンク」どころではなく、本作は大九​監督の初監督作でありながら既に後の作品に直結するような、むしろ集大成、というか大九​監督の「原液」であるかのような作品だったので驚きました。

表向きには決して出すべきではない心情の吐露、それをしてしまったら社会的に死んでしまいかねない言動、そういったものを映画の中とはいえ果敢に「出してしまって」いるのが大九​作品の特徴であり、観客に「自分の映画だ」「なんで知ってるの、誰にも言ってないのに」と思わせる部分だと思います。

勝手にふるえてろ』のヨシカ(20代)はそれを勢い任せで出してしまうタイプの主人公でしたが、『私をくいとめて』のみつ子(30代)はぐっと堪えて妄想にとどめるタイプの主人公でした。しかし、みつ子がローマでの最終日、親友の皐月に告白する正直な気持ちは本来「出してはいけない感情」の最たるもの。かつ、個人的には大九​作品で最も共感できる部分でした。

その要素がですね、この『意外と死なない』には猛毒な原液のまま出てくるんですよね(笑) まさかの方向へ進んでいく「家庭訪問」のオープニングからインパクトは強烈ですが、「結婚する同僚」に対しての(映像化すらはばかられるような)妄想はさらに強烈です。よくぞこれを。

さらにすごいなと思うのが、本作はオリジナル脚本なわけです。で、それをそのまま商業映画にブラッシュアップしたような『勝手にふるえてろ』や『私をくいとめて』は、あくまで綿谷りささんの小説を原作としているわけです。本作を観ると「大九​明子×綿谷りさ」のタッグがいかに運命的な引き寄せだったのかということが、ものすごく分かります。必然、絶対、この組み合わせしか有り得ない、と思えます。


この作品、まだまだ見どころがございまして。それはずばり、主演が大九​明子監督ご本人だということ。いやなんか、まず「この女優さん好きだな〜」って思いながら観てて。でもなんか、やけに見覚えのある顔だなとも思って。え、あ、大九​監督?! 大九​監督か!! みたいな。

いやはや、芸人や役者としても活動されていただけあって、すっごくいいのですよ、大九​監督(「億田明子」名義)のお芝居。特に目が印象的で、シュール、シニカル、オフビート、って感じの存在がたまらない。「主演:大九​明子」の映画、また撮ってほしいです。

また、自主制作レベルの作品としてはあまりにクオリティが高いのも驚きでした。ダイナミックなカメラワーク、子供から大人までエキストラを多数要したであろう「小学校」というシチュエーション、「二」を思わせる彼氏?の原付アクションなどなど、画質を除けばこれは普通にプロの作品ではないのか?と思いました。

そんなわけで、40分程度の中編ながら大九​監督のすべてが詰まったような、大九​作品ファンであれば間違いなく必見の作品でした!

(2021年86本目/Thanks Theater)