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「ミッドサマー(2019)」雑感

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アリ・アスター監督の最新作『ミッドサマー』、公開初日の真昼間から観てきました。夏至祭の話だしね。観終わっても明るいほうがきっとアガるよね。そう思っていた頃もありました。出演は、この先『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』や『ブラック・ウィドウ』にも出演予定の気鋭フローレンス・ピュー、ほか。

あらすじ

身内の不幸で落ち込むダニー(フローレンス・ピュー)を心配したクリスチャン(ジャック・レイナー)は、休暇に友人たちと行く予定のスウェーデンへ彼女も連れていくことにした。ホルガというコミューンで今年、90年に一度の夏至祭がおこなわれるという。人々に歓迎され、戸惑いながらも大らかな雰囲気を楽しんでいた彼らだったが──

以下、直接的なネタバレは避けていますが全く触れていないというわけではない感じの塩梅です。


雑感

さあ、というわけで、先日『ヘレディタリー/継承(2018)』も鑑賞して準備ばっちりのアリ・アスター監督最新作観てまいりました。ちょうど公開日は仕事が休みだったので昼間の立川シネマシティ初回をセレクト。ほぼ満員御礼、女子多めでしたが、あの場にいた全員が「あれを観た」と思うと、すごいな…(笑)

まず冒頭、結構長いアバンタイトル。まだ舞台は夏至祭ではなく、劇中で数少ない「夜」のシーンから始まります。妹と両親の無理心中といういきなりエグい悲劇がヒロインのダニーに降りかかるわけですが、ここでの悲痛な叫びがまあその通り悲痛で苦しいです。思い出すのは『ヘレディタリー』でとある人物の命が奪われた時の母親の叫び。本当に悪夢が起きてしまった時の叫び。監督自身がなんらかのかたちで体験し、こびりついている叫びなのかもしれません。

そこからカメラがダニーの部屋の窓枠へと寄っていって、『ヘレディタリー』を観た人なら「あ、ここでタイトルかな」と予想がつくことでしょう。また同様に『ヘレディタリー』から継承(うまいこと言ったつもり)されている演出がいくつもありました。昼夜のスイッチングとか、晴天下に置かれたえげつない「何か」とかですね。2作目にして署名的な作風をしっかり打ち出しているのだなと、そんなところでも楽しめる作品です。

そしてようやく本番、スウェーデン夏至祭へ。初見時はおそらく「なかなか夏至祭にならないな」と思うはずですが、しばらくすると今度は夏至祭、なげえな…」と思うようになるのでご安心ください。本作の尺、147分と結構長いんですよね。仮に夏至祭以前のパートが30分あったとしても120分は夏至祭を楽しめる(笑) そんなにいらないなあ、いらなかったなあ(笑)

こっからがまあもうとにかく、明るいです。予告やキービジュアルからイメージする通りの明るさ、白さ、カラフルさ、常にインスタ映え。加えてどこかで聴いたような、アロマの香りがしてくるような音楽。この『ミッドサマー』を的確に表現する言葉、一瞬で浮かびました。ずばり無印良品のホラー」。観たら絶対わかります。だってひたすら無印の店内音楽みたいなのが流れてるんだもの。無印がホラー映画を作ったらこうなるんだ、きっと。ちなみにTwitterで「ミッドサマー 無印」を検索してみたら仲間がいっぱい見つかりました。みんな呪いにかかってしまった。

客であり部外者である主人公たちの視点で物語は進んでいきますが、「何か」起こりそうでいてなかなか何も起こりません。決定的なことは多分「崖」まで起こらないのかな。あそこでもう完全に、彼らの目線や心拍数とこちらのそれがシンクロするようになってます。しかしその衝撃的な出来事から先、主人公たちも少なからず麻痺していくのかなんなのか、ぼんやりとした時間が結構続いて正直ちょっと寝そうになりました。多分そこもシンクロしてる。そんな精神状態のところ、最後は『ヘレディタリー』的な急展開で、映像と音響のレイプ的な感じで有無を言わせず終わっていきます。

この最後がわたしの脳内では「フィナーレぶってんじゃねえよwwwww」と大草原だったんですけど、なんだあの音楽の力!っていう。「音を入れるまで(自分の)映画の良さは分からない」と監督が言っていたの、大いに納得です。今回は音楽の力がかなり強い。あまりに強引な幕引きで、笑ったまま顔が硬直して戻りませんでした。

明るいから怖くない、でも明るいから怖い。

「怖さレベル」についてのお話。

本作、ホラー的な怖さレベルでいうと監督の前作『ヘレディタリー/継承』とは比較にならないくらい怖くないと思います。というのも、単純に明るいから。白夜だから。普通のホラー作品でも昼間になるとちょっと一息つけるものですが、本作の場合ずっと明るいのでむしろ「ホラー」という感じすらあまりしないでしょう。

ただしこの世界、夜が来なくともおぞましいことはいっぱい起こっておりまして、なまじそれが全て「見えてしまう」という怖さはあるわけです。『ヘレディタリー』でももしかすると一番怖いシーン、目に焼きつくようなシーンは白昼だったかもしれません。夜が来ないぶん本作ではああいうシーンの率が高くなるのです。

またアリ・アスター監督の特徴的な「怖さ」、そのひとつは「人の身体をモノのように扱いがち」なところ。いとも簡単に人の身体は壊れる、という表現にギョッとさせられることが多く、視覚はもちろん、その際の効果音があまりにあっけなかったりして聴覚的にも怖さが増幅させられます。そんなペチッみたいな音でいいんかい…みたいな。

なので本作の怖さレベルは「ホラー的な怖さはあんまりないけどトラウマにはなるかもしれない」くらいの感じ、です。自己責任でお楽しみください。事前に『ヘレディタリー』を観て監督独特の文法を知っておくのもおすすめなんですが、いかんせんあちらは本作の比にならないホラー的怖さのある作品なのでそこが難しいところですね(笑)(でもめちゃくちゃ面白いです!)

あ、そうそう、前述のとおり昼間に観た感想としては、映画館を出てもまだ明るいというのは悪夢でしかなくてあまりおすすめできません。ぜひ体験してみてください。

(2020年32本目/劇場鑑賞)

ミッドサマー(字幕版)

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『ヘレディタリー』に引き続き本作でも「完全解析ページ」有。じつは失恋を描いた映画らしいんですよね(笑) クリス・プラット似の彼氏が優柔不断すぎて、個人的にはそこまでカタルシスを感じられなかったんですけども。

今日は三本ハシゴしてしまったので書きたいやつから先に書いていくスタイルでいきます。ちなみにこの前に『スキャンダル』、この後に『37 Seconds』。なかなかいいハシゴでした。