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岡本喜八監督作品「ジャズ大名(1986)」雑感|アバンギャルドな幕末ジャムセッション映画

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どうやら岡本喜八監督作品の集中履修期間に突入しつつあります。今回は1986年のジャズ大名という映画を観ました。何やら妙ちきりんなタイトルですが、なんと『時をかける少女』の筒井康隆さんによる同名小説が原作だそうです。筒井さんは岡本監督の大ファンで、この映画化は念願叶ったりだったとか。しかし一体どんな小説なのか想像もつかないくらい、ぶっ飛んだ映画です。

一応あらすじとしては、まず南北戦争終結直後くらいのアメリカから3人の黒人が駿河の小藩に漂流してきます。楽器を持った“黒き者”が流れ着いたという情報に、音楽好きの藩主様は興味津々。周囲の反対を押し切って城へ迎え入れてしまいます。初めは警戒していた城中の人々も、彼らが奏でる陽気な音楽にやがて迎合。Wikipediaに書かれている表現を引用するならば「戊辰戦争を完全に無視してのセッション」を夜通し繰り広げ、明治を迎えるというお話。っていうかストーリーは極論どうでもよくて、もうこの戊辰戦争を完全に無視してのセッション」って字面だけで反則的に面白い。

先日、同じく岡本喜八監督の『独立愚連隊(1959)』という戦争コメディ映画を観てその意外と喜劇的な作家性に驚いたところでしたが、比べてみるとあちらはまだ戦争映画として見れるな、と思ってしまうくらい本作はますます茶化し度の強い反戦映画となっています。キャリア中期に『日本のいちばん長い日(1967)』などのゴリゴリ社会派風味な作品も作りつつ、初期と後期では一貫して戦争を喜劇的に描いた戦中派映画監督・岡本喜八。非常に興味深いです。

岡本喜八チルドレン、大林宣彦

岡本喜八監督は、大林宣彦監督が商業映画の世界に『HOUSE/ハウス(1977)』で参入した際、その後押しをされたそうです。当時、撮影所に属さないフリーの作家がいきなり東宝作品の監督を務めるというのはいい顔をされなかったようなのですが、岡本監督が「新しい風を入れることが重要なんだ」と声を上げてくれたことであの作品は世に放たれたと、そういう経緯があるそうです(出典:「文藝別冊 大林宣彦」p95)

この『ジャズ大名』を観ていると、大林監督がものすごく岡本監督から影響を受けていたことが伺えます。順を追って挙げていくならば、開始数秒で心を掴まれてしまうオープニングの切れ味、いきなり「親愛なるリンカーンさま」と朴訥に読み上げられるどうでもいい手紙、サイレント映画的字幕手法。ヨォ〜〜ッ!ポポン!としきりにうるさい囃子は『花筐(2017)』そのものだし、「そろばん乗り」は初期大林作品に頻発のローラースケートを連想させる。そして何より、終盤へ向け強まるカオス。

本作で愉快な大名を演じているのは古谷一行さんですが、大林作品にも古谷さん主演の『金田一耕助の冒険(1979)』というぶっ飛びコメディ映画があります。まあこれは『ジャズ大名』より前の作品ですけども、大林監督の商業映画デビューを応援した岡本監督ですから、きっと「大林くん、いいねえ」くらいには思ってらしたんじゃないでしょうか。

って書いてから気付きましたがそろばん乗りとローラースケートも順序が逆でしたね(笑) ともあれきわめて近いセンスの持ち主だったということに変わりはありません。

戊辰戦争を完全に無視してのセッション”

全体通しての軽妙なコメディ感(監督の娘さんが演じているチャキッとした姫がまた良い)や、『スウィングガールズ(2004)』の「ジャズやるべ」はここから来てるとしか思えないような行脚シーンも最高なのですが、やはり終盤、前述した「戊辰戦争を完全に無視してのセッション」が徐々に混沌としていく様、これが本作最大の見せ場です。

カオス、アバンギャルド、トリップ、トランス状態、そんな言葉がぴったりハマるような幕末城中ジャムセッション。最終的にはタモリさんまで登場しての大団円。エンドロールが現れて一瞬我に返り、またすぐ輪に戻る。ええじゃないかええじゃないか。「とにかく必見」という売り文句はこの映画のために使ってしまってもいいでしょう。とにかく必見!

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最後の最後でかっさらっていく森田一義

ちなみに音楽は山下洋輔さんが監督されてます。無名のタモさんを見出した方であり、燃やしたピアノを弾くジャズピアニスト(間違ってはいない偏見)。そらアバンギャルドなはずだ。こちらの記事に実際の演奏メンバーが掲載されていましたが、個人的に目がいったのは叩き物のつのだ☆ひろさんと仙波清彦さん。特に仙波さんなんて変なモノを叩かせたら超一級のパーカッショニストですから超納得の起用です。城中のありとあらゆるものから音が出る終盤のセッション、楽しいです。

なおWikipediaには細野晴臣さんも出演と書いてありますが見つけられず、調べてみたところ、「出てないよ!」という公式情報を発見。デマのようです。出てても全然おかしくないですけどね!

(2020年138本目/PrimeVideo)

ジャズ大名

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  • 発売日: 2015/09/21
  • メディア: Prime Video
ジャズ大名 [DVD]

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  • 発売日: 2014/10/31
  • メディア: DVD
85分、とっても観やすいです。