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劇場アニメ「映画大好きポンポさん(2021)」感想|編集マンの苦悩と悦びをコンパクトな尺で追体験

6/4から公開されている劇場アニメ作品『映画大好きポンポさん』を観てきました。試写の感想をTwitterで見かけて「こんなのあるんだ」と気になっていた作品です。

ちなみに制作会社の「CLAP」は、『この世界の片隅に』のチームが立ち上げたスタジオなんだとか。偶然にもひとつ前に片渕須直監督のドキュメンタリーを観ていたので、こういうのってやっぱり繋がるよな〜としみじみニヤニヤしとるんじゃ。


さてこの作品、ざっくりの内容は映画業界内幕もの。ハリウッドならぬ「ニャリウッド」を舞台に、しがない製作アシスタントだった青年が監督に大抜擢されてヒイコラするお話です。つまり彼の名前が「ポンポさん」──ではなく。

ポンポさんとは彼が勤める映画スタジオの敏腕プロデューサーの名で、彼自身はジーン・フィニといいます。これ、アニメ評論家の藤津亮太さんが「タイトル・ロールの『ポンポさん』は言ってしまえば『ドラえもん』と同じ」とおっしゃっていた*1のがすごく分かりやすかったのでそういうことだと思ってください。ジーン君がのび太君です。

なおポンポさん、到底「映画業界内幕もの」というジャンルから思い浮かべるような風貌ではありません。なんならわたしはスクリーンでこのタイプのキャラクターを見たのは初めてだと思います。ご覧いただきましょう。


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劇場アニメ「映画大好きポンポさん」ポスター


バチコーンしてるのがポンポさんです。敏腕プロデューサーのポンポさんです。かわいいですね。B級映画を得意とし、公式サイトのキャラクター紹介によれば、好きな映画は『デス・プルーフ in グラインドハウス』らしいです。信頼できる。


そんなわけでこのポンポさんのもと、新作映画の監督を任されたジーン君。大抜擢の無名新人女優とデ・ニーロ級の超大物俳優、そしてジーン自身もこれが監督デビューとなる大大大プレッシャーに押しつぶされながらも撮影は順調に終了。

編集も兼任することになったジーンですが、大好きな編集作業は意外や難航。それもそのはず、自ら撮った素材はどれも思い入れの深いシーンばかりで切れないのです。さあ果たしてスポンサー向けの試写会までに完成させられるのか?! がんばれジーン君!!──といったお話でございます。

おもしろいのは何といっても「編集」にスポットが当てられていること。アニメ的表現をふんだんに使ってフィルムが切り貼りされていく様は痛快で、この作業がクライマックスとなるのは非常にアツいです。ちょっと『サマーウォーズ』オマージュ的な要素もあるのかなと思いました(最後はよろしくお願いしまぁぁぁす!!!ですしね)。

映画にしろ写真にしろ、その作品の最終的な印象は「編集」によって決定付けられると言ってもいいでしょう。「編集後」の画を脳内に思い浮かべて撮影し、それを編集で脳内イメージに近づけていく、さらには拡大解釈していく。これは間違いなく楽しい作業です。編集室に入ったジーン君が「楽しい楽しい編集の時間だ!」と胸を高鳴らせるの、すっごい分かります。

しかし、思い描いていたような仕上がりには必ずしもなってくれません。特に「尺」。ちょうど2年前、200時間くらい費やして100分の映像を作ったことがありまして。その時の雑記にこんなことを書いていました。

制作を通して心底思ったことがいくつか。

・映画を2時間にまとめる編集マンはすごい
・公開が延びるの、わかる
・ディレクターズカット、わかる
・未公開シーン集、わかる
・映像マンが早死にしがちなの、わかる…
・公開日は精神的に死ぬ

近状@2019.06(おそるべし動画編集沼、など) - 353log

加えて「まーとにかく、規定の尺に収めるというのはものすごい労力とテクニックですよ。これからは2時間の映画を観るたび泣いてしまいそうです。」なんて書いていて。まさにそういう映画なんですよね、『ポンポさん』は。

そんでもって非常にニクいメタ構造も持っていて、まんまと「編集上手いなあ!」と思わされてしまう濃密な作品でした。全体的にはだいぶ不思議なバランス感覚の作品なのですけど、そのへんは箇条書きのはみ出し雑感にて。

はみ出し雑感

  • 不思議なバランス感覚。舞台はニャリウッド……とはいえ実質ハリウッド。画面上に登場する文字は英字だし、キャラクターの名前も英語名。なのに絵柄と声色だけはまごうことなきジャパニメーション。ジョエル・ダヴィドヴィッチ・ポンポネットの、不思議な世界。

  • 「ポンポさんがきったぞー!」は正直すごくいい。好き。

  • プロデューサーと監督の関係、映画とお金の関係、そしてやはり編集マンの苦悩と悦び、このあたりがしっかり描かれているので、コミカルな作品でありながら観賞後はわりと心の深層まで降りてきてる。

  • 今は誰もがInstagramなどで編集(加工)をする時代。カメラマンでなくとも、映画監督でなくとも、「こんなエフェクトをかけよう」と思い浮かべながら撮影する、という感覚は自然のものになっているはず。それこそ劇中でも「街中の光景を切り取ってエフェクトを次々と試していく」印象的なシーン(ナタリー初登場シーン)があるけれど、あれはまさにインスタアプリで日常的に行われていること!

  • ポンポさんの持論「映画は女優を魅力的に撮れたら成功」、これはわたしが映画を観るときの大きなポイントと合致しているので全面的に支持したい。

  • ニュー・シネマ・パラダイス』はフィルムの切り貼りにまつわる物語という印象が強いので、登場にも納得。でもそんなに長かったっけ。まあまあ長いのか。久しぶりに観たいかも。と言いつつ多分観ない。

  • 架空の世界における「え!あの有名な!」みたいなやつがすごくむずむずして苦手なのと、コカコーラがコケコーラみたいなのも無性に苦手なので、それらの点のみ本作はきつかった。ハチクロモカデミー賞とかね。

  • 序盤に何度か出てくる「雨で濡れて輝く道路」のカットが、以前ブロードウェイで撮ってきた写真*2とすごく似た雰囲気で嬉しくなった。これ。もちろん加工はめっちゃしてます。f:id:threefivethree:20190103191346j:plain


(2021年84本目/劇場鑑賞) TOHOシネマズへ行くのが2ヶ月ぶりくらいだったらしく、えらく懐かしい気持ちになりました。この映画を観る際は真ん中にどっかり座るのがおすすめです。人がまばらだとなお良い。良くはないが。