映画『水俣曼荼羅(2020)』感想|6時間の大作ドキュメンタリーをオールナイト上映で鑑賞
明けましておめでとうございます、本年もよろしくお願いいたします。
さて、昨年内に書ききれなかったシリーズ。原一男監督の最新作にして超話題作『水俣曼荼羅』を、12月28日、シネマ・チュプキ・タバタのオールナイト上映で観てきました。
総尺372分、6時間越えの大作ですが、ユニバーサルシアターのチュプキで上映するということはつまり全編バリアフリー字幕&音声ガイド付き。監督と共にチュプキで制作した、こちらも大作です。これだけ長時間の作品ともなると、スマホやイヤホンのバッテリーを気にせず常設のイヤホンジャックから有線でガイドを聴けるチュプキの仕様もかなりの強みとなりますね。
さて、劇場公開から1年以上が経過した『水俣曼荼羅』。今マストで観るべき作品であることは承知しておりましたがなかなか観るタイミングを作れず、かなり遅ればせながらの、念願の鑑賞となりました。仕事納めの日にオールナイト、わくわくするじゃないですか。ちなみにこの日のチュプキは「水俣曼荼羅3回まわし」というぶっ飛びな一日。前の回のお客さんたちが熱気を帯びてぞろぞろ出てくるなか、入れ替わりで「乗り込み」ました。
2回の休憩を挟んで、大きく3篇に分けられた本作。「お役人」たちに舌打ちが止まらない場面もあれば、ひたすら下世話で爆笑の嵐な場面もあるという喜怒哀楽全部盛りな内容となっており、新潟水俣病の伝説的ドキュメンタリー『阿賀に生きる(1992)』と近い印象を受けました(ただ、お役人はその比じゃないかも。こんな早朝にこんなわなわなしたことないってくらい煮え繰り返った。特にあのバカリズム似)。
一度通しで観たぐらいではとても感想などまとまらんのですが、初見でとにかく好きだったのは小堺一機似の「浴野先生」です。攻殻かマイブロークンマリコかという、脳を運ぶくだり大好き。トリュフみたいな脳をスライスするシーンもやばい。他人の脳を見てわたしの脳が変な汁出してた。なんならあの先生だけずっと見てたかったなあ。知的好奇心くすぐられの意味でもすごく好きで。第1部終わった瞬間「おーもしろかったー」って声出た。
「湯の鶴温泉、初夜」のクソどうでもいい掘り下げも泣くほど笑いました。あのへんから監督の介入が激しくなっていく。余談ですけど湯の鶴温泉って『すずめの戸締まり(2022)』冒頭の廃温泉シーンでモデルになっていると言われている温泉地の一つなんですよね。ちょうど聖地巡礼記事で調べた直後だったので「!!」となりました(記事のことはこちらに少し書いてます)。
クソどうでもいい掘り下げシリーズだと、恋多き女「しのぶさん」のくだりも、しかしこちらは非常に見事なところで。胎児性水俣病患者の彼女が、自ら作詞したフォークソングの発表を舞台上で神妙に聴き入っている、なんとも言い難いシーン。からの、いきなり始まる爆笑必至な恋愛遍歴ツアー、からの、再び戻ってくる舞台上。なんてことないフォークソングの聞こえ方が全然違ってきて。こんな編集ある?!って度肝抜かれました。「映画的」に一番ぶっ飛んだところかもしれない。
亡くなった後に脳を提供してくれることになった、あの細いおじいちゃんも好き。ご夫婦で出てくるところのアンバランスさが、「ウディ・アレンと樹木希林の夫婦」と思って見てました。にしても、他の方もそうだけど、自覚しにくい「異常」が、本当に、なんというか、恐ろしいというか。末梢神経じゃなくて脳がやられてると、そういうことになるんだという、大変失礼なのだけどやはり知的好奇心的なところでの高まりと、なんともはやという気持ちと。
上映終了後には、原一男監督&島野千尋プロデューサーによるトークイベントが。チュプキに泊まりこんでおられたとはいえ、朝6時台とは思えない快活なトークにびっくり(笑) 夫婦漫才ならぬ父娘漫才のような、監督もだけど島野Pがとにかく喋る喋る。お客さんとのやりとりもたっぷりで、気付けば1時間以上の濃厚ボーナストラックでした。あと、手話通訳者さん、お疲れ様でした……!!
『#水俣曼荼羅』
— Cinema Chupki(シネマ・チュプキ・タバタ) (@cinemachupki) December 29, 2022
本日6時終映のオールナイト回をもって上映終了
「音声ガイド・字幕を付けてのユニバーサル上映
この形があるべき姿」
「これは福祉のみの話ではなく、表現の話」
あらゆる人と共に見つめる372分
何度もご登壇いただきました島野P、原監督
ご鑑賞の皆様
有難うございました🌅 pic.twitter.com/Z2ZPNfcV3w
なんかこの日のチュプキは、夜行バスみたいで。2+3列シートのシアター内が、これまでそんなこと思ったことなかったのにどうにも車内にしか見えなくて。しかも上映前のアナウンスが「それでは消灯いたします」だったり、深夜&早朝の休憩タイムでゆらゆら外へ出て行っては伸びをするお客さんたちの感じが完全にサービスエリアのそれだったり。なんだか面白い映画体験でしたね。
(2022年226本目/劇場鑑賞)
2月にはDVDも出ます!