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映画「カツベン!(2019)」感想|サイレント時代の映画興行と活動弁士を描いた素朴なコメディ

映画「カツベン!」ポスター周防正行監督の映画『カツベン!』を観ました。

主演は成田凌さん。朝ドラ『おちょやん』で惚れちゃって、先日はまず『愛がなんだ(2019)』を観ましたけども。やっぱりいいですね成田凌さん。なんでも周防監督も「タイプだから」という理由でキャスティングしたらしく、固い握手です。

さて、カツベンとは活弁つまり活動弁士。サイレント時代の映画(活動写真)にリアルタイムで台詞と解説(劇中では「説明」と呼ばれている)を付け加える日本独自の職業で、当時は役者よりも「弁士」目当てで映画を観に来る客が多かったとか。のちの声優文化とも繋がりがありそうです。

一昨年あたり国立映画アーカイブの常設展「日本映画の歴史」へ行ったのですが、そこでは活動弁士の番付表なるものが展示されていました。トップスター級の弁士に始まり、隅っこには出入り禁止を食らったワケアリ弁士の名まで載っていて、当時いかに世間を賑わせていた存在だったのかよく伝わってきました。

ちなみに、「アトロク」でおなじみライムスター宇多丸さんが音声ガイド(聞き役)を担当しています。お近くの方はぜひ。

そんなわけで本作、成田凌さんが演じるのは幼い頃から弁士に憧れ、一時はニセ弁士として悪事に手を貸し、逃亡中に転がり込んだ映画小屋で本物の弁士となる青年。芝居小屋から鞍替えした映画小屋の内幕だとか、映写技師さんのお仕事っぷりだとか、個性豊かな弁士たちとそれを奪い合う小屋同士の争いだとかが劇中では描かれます。

高良健吾さん演じる高慢カリスマ弁士が「なんだあのシャシンは! “説明”を入れる隙間がねえよ!」と怒るシーンでは、先日シネマ・チュプキさんで見せていただいた音声ガイド制作作業*1を思い出して、大正時代も今も同じ悩みを抱えているんだなあとクスリ(失礼)。しかもその対処策が手回し映写機ならではのマンパワーで、へ〜〜〜となりました。

ただ映画としては全体的に山も谷もなくのっぺりのんびりとしていて、127分はちょっと長いんじゃないかな、90〜100分程度がよかったな、なんて思ったりも。サイレント時代のコメディ演出を再現しているらしい各種シーンなども、今の映画として見ると素朴すぎてそれこそ「説明」でも付けといてくれないとどんな気持ちで見ればいいのかよくわからんな、みたいな(大林監督の『海辺の映画館─キネマの玉手箱』くらい柔軟性があってもよかった、と言うのは酷か)。

一番もったいなかったのは、つぎはぎフィルムのジャンク映画を弁士パワーで面白おかしく見せてやろう!というせっかくの見せ場で、その仕事を真正面から捉えてくれなかったこと。なんであそこあんなにカット割ったの?と不思議でならないんですけども。そこは成田凌の顔のアップじゃないでしょう〜〜。結局「魅せられなかった」のかなあ、とすら感じてしまう。無声で始まるオープニングには「おお」と期待が高まっていただけに、もうちょっと活弁の魅力をガツンと見せてもらいかったです。

とまあ不満もありつつ、なかなかこんな平和な映画もないんで(同じような??話なのに『イングロリアス・バスターズ』とは大違いだ)心洗われた気がします、はい。黒島結菜さん演じる一応のヒロインは脇役止まりながら魅力的だったし、モガな井上真央さんもなんかムズムズするけど嫌いじゃない。朝ドラ総集編くらいの気持ちで観ればいいのかも。

(2021年39本目/U-NEXT)

カツベン!

カツベン!

  • 発売日: 2020/06/10
  • メディア: Prime Video