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主に映画の感想文を書いています

風と共に去りぬ(1939)/19.06.02【町山智浩氏が語る20世紀名作映画講座】にて

f:id:threefivethree:20190604204241j:plain 映画鑑賞、ややご無沙汰気味です。あと二週間くらいでまた貪れる日々に戻れるはず、戻りたい…。

さて、「風と共に去りぬ」。言わずと知れた名作ですが、でも観たことはない映画の代表格。レンタル屋で手に取り、「…240分?!」と目を見開き、そっと棚に戻す。そんな作品でした。お馴染み「午前十時の映画祭」で取り上げられると知っても、貴重な休日を4時間潰す勇気がなかなか出ません。

そこに飛び込んできたのは「午前十時の映画祭10-FINAL」特別企画【町山智浩氏が語る20世紀名作映画講座】というもの。おっ、これは!! いつか生で拝見したいと思っていた町山さんの映画塾! あの「風と共に去りぬ」を観るなら今しかないのでは! 会場はどこだ! …名古屋、か! …行けなくはない、か!

ということでですね、神奈川在住のわたくしですが、夜行バスで名古屋へ行き、朝10時から「風と共に去りぬ」を4時間観て、町山さんの映画塾を45分間受講、そして新幹線で帰る。という映画おたく極まることをしてしまったのでした。正直誇らしい。

とりあえず先に映画の感想の方を。

240分じゃ足りない

完全に舐めてた、度肝を抜かれた、というのが誇張なしの率直な感想でした。この時代の映画自体は(主にMGMミュージカル系)好きで多く観ているため決して偏見があったつもりはないのですが、やはり1939年のカラー作品ということで同年公開「オズの魔法使」のビビッドな雰囲気から予想できる範囲の期待値というか、過度な期待はしていなかったわけです。

しかし蓋を開けてびっくり。これが本当に1939年の映画ですか。1960年代の映画だよと言われても全く疑わないし、なんなら現代の映画と遜色のない映像も多くありました。この衝撃は「マイ・フェア・レディ(1964)」をデジタルリマスター版で初めて観たときのそれと近いかもと思ったんですけど、でも今回その「近い衝撃」をもたらしてるのは更に四半世紀前の映画ですからね。何倍もすごい衝撃と言えます。

ついでにもう一点「マイ・フェア・レディ」と通じるところ*1、衣装の素晴らしさ! 舞台はアメリカですが、ヨーロッパの貴族文化を模したというお召し物が全編通してどれもこれも美しい。喪服すら美しい(喪服が印象的な映画です)。そのシニカルな人間模様も相まって「女王陛下のお気に入り(2019)」をお気に召した方なんかはかなりツボれるんじゃないかと思います。

午前十時〜の公式アカウントがリツイートしているいろんな人の感想を見ていると、嗚咽レベルに入り込めた人と全く感情移入できなかった人、感想は両極端。ただし、感情移入できなくても名作であることは否定できない、という感想が多かったです。どちらにせよヒロインのスカーレット・オハラっていうのは感情移入の難しいビッチな女なのだなと覚悟してたんですが、わたしは嗚咽のほうでした*2。なんならオープニング「タラのテーマ」から泣いてました。

南北戦争を挟んだ大河ドラマなので、登場人物たちの境遇や心境の変化も見どころのひとつ。当ブログのブーム的なところで例えるとするならば「ゲーム・オブ・スローンズ」で世間知らずのお嬢ちゃんだったサンサが……泥まみれの小娘だったデナーリスが……みたいなとこにいちいちグッとこれる人は絶対好きでしょう。4時間という尺もドラマだと思えばたった4話程度。終わる頃には物足りなさすら覚えるはず。

でまあ何を一番言いたいかというと、観てほしい!!!っていう(笑)

いやこれ難しいと思うんですよ。この時代の映画に抵抗のないわたしでもなかなか気が進まなかったほどで。でもそこを乗り越えて観ていただきたい。きっと想像の何倍も何倍も何倍もすごい作品です。想像している「1939年のカラー映画」の遥か上をいくことは断言できます。白黒の超大作「巨星ジーグフェルド(1936)」を観たとき「映画はこの頃に一度頂点まで達していたんだ」という感想を抱いたものですが、カラー映画も既にここで頂点を迎えていたんだなあと。

それから、今この時代まで名作として残り続けている映画は、本当に名作だから残っているんだ!という当たり前のようなこともあらためて思いました。長尺の名作映画、すぐ思いつくところだと「アラビアのロレンス(1962/227分)」や「七人の侍(1954/207分)」など、いずれも時間を忘れるくらい面白いし、凄いんですよ。なので是非とも、重い腰を上げて一度鑑賞されることを心よりお勧めいたします。基本的に昔の長尺映画はインターミッションが入るので、2日に分けて観るのも全然ありです。「風と共に去りぬ」もきれいに前後編に分かれております。

(2019年51本目/劇場鑑賞)

風と共に去りぬ [Blu-ray]

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果たして今回の上映バージョンに匹敵する画質なのかどうか分かりませんが…。できることであれば6/13までに午前十時の映画祭でご覧ください。ほんと、すごいんで……。

町山さんの映画塾@ミッドランドスクエアシネマ

何が驚いたって、町山さんが映画全編一緒に客席で観てたことです(笑) だってほら、初見でもない4時間の映画を律儀に午前10時から観に来るとは正直思ってなかったのです。遅めの会場入りで、上映終了後のご登場だろうと。わたしは舐めていました、町山智浩という人のことを完全に舐めていました。めちゃくちゃピュアに映画が好きなお方なのだと再認識した次第でございます。すみませんでした。

覚えている&興味のある範囲で箇条書きしていきますね。まず上映前から。発言内容はあくまでニュアンスです。

  • まず最初に言っておきたいのは、この映画が公開当時、むしろ公開前から、そして今に至るまでずっと物議をかもし続けてきている問題児映画であること。特にアメリカにおいてアンチの多い映画であり、同時にランキングでトップになるほど愛されている映画でもある。

  • 原作小説を忠実に映画化しています。なので展開がものすごく速いです。ちょっとでも寝たらもうさっぱり分からなくなりますよ。ほっぺたつねってでも起きててください。頑張ってください。

  • 僕も今朝5時6時に起きて来たのでちょっと眠いです。これから客席で一緒に観させてもらいますが、ウトウトしてたらお近くの方、ひっぱたいてください!

  • 終わってから感想を聞きたいので、「イラッとしたところ」「意味の分からなかったところ」「好きなキャラクター」「嫌いなキャラクター」など考えながら観ていてください(眠気覚ましも兼ねて)。

暗転し、真っ黒な画面で序曲が流れ始めると「あ、言い忘れましたがこれ事故じゃないですからね! 昔の映画はこういう客入れの音楽が流れたんです。なので本当はまだ客電も点いてるところなんです」と思わず肉声で補足してくれる町山さん(笑) もちろん、上映中の解説はこれっきり。

インターミッション(約15分)に入るとすぐ席で打ち合わせ。残り時間はサインに応じていました。ちょっと突撃したかったけど、なんとなーく理性に止められた。上映終了後、5分程度の休憩を挟んで映画塾へ。おなじみのホワイトボードが登場してアガるわたし。町山さんと言ったらホワイトボードですもん。

  • 黒人差別的な映画だという声が根強いが、スカーレットはそもそも人種関係なく自分以外をみんな見下しているので誰も差別していない。バトラーも同じく。この二人は誰のことも差別していない。

  • オハラ家は30年程度しか歴史のない家系で、貴族的生活もヨーロッパを表面的に真似しただけのハリボテだった。

  • お昼寝が必要だったのは、いわゆるシエスタのようなものを挟まないといけないほど南部が暑かったため。

  • アシュレーのどこがいいのか分からなかった、それはミスキャストです(さっくり)。原作では超絶イケメンなんですよ。

  • スターウォーズハン・ソロはレット・バトラーをモデルにしている。障害物破壊人、船長、投獄、男勝りのお姫様、など。

  • バトラーがスカーレットに「俺たちは似ている」って言うじゃないですか、でも全く噛み合わないじゃないですか。磁石のS極同士なんですよ、くっつかないんですよ。

  • 酔っ払い演技がある一連の妙なシーンはKKKに関する描写。原作者マーガレット・ミッチェルが「國民の創生(1915)」のプレミアを多感な時期に体験していること、などが大きく関わっているそう。

  • メラニーは物語における「聖母」として登場する。彼女の使命はスカーレットを生かすこと。そしておそらく彼女が一番愛していたのはスカーレット。

  • 物語を通して常に登場し、大きな意味を持っているのが「階段」。

  • シルエットを印象的に見せるシーンが多いが、それはヒロインの女優が決まらないまま撮影を始めたため。

  • 駅に無数の負傷兵が寝かされているシーンでは、ハリウッド中のエキストラ800人と、それでも足りずに人形800体を使用した。まるでドローン撮影のようなシーンだがクレーンにカメラを乗せて撮影した。テクニカラーのカメラは非常に重かったため、それだけでも凄いことだった。

もっともっとあったと思いますが今思い出せる限りではこれくらい…。順不同。「なんか、こんなシーンありませんでしたか、ほら!」みたいな誘導質問で進めていくため、おそらくは思惑と違う方向に話が行くことも多々で、その点はちょっともどかしかったかなと。

マネージャーさんぽい方がちらちらと時計を見て「町山さん、あと5分です」と言ってからの「5分」は長かったです(笑) 「もう時間がないみたいなんで簡潔に言いますけど!」の前置きでいくつのエピソードを聞いたことか(笑) きっとあれマネージャーさん、10分くらいは余裕を持って言ってるんだろうな…。いっこうに止まらない町山トークを浴びるのは幸せでした。

帰り際に「この映画を40分で解説しろってのが無理なんですよ!」と捨て台詞を吐いて、映画講座終了。話しきれなかった分は「映画ムダ話」で扱ってくれるそうです、楽しみ! 久々に見たらめっちゃ増えてるー。時間できたら聴き漁ろう…。

あと、午前十時の映画祭FINALシーズン*3において「映画館の大スクリーンで絶対に観て欲しい映画」のピックアップもありました。うろ覚えもあるので抜粋ですが。

開口一番「日本のいちばん長い日(1967)」だったのが意外でした。そこは「アラビアのロレンス」かと思った。玉音放送が電波に乗るまでの舞台裏を描いた映画なのでどうせだったら8月にやって欲しい感もありますけど、久しぶりに、今度はスクリーンで観ようかなあ。確かにものすごい映画でした、あれは。

というわけで、いつか生で見たかった町山さんの映画塾、叶いました。そのうえ同じ空間での映画鑑賞まで叶っちゃって。関東開催だと逆に行けないことのほうが多そうですし、無理なく行ける範囲の名古屋開催、むしろありがたかったです(夜行バスで行ったのはただの趣味。名古屋小旅行パートはまた別の記事で。多分)。

これだけ映画を観ているのにアメリカの歴史のことは未ださっぱりなので、帰りの新幹線で読むようにこれを買いました。

新幹線では寝ちゃって読めませんでした。おあずけ。

*1:さらにもう一点、余談的なところでいうとアシュレー役のレスリー・ハワードは「マイ・フェア・レディ」の原作に当たる「ピグマリオン(1938)」にヒギンズ教授役で出てました。

*2:でもインターミッション挟んで後半になったら涙が一切出なくなった不思議。このへんの作りもおもしろいです。前編と後編で全く違う映画になるもんなあ。

*3:「いったん終了」という言い方をしていたので復活の可能性もあるのかも。期待して、待つ。