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映画「やがて海へと届く(2022)」感想|岸井ゆきの×浜辺美波に釣られ、何も知らずに観てみたら。

4/1から公開されている映画『やがて海へと届く』を初日に観てきました。彩瀬まるさんの同名小説が原作となっていることはエンドロールまで知らず、鑑賞動機は単純(っていうか不純)に「岸井ゆきの×浜辺美波」だなんてそんなの観ないわけがないでしょ!というもの。しかもなんか、百合みあるし。観るでしょ。

そんなわけで全く予備知識なく(※)観た本作でしたが、それだけになかなか驚かされることも多く。まず前半は「原作未読・あらすじすら未読」な状態からの感想を、後半では「原作を買って読んでみた」感想を書いていこうと思います。どちらにせよネタバレ要素含みます。

※わたし「全く予備知識なく」映画を観がちなのですけど、どうやら無意識のうちにあらすじやプロモーションツイートなど内容に触れるものを読み飛ばす癖?があるみたいなんですよね。とにかく内容を知りたくないらしい。


映画「やがて海へと届く」ポスター
映画「やがて海へと届く」ポスター


原作・あらすじ未読での感想

我が国における麦わら帽子ベストドレッサー浜辺美波さんと『愛がなんだ(2019)』以降信頼をおいている岸井ゆきのさんの、あわよくばちょいと百合めいたものを堪能する気満々で劇場へ馳せ参じた本作。序盤は「期待していたもの完全に供給!」って感じでご満悦だったのですが、どんと「遺影」が大写しされたところでそれなりにショックを受けます。現実突き付けてくんの早えな。

ただ、どうも会話の節々から察するに、死んでいるとも限らないらしい。あ、そうなの? で、しばらくして一旦そのことが追いやられるほどの事件もあった上で、「津波」の二文字が投下され。ここでようやくわたしは「あ、そういう話……」と知ったのでした。これほんと、あらすじには必ず書いてあることだったので、ここまで知らずに観ていた人は少数派だと思いますけども。不思議と予想もつかず、やけに不意打ちを食らってしまいました。

方向性がわかってくると、あれよあれよと陸前高田、防潮堤、そしてそこまでの耽美な映像世界をぶった切るドキュメンタリック。OPと対を成すような儚く美しくグロい水彩アニメと、『最後の決闘裁判(2021)』くらい地味な「別視点」。正直「うまい」のかどうかはよく分からないが、何かしら「感じろ」という圧を感じるのでそれなりに感じてみたりして。

観ながら思ったのは、わーいハンバーグだーと喜んで食べてたらじつは苦手な野菜いっぱい入ってた、みたいな。そんな映画だったなと。「苦手」は語弊があるけれど、まあなんていうか食べ進めているうちカモフラージュされた「忘れさせねえよ」が歯に当たる映画っていうか。なかなかすごいことをしている映画だと思いました。

それから、つくづく「3.11」が創作物に与えた影響は大きいなと。おそらく太平洋戦争と同じぐらい、2011年以降多くの物語の背景に置かれていることでしょう。50年後にこれらの物語を手に取った人はどう見るんだろう。様々な「象徴」から何を読み取るんだろう。そんなことが今回は特に頭を巡りました。

全体的に通じるところを感じた作品は『君は永遠にそいつらより若い(2021)』。大学生のコンパから始まり、突然の自死、遺品整理、ちょい百合。死んだ理由なんてわからない。他人の考えなんてわからない。あとは「喪失と再生」のところで、直近の個人的大ヒット作『春原さんのうた(2021)』。タッチこそ違えど、同じことを描いている作品じゃないかなと。

原作を読んでの感想

中川龍太郎監督や原作者・彩瀬まるさんのインタビュー、対談等を読んでいたらとても原作が気になってきたので、翌日買って読みました。

まず、すごく好みの作品だったことが嬉しかったです。フィクション小説ってあまり得意ではないのですがこれは読み始めてすぐに「合ってる」と思いました。特に感銘を受けたのが「青天の霹靂」的な出来事とそれに伴う感情・感覚描写。頭が真っ暗になったり、血の気が引いたり、そういった瞬間の機微をものすごく的確な表現で描いていて。夢とうつつの自由自在な揺らぎ的描写も巧みです。小説ってこんなにあっちこっちに飛ばされるんだ!ぐらぐらするんだ!と感動しました。

映画化に際したキャスティングも見事だなと。主役ふたりについては敢えてあまり細かい描写をしていないように読めましたが、傍のキャラクターたちは映画を観たあとだと「まんまじゃん」という感じ。国木田さん絡みのエピソードが原作は多めなので、中崎敏さん演じる彼との小旅行にキュンキュンした方は原作おすすめです。遠野を演じる杉野遥亮さんもね、『ヤンキー君と白杖ガール』の印象が強いってのもあるけど、いい奴ですよね。原作だともうちょっといい奴ですよ。

原作の構成で特徴的なのは、真奈の一人称視点で語られる「奇数章」と、すみれと思わしき存在の「意識みたいな何か」が詩的に綴られる「偶数章」とに分かれているところ。これ映画版だと、あの「アニメ」が偶数章に当たるのだと思うんですけども、なんかすごく腑に落ちました。映画であのアニメに戸惑った方はぜひ原作読まれてみることおすすめします。他にも結構「全体としては忠実だけど、あ、意外とこれは映画独自の要素なんだ!」みたいな驚きがあったりしておもしろかったです。

先に述べたハンバーグのカモフラージュ的なところで今回の映画版はなかなかチグハグな、アンバランスな印象も受ける仕上がりなのですが、そのおかげで小骨が引っかかるというか、するりとは通り過ぎていかない作品になっていて、そこがいいなと思います。

(2022年59本目/劇場鑑賞)