大林宣彦監督作品「少年ケニヤ('84)」「彼のオートバイ、彼女の島('86)」雑感
大林作品集中履修(配信作品に限る)、いよいよラストスパートです。今回は1984年公開のアニメーション作品『少年ケニヤ』と、1986年公開の『彼のオートバイ、彼女の島』を観ました。どちらもPrimeVideo内のチャンネル「シネマコレクション by KADOKAWA」にて視聴可能です。以下、観た順番で書きます。
「彼のオートバイ、彼女の島(1986)」
見るからにトレンディな空気プンプンで、いくら1986年を愛する86年生まれのわたしでも食指が動かなかった一本です。ただし大林作品の多くがそうであるように、この作品もキービジュアルと実際の内容にはだいぶ差があります。というかこんなシーンは出てこないと思う多分……。物語は「男と女とオートバイ」という予想を裏切らない内容。バイク便の仕事をしている男子大学生が傷心ツーリング中に不思議な女の子と出会って──みたいなお話ですが、タイトルのとおり「オートバイ」の果たす役割が大きく、いつしかオートバイ含めての三角関係じゃん!な状態になっていくのが笑えます。この時代の空気感・価値観を肌で感じていない身に、なかなか共感は難しいです。大林映画のなかでは『ふりむけば愛(1978)』あたりと同じポジションの作品と言えるでしょう。免許にはこだわるくせに犯罪行為しまくりなの謎すぎる。
そんなわけでストーリーはぶっちゃけどうでもいいのですが、そこは大林映画、女性を魅力的に撮るという点ではかなり高得点な一本です。主演の原田貴和子さん(原田知世さんのお姉さん!)の魔性っぷりは観ていて楽しいですし、あっと驚くヌードシーンの美しさも特筆すべき点でしょう。っていうかエロい。
ところでこの一枚、右は原田貴和子さんで、左の彼、誰だか分かるでしょうか。竹内力さんです。あの竹内力さんです。人違いではないです。本作がデビュー作らしいのですが、いやちょっと、にわかに信じられなくて、何度も調べちゃいました。人ってこんなに、変わ(れ)るんですね……。
彼が演じる主人公は、付き合っていた女の子と映画冒頭で別れます。いきなりフラれる「元カノ」役を演じたのは渡辺典子さん。薬師丸ひろ子さん、原田知世さんと合わせて角川三人娘などと呼ばれていたそうですが、わたし全然存じ上げなくて。しかしこの方、どえらい完璧な美人さんで、たまげました。全てのパーツが完璧に配置されている……。
主人公から「泣くことと飯を作ることしか知らない」なんて失礼極まりないことを言われていた彼女が、憎まれ口こそ叩かないものの着実に彼を飛び越えていく痛快さがたまりません。そんな話じゃないのかもしれないけどわたしは彼女を応援しながら観ていたよ!
そのほか、大林作品超常連バイプレイヤーの根岸季衣さんが本作では結構いい役だったり、内容はトレンディなのに演出的には相変わらずカラーとモノクロを行き交っていたり、尾道のフェリーを撮影に使ってることからか『さびしんぼう(1985)』そっくりのシーンがあったり、友情出演とクレジットされている尾美としのり×小林聡美コンビが全く見つけられず途方に暮れて調べたらまさかの冒頭だったりとか(ヒント:ワーゲン)、特別おもしろい映画というわけでもないんですがつい書きたくなっちゃうようなことはいっぱいある一本でした。
(2020年90本目/PrimeVideo内 シネマコレクション by KADOKAWA)
「少年ケニヤ(1984)」
少なくとも映画監督デビュー後の作品では唯一のアニメーション映画です。1950年代に人気を博した同名の絵物語をアニメ化したもので、この物語は本作以外にも実写映画化、テレビドラマ化、漫画化など様々なかたちで展開されていた模様。かなりの人気だったのですね。大枠としては、太平洋戦争が始まるタイミングで運悪くケニア(イギリス領)に滞在中だった日本人の少年が親とはぐれてアフリカの大地でたくましく育っていく、的な物語。これはそもそも原作がそうなので、ということになってしまいますが、とにかくスケールがでかい。なんせ恐竜出ます。え、まって、リアリティラインどんだけ???
物語をさておいてもなかなか強烈な作品です。ごく普通のセル画アニメかと思いきや、水彩、油絵、線画、っていうか劇画、さらに無着色。やりたい放題。アニメでも大林手法はそのまま使われるんだなと仏のような顔つきになること必至です。まあこの膨大なアイデアをブラッシュアップすればどれかはいい線いくでしょうね、っていうことをひたすらザッピング的に試してるのがすげえです。個人的には、無着色の線画アニメはありだなと思いましたが。
メインキャラの声優をつとめているのは原田知世×高柳良一の『時かけ』コンビ。原田知世さんは普通にいいんですけど、高柳さんがね、すみません、かなりひどい(笑) 特に序盤、たとえば高柳さん演じる少年がお父さんとアフリカを彷徨っているシーンで「お父さん僕もう歩けないよ…!」「日本男児だろ!頑張れ!」みたいな、月並みな会話があるんです。疲弊を訴える少年、熱く奮い立たせる父親。しかし彼の返事は一転「はーい」。テンションの急降下がやばい。 いやあ、こんなに下手なアフレコはなかなか聴けたもんじゃありません。必聴です。
(2020年91本目/PrimeVideo内 シネマコレクション by KADOKAWA)
以上、マスト視聴な作品とは言えないものの、ファンの嗜みとして観ておいて損はない(気がするけど別に観なくてもいい)2本でした。さーて、ついに残り1本です。