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映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」「香川1区」感想|このタイトルで、じつは家族の物語。

大島新監督の連作ドキュメンタリー『なぜ君は総理大臣になれないのか(2020)』『香川1区(2022)シネマ・チュプキにて観てきました。『なぜ君〜』は衆議院議員小川淳也氏を初出馬から17年間追い続けた記録。そして『香川1区』は2021年の小川議員に密着した「続編」です。


映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」ポスター映画「香川1区」ポスター
映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」「香川1区」ポスター


正直、いつもだったら自分から進んで観ようとする作品ではないのですよね。というのもこれは全く褒められた話ではありませんがこの期に及んでもまだわたし「政治」には苦手意識が強くて。まあ選挙には行くけど、かと言って積極的に政治を考えよう政治を語ろうみたいなこととなると気後れしてしまうのです。

そんななか本作を観るに至ったのは、まずひとつ、東京・田端の小さな映画館シネマ・チュプキを「箱推し」しており、なるべく全ラインナップを観たいと思っているから。そしてもうひとつ、ドキュメンタリー映画の力を信頼しているから。チュプキへ通うようになってもう何十本という数のドキュメンタリーを観ましたが、そのどれもが本当におもしろい。どれだけ題材への興味関心が薄かろうといざ観てしまえば必ずや心を鷲掴みにされる、そういう経験を重ねてきました。

であるからして要するに今回は「観るよ、観るから、政治に興味持たせておくれよ」というヤケクソみたいな姿勢で飛び込んだわけなんですけども、これが、まいった。勝手に想像していた「政治ドキュメンタリー」とは全然違って、まずとにかく「面白い」し、どういうわけかめちゃくちゃ「泣ける」し、なんなら完全に「家族の物語」っていうか。えっ、政治家のドキュメンタリーですよね……??? そういう感じでした。つまりすっごい良かった!


『なぜ君は総理大臣になれないのか』予告編


あらためて、この小川淳也氏。こんな政治家がいるのかという超まっすぐな人物で、しかし純粋すぎるがために選挙には弱い、家賃47,000円のアパートに住む国会議員です。そんな彼の「一生懸命なんだけど一向に芽が出ない17年」を並走し続けたのが1作目『なぜ君は総理大臣になれないのか』。まずこの119分で小川淳也という人のことをどうしたって好きになってしまうし、クライマックスでは「ああもう!」と悔しさに襲われます。そこに登場するのがまさかの続編『香川1区』です。

『香川1区』でカメラが追うのは2021年の衆議院選挙。前作の「ああもう!」を経験しているから、今度こそ報われてほしい。心底そういう心持ちで観ることになります。加えて今作ではなんと、絵に描いたような「敵」が出現。同じ香川1区の平井卓也議員です。初代デジタル大臣として脚光(と文春砲)を浴び、しかも地元香川では財閥一族的な存在の平井議員。彼が小川淳也を意識すればするほど劇映画のような展開になってゆき、勧善懲悪的カタルシスが最後には待っています。あんなに選挙を面白いと思ったのは初めて!

そして2作共通して「泣ける」のが、小川淳也を支える人々。「政治家の妻になんてなるもんじゃない」と笑いながら長年支え続ける奥様を筆頭に、学生時代の友人たちなどいつもの面子がずっと彼を応援しています。また2021年の選挙では一気に仲間が増え(1作目の映画がヒットしたことも大きいのでしょう)、若い世代のサポーターが選挙事務所をまるでコミュニティスペースのようにしてしまうなど「旧態依然」の真逆をいくチーム小川の姿が自分ごとのように誇らしく思えます。

極め付けは「娘たち」です。小川夫妻には娘が二人います。『なぜ君』序盤では泣きじゃくり抱っこされていたおちびさんたちが、いつしか事務所を手伝うようになり、父と共に自転車で街中を走り回り——。彼女たちもやはり「政治の道に進む気は全くない」と笑顔で言い切るのですが、それでも一般的には「年頃のお嬢ちゃん」な二十歳そこそこの子たちが選挙シーズンには全力で活動をサポートし、誰よりも「お父さん」の志を信じる。素敵、とかそんな言葉じゃ表現しきれない、この、思い出すだに目頭がぎゅううっとくる家族のかたち。ああもうほんとに、何?! 『香川1区』なんていう無味乾燥なタイトルでこんな泣かせてくるの何?!

ちょっとこればっかりは観てもらわないことには伝わらない気がするので、もしご興味持たれた方おられましたら、まず配信で観れる『なぜ君は総理大臣になれないのか』から騙されたと思ってぜひご覧ください。んで「これの続編があるんだったら絶対観たい!」となるはずなので、そしたら今度は現在公開中の『香川1区』もご覧ください。

もちろん、何事も切り取り方です、視点です。本シリーズ、特に『香川1区』のほうはエンタメに振っている部分も大きいので、本作の感想イコールわたしの政治思想となるわけでは必ずしもないでしょう(それが判断できない程度には疎い自覚がある)。ただ、とにかく、面白い! 選挙ってこんなに心から応援したり手に汗握ったりでき得るものなんだ、そう知れただけで大収穫なドキュメンタリーでした。自分の選挙区でも同じような体験ができるのか? そんなふうに考えてみるところからのスタートかなと思います。

(2022年48・49本目/劇場鑑賞)

鑑賞日は大島新監督と前田亜希プロデューサーのご登壇もありました(僭越ながらチュプキ公式ツイート用に写真を撮らせていただきました)。前田プロデューサーは、『香川1区』を観た人ならみんな分かる「あの方」です。あのシーンはほんっとにもう、わなわなしたよね……。