映画「ちょっと思い出しただけ(2022)」感想|映画館で飛び交う感想に聞き耳。ちょっと思い出して帰ろう。
『くれなずめ(2021)』などの松居大悟監督最新作『ちょっと思い出しただけ』を観てきました。主演は伊藤沙莉さんと池松壮亮さん。気になる新作の多いなか、宇多丸さんのムービーウォッチメンに当たっていたので優先順位上げめで行ってきました。
本作はロックバンド・クリープハイプの尾崎世界観さんがジム・ジャームッシュの映画『ナイト・オン・ザ・プラネット(1991)』に感化されて書いた楽曲『ナイトオンザプラネット』を基にした作品で、タイトル『ちょっと思い出しただけ』はその歌詞の一節……なんていう複雑なエピソードがまず好きです。ジャームッシュの映画、観たことないんですけどね(追記:観ました)。
ちょっと雑な言い方をすればこの映画、最近の日本映画のいいとこ取り!みたいな作品でした。『花束みたいな恋をした(2021)』と並べて語りたくなるような恋愛パンドラほじくり系でもあり、『街の上で(2021)』のようなトーキョー群像劇でもあり、『ドライブ・マイ・カー(2021)』『偶然と想像(2021)』あたりが記憶に新しい車内会話劇ものでもあり、『サマーフィルムにのって(2020)』のCody・Lee(李)『異星人と熱帯夜』にも匹敵するエモさとマッチングの主題歌であり。揶揄でもなんでもなく、日本映画に近年感じた「好き」が詰まってるなと思いました。
恋愛や人間関係のディテールを楽しむもよし、キャストの魅力やアンサンブルを楽しむもよし。今の「小さめ日本映画」本当にいいなあ、あまりにも豊作だなあと嬉しくなってしまう一本です。
ディテールといえば、コロナ禍を描写した作品であるところもリアルタイムならではの味わいがあります。2021年から順に遡っていく構成となっているのですが、例えば【「TOKYO2020ロゴ」がフレームインした直後の「オリンピックやるなんて思いませんでしたね」という台詞】。これが「2020年ではなく2021年のシーン」であるとすぐに読み取れる今現在のわたしたち。なんかおもしろくないですか。
またこれは宇多丸さんが言っていたことですけど「2020年が異様に短い」とか(映画評を聴いてから観たのであまりの短さに笑ってしまった)、個人的に胸が締め付けられたのは、河合優実さん(つくづく売れっ子!)演じる後輩ダンサーが「卒業したら海外で踊ろうと思ってて」と目を輝かせているシーン。時は2019年。たったこれだけの台詞で、全てを想像させられ、辛くなってしまう。数十年後にこの映画を観た若者はこの意味を察せないのかもしれないな、などとも思う。ていうかそんな数十年後であってほしい。
それから『街の上で』でもすごく感じた、普通にお酒を飲んで普通にコミュニケーション取れるのって、関係深められるのっていいな、ってこととか。映画はその時代を映すと言いますが、ほんとにね、こんな生々しく、それもリアルタイムに「背景」を感じ取れる時代になってしまうなんてね。つらいなと思う自分もいるし、おもしろいなあと俯瞰で思う自分もいる。ぎりぎりおもしろいままであってもらいたい。戦争まで始まっちゃったし。一年後に今をどう思い出すのか。こわい。
さて、独り言になってきたので、最後はずらりと箇条書きを並べて、言いたいこと全部言って、終わりにしましょう。
言いたいことは言えるうちに
- 夏が始まるLINE交換
- 平成ど真ん中だわ!
- 未練がましく残しがちプロフ画像問題
- 彼氏んちの猫写真あるある
- 「出します」「受けます」みたいなのいつまで通じるんだろ
- 思いのほかLINEが長く続いてるから制作側も「ま、いっか」って入れてきてる感ある
- 伊藤沙莉×咥えタバコにやられる
- タバコは好きじゃないが演出としては消えてほしくない
- 映画モノマネ車内イチャコラ好きすぎ
- 伊藤沙莉さんも池松壮亮さんも、静止画としてはそんな好みじゃないけど動くとべらぼう魅力的
- 最近見た國村隼さんで一番よかった
- 成田凌がいちばん可愛いのどうにかして
- 女子大生よりも可愛い成田凌どうかしてるだろ
- 成田凌は呼び捨てでいいと思っている
- 失礼しました冗談でーす
- 演劇人のありがちハッピーバースデー
- ボルダリングのあと考える人になる葉ちゃんかわいい
- あっそれはもう舌打ちと言っていいのでは
- あのへん最高にときめいた
- 鈴木慶一さんに泣かされる
- 過去のマンション住人にもうっすら泣かされる
- 現在に戻ってくるラストシーンは『ラ・ラ・ランド』を連想
- たたずむ照生の向こう側にじつは朝日、という贅沢な画
- 尾崎世界観さんがバンドをやろうと思ったシーンなのかも
- 際限なく思い出してしまう映画だけど、ひとまずここまで
シアター一期一会
鑑賞した日の客層は推定20代前後の若い人たちが多く、上映終了後すぐに感想が飛び交っていたのもいい映画館体験でした。「私これ、配信されたらもう一回観よー」「いや〜、レイトショーで観れてよかったわ!」「ウィノナ・ライダーがさあ」「彼女欲しくなったわー」「そうか?」。
「レイトショーで観れてよかったわ!」のイケイケなお兄ちゃんは、駅までの帰り道も金髪のお友達と感想を熱弁。「彼女の前では一度もタバコ吸ったことないな〜」とか言いながらタバコ吸ってるのもなんかよかった。わたしはといえば、早速クリープハイプ『ナイトオンザプラネット』を耳から注入し浸っておりました。TOHOシネマズららぽーと横浜の、鴨居への帰り道。いいんですよ。
あとそうそう、駅のホームではイチャつくカップルが自販機の裏とかそこらじゅうにいてね。いつかちょっと思い出すことになる光景だね、と微笑ましい気持ちになりましたね。うん。いい映画だったな。映画っていいな。
(2022年30本目/劇場鑑賞)
松居大悟監督による、伊藤沙莉さんも出演のクリープハイプ『ナイトオンザプラネット』MV。ラストがいいです。
内容濃いめな監督インタビュー。「タクシーを飛ばす」のは最近『オッドタクシー』もやってたしやらなくてよかったんじゃないかな(笑) でも「僕は、心臓を投げ合いたかったんです。」とか読むと、この監督のことどんどん好きになっちゃいます。誰になんと言われようと僕は心臓を投げたい。映画監督にはそういうのが必要。次回作も楽しみです。