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韓国映画「サニー 永遠の仲間たち(2011)」雑感|韓国版の時代背景とか、数珠繋ぎ的な余談あれこれとか。

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日本でも2018年に『SUNNY 強い気持ち・強い愛』としてリメイクされた大ヒット韓国映画『サニー 永遠の仲間たち』を観ました。日本版のほうはめちゃくちゃエモくて最の高なボロ泣き映画だったんですけど、当時まだ韓国映画にミリも興味のなかったわたしはオリジナルを観るには至らず。遅ればせながらどハマりしているこのタイミングでようやく鑑賞しました。ただ、それなりに脈絡はあるんです。

※気ままに書いていったら、あらすじを書きそびれました。日本版とほぼ同じ! おばちゃんたちがひょんなことから高校時代の思い出を取り戻す、楽しくてホロッと泣けるお話!

ようやく観ることになった経緯

きっかけは直近に観た『工作 黒金星と呼ばれた男(2018)』。韓国から北朝鮮に潜入したスパイの話で、1997年の金大中大統領就任を阻止しようと与党がおこなった秘密工作の話でもあります。金大中はもともと民主化運動家であり、1980年の「光州事件」では首謀者とみなされて一時は死刑判決を受けるほどでした。この光州事件について描いた映画が、ソン・ガンホ主演の『タクシー運転手 約束は海を越えて(2017)』です。

光州事件により民主化運動は激化し、1987年の「6月民主抗争」へ繋がります。この運動を経て韓国の人々が勝ち取ったのが、大統領の直接選挙制。というわけで金大中の大統領就任に戻ってきました。これは『1987、ある闘いの真実(2017)』で描かれていますが、『工作』鑑賞に際して町山智浩さんの解説をいろいろ読んでいたところ、『サニー 永遠の仲間たち』は1986年が舞台だからちょうどこの時代なんですよ、とあって*1なるほど!!今こそ観よう!! そんな経緯でございました。だいぶ回り道をしました。

386世代

『サニー』の主役である1986年の女子高生たち自身は民主化運動なにそれ食えるの的な世代のようですけども、劇中では彼女たちの兄世代が労働運動に精を出している描写が出てきます。多分この世代がいわゆる「386世代」と呼ばれるあたりなのでしょう。ポン・ジュノ監督やパク・チャヌク監督などの世代ですね。

『1987〜』には反政府運動なんか興味ない感じの女子大生(パク・チャヌク監督の『お嬢さん(2016)』で衝撃のデビューを飾ったキム・テリさん!)が街でデモ隊と警察の抗争に巻き込まれるシーンが出てきますが、『サニー』の場合は同じような暴動のど真ん中で全く関係のない主人公たちがヤンキーなケンカを繰り広げるシーンがあって笑えます。あくまで背景でしかない描き方ではあるものの、女子高生たちが主役のコメディ作品であってもこういった光景が登場するのは、やはり韓国近代史の激動っぷりを感じずにはいられません。

懐メロが洋楽な理由

日本版では時代設定が1990年代に改変され、J-POP全盛期の懐メロが流れまくります。なのでオリジナルだと韓国の曲ばかりになるのかなと思ったら意外と洋楽ばかりで、そもそもタイトルの『サニー』が、ボニーMの楽曲『Sunny』に由来しています。

なんで洋楽なんだろう、もっとお国の文化ゴリゴリでもいいのに、とちょっと不満だったのですが、これも調べてみるとじつはお国の背景ゴリゴリなのでした。前述のように民主化を求める国民の声が高まるなかで独裁的な体制をとっていた当時の政府は、いわば不満をなだめるように誤魔化すように映画や音楽など外国文化の輸入を進めたらしいのです。その結果としてこの時代の韓国は洋楽が流行り、無邪気な女子高生たちは文化的開国の恩恵をピュアに浴びていたと、そういうことのようです。

なお『Sunny』は劇中で最も印象的に使われる曲で、日本版だと小沢健二の『強い気持ち・強い愛』が同じポジションを担っています(故・筒美京平さんの曲なんですよね)。よって日本版のタイトルに『SUNNY 強い気持ち・強い愛』とその楽曲名が入るのは的確なアレンジです。ただし日本版にボニーMの『Sunny』は登場しないため、共通して主人公たちの仲良しグループ名である「サニー/SUNNY」の命名由来が使えなくなってしまうのですが、そこはメンバーの頭文字ということで解決している模様。お上手!

ピンクルのご縁

狙ったかのように同じキーワードと出くわす現象ってたまにありますよね。この数日、わたしは『ピンクル』と3回も出くわしました。ピンクルFin.K.L.。四人組のガールズグループ。韓国アイドルがお好きな方なら常識なのだと思いますがわたしは今週初めて知りました。

第1ピンクル。今読んでいる韓国文学『大都会の愛し方』に、結婚式でピンクルを歌うというシーンが出てきます。現代が舞台なので、結婚式会場では「いつのピンクルだよw」と大ウケ。一方わたしとピンクルはこれが初対面。ちなみにこの物語には梨泰院がたくさん登場します。『梨泰院クラス』ファンの方におすすめです。

大都会の愛し方 (となりの国のものがたり7)

大都会の愛し方 (となりの国のものがたり7)

第2ピンクル。またしても『工作 黒金星と呼ばれた男』。この映画ではなんと、ピンクルのリーダーであるイ・ヒョリさんが本人役で登場します。というのも彼女、2005年にサムスンのCMで北朝鮮の女優チョ・ミョンエさんと共演を果たしているのですが、Wikipediaによれば「韓国への亡命者ではない北朝鮮で生活する人物が韓国の広告に登場するのは南北分裂後初」だそうで、歴史的なことだったわけです。そのシーンが劇中で再現されていて、鑑賞後に調べたら、えっ、あの本に出てきたあのピンクルの人?! しかも本人?! と非常に驚いたのでした。

そして第3ピンクル、もちろん本作『サニー』です。主人公たちのグループ「サニー」と可愛い縄張り争いをしている不良グループが出てくるのですが、初登場時はどうやら「少女時代」と名乗っている模様。しかしのちに、「少女時代はダサいからFin.K.L.にした」と改名するんですね。出たー、ピンクル出たー。おまけにこれ笑うところだー。なおピンクルの事務所の後輩がKARAで、当時から競合していたライバル事務所の後輩が少女時代だそうです。

そんなわけで、いつか韓国アイドル界に興味を持った際には役立つ知識を手にしました。

オリジナル版をあとから観た感想

寄り道しすぎて普通の感想が後回しになるという妙な事態。日本でのリメイク版を先に観た状態で、オリジナル版として本作をあとから観た感想はずばり、「びっくりするほどそのまんま」です。いやほんとに、同じセットと同じロケ地ですか?っていうレベルで同じですから。リメイク版で渡辺直美さんがこってりしぼられてた保険会社のシーンとかまで、まんま同じですから。

ここまでそのまんまだと、リメイクというよりもローカライズと呼んだほうがいいんでないの?と若干渋い顔にもなったのですが、これ、他所様の記事でものすごく納得できる解釈を読んでしまったためもはやここではそれをご紹介するのみにとどめておくことにいたします……。

※最後の項目にリンク貼らせていただいてます。

こちらの考察、本当に素晴らしいなと思いました。キーワードは「翻訳」。かろうじて自分の言葉で言えるのは、「リメイクというよりローカライズ」と感じたのはあながち間違ってなかった!ということ。韓国版オリジナルは、お話はそのままなので間違いなく泣けるんですけど(この話は年齢を重ねるほどに響くはず)、ただ「エモみ」は日本版に及ばないんです。日本版は「エモみ」だけを「ローカライズ」してくれているってことなんですね。

そんなわけで文化的世代的エモみを除いた映画自体のクオリティは「同じ」と言ってしまってもいいぐらいだと思います。ルーズソックス世代でエモ散らかしたい方は日本版『SUNNY』を、なにそれって方はオリジナル版『サニー』をお選びください。もしまだどちらも未見で、どっちから観てみようかなと迷い中の方がおられるとしたら、うーん、個人的には、日本の方であれば「日本ローカライズ版」から観るのがおすすめかもしれません。

SUNNY 強い気持ち・強い愛

SUNNY 強い気持ち・強い愛

  • 発売日: 2019/05/22
  • メディア: Prime Video

ひとつオリジナル版のおすすめポイントを挙げるならば、日本版で池田エライザさんが演じていたモデル系美少女の役、こちらも負けじとものごっつ美少女です。漫画から飛び出てきたようなお顔です。そんでもっておでん屋台のシーン泣ける。アホみたいなシーンなのに泣ける。『あまちゃん』のアキ×ユイ(能年玲奈×橋本愛)みたいな感じかな〜。

(2020年198本目/U-NEXT)

*1:町山智浩『1987、ある闘いの真実』を語る - Part 2より抜粋で引用:「『サニー 永遠の仲間たち』っていう映画が何年か前にあったんですね。で、日本でちょうどいま、リメイクされて公開されているんですけども。あれの舞台が1986年でこの事件の前年なんですよ。で、あの映画の中で女の子たちがちょっと歩いているだけでも次々に検問があって……という状況があるんですけど。あれがかなり忠実なものなんですね。」