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映画「ぼけますから、よろしくお願いします。」続編と併せた感想|筋が通った家庭内ドキュメンタリー

シネマ・チュプキにて、信友直子監督によるドキュメンタリー映画『ぼけますから、よろしくお願いします。』とその続編『ぼけますから、よろしくお願いします。〜おかえり お母さん〜』を観ました。


映画「ぼけますから、よろしくお願いします。〜おかえり お母さん〜」ポスター
映画「ぼけますから、よろしくお願いします。〜おかえり お母さん〜」ポスター


1作目『ぼけますから、よろしくお願いします。(2018)でカメラが捉えるのは、アルツハイマー認知症を患った87歳の「母」と、そんな母を老老介護する事になった95歳の「父」。そしてカメラの手前にいるのは、両親の姿を記録することにした「ひとり娘=信友監督」。

認知症という繊細な対象をドキュメンタリーとして撮影する、それができるのは確かに肉親だけなのかもしれません。とはいえ観ていると、介護に関しては一歩引き、カメラマンとしての立場を優先しているようにも見える監督。それってどうなんだろう。当然の疑問に、しっかり補足はありました。

広島県呉市で生まれ育った監督。母は多趣味で社交的な才人、父は戦争で夢を諦めた知識人。好きに生きられるよう夢を叶えられるよう常に後押ししてくれた両親のおかげもあり、上京後はドキュメンタリー製作に携わるテレビディレクターとなり40年近く「仕事人間」としての人生を送ることに。しかし45歳のときに乳がんを発症。つらい時期を母の支えで乗り越えた監督は、この頃から両親の姿を撮り始めるようになったのだそうです。

そんなわけで、帰省すればいつでもカメラを回していた監督。あるとき母の「兆候」に気付きます。自身の闘病時における恩義もある。ここはやはり娘の私が、仕事を捨てて帰って来るべきなのか。母より10近く歳上ながら心身ともに強靭な父に相談すると、こう返ってきました。フライヤーから引用します。「(介護は)わしがやる。あんたはあんたの仕事をせい」

東京に帰って元の仕事をしなさいという意味だったのかもしれません。でもそこで監督が下した決断は、「両親の記録を撮る」ことを「自分の仕事」とすること。かくして、父バックアップのもと「信友家なりの親孝行」が始まったのでした。これが本当にすごく筋が通っているなと。しかもその「筋」が単なる説明ではなく、両親のライフストーリーを追っていくうちに自然と見えてくる構成なのも巧みでした。

で、感想なんですけど、まあ泣きました。認知症を主観的に擬似体験できる昨年の話題作『ファーザー(2020)』も印象的な作品ではありましたが、客観でも十二分に推し量れるのだなと。しゃきっとした頃の母がいて、だいぶ老いてきた母がいて、そして、心も身体もぼろぼろになった母がいて。自分の親を重ねることも当然できるし、自分の将来として見ることも、どこかしら必ず感情移入できる部分があって。厳しい状況のなかで時折見せる老夫婦の絆もまた、問答無用で涙腺を刺激して。

1作目の主軸が「母」だったのに対し、1作目が公開された世界線から始まる続編『ぼけますから、よろしくお願いします。〜おかえり お母さん〜(2022)では引き続きそしてより精力的に老老介護を極める「父」にスポットが当たります。状況は1作目よりも遥かに悪くなっている。でも不屈な父の、あくなき向上心。かつては男子厨房に入らず、今では料理裁縫お手の物。98歳まさかの筋トレ。5万円の笑顔とハンバーグ。あ、だめだ、書いてて泣きそう。

チュプキは結構「泣ける」ドキュメンタリーを上映していることが多く、客席の鼻すすり度も日頃から高めなんですが、にしても今回はね、特に2作連続鑑賞の人が多かったのもあるんでしょうけど、完全にもうどうでもいいレベルでシアター内が涙腺決壊しており(笑) あんなにみんながみんな涙腺との闘いを放棄してるの初めて見ましたよ。ああ、泣き疲れた。2年ぶりに実家へ顔を出すべきなのかもしれません。

(2022年69・70本目/劇場鑑賞)

ちなみに、ご自身も認知症になる可能性が高いと覚悟しておられるという監督。そうなってしまった日にはいっそ自分にカメラを向けて「認知症の人が自撮りしたドキュメンタリー」を作ってやるぞと、そんなライフプランもあるそうです。 「20万人の涙を搾り取った」ってすごい表現だな(笑) 搾涙。