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主に映画の感想文を書いています

聖蹟桜ヶ丘・キノコヤさんほか「春原さんのうた」ロケ地探訪

最近どうも自分のなかで特別な存在になっている映画『春原さんのうた』。たった一首の短歌〈転居先不明の判を見つめつつ春原さんの吹くリコーダー〉を原作とした、杉田協士監督の作品です。

その劇中で主要な舞台となっているのが、とっても雰囲気のいいカフェ「キノコヤ」。こんなカフェあったらいいなあと思っていたのですが、なんとこちら実在するお店だそうで!

映画の中は桜の季節、そして今もちょうど桜の季節。お店の所在地である聖蹟桜ヶ丘は小一時間あれば行ける距離。これは行かない選択がないでしょう。というわけで今回はお花見と聖地巡礼の記録です。

4月2日、土曜日。ジブリアニメ『耳をすませば(1995)』の舞台としても有名な聖蹟桜ヶ丘ですが、駅に降り立つのは多分初めて。「桜」とつくだけあって早速見事な桜並木が迎えてくれました。今住んでいるところは桜の木が全然ないので、今年初めて見る満開の薄桃色に否応なく胸も高鳴ります。

お店は駅から徒歩5分もかからないくらいの場所。川沿いなのですぐわかるはず、と歩いてゆくと、ありました!

川沿い、一本の桜の木と向かい合うように建つ二階建ての白い建物。
カフェ「キノコヤ」さん発見!

大きな桜の木と向かい合うように建つ、クリーム色の建物。カフェ「キノコヤ」さんです。すぐ前の川辺では撮影やプチお花見を楽しむ人たちが沢山。この日は本当にいい気候でした。

お店の前まで行くと、こんな感じ。

店先の自転車、開け放されたドア、大きな四角い窓に不思議なデザインの鉄格子。
全てが可愛い……。

開け放されたドア、大きな四角い窓に独特なデザインの鉄格子。この店構えだけでパーフェクトに可愛い。

ちょいと緊張しつつ早速入店し、入ってすぐのカウンターに着席。キッチンには『春原さんのうた』にもご本人役で出演されていた店主の由美子さんが。映画を観て来たんですとお伝えすると、カウンターの奥に座ってらした先客の方も同じくとのことで、ですよね、やっぱり来たくなりますよね。

キッチンとカウンターを隔てる飛沫防止シート。白い線でフリーハンドの模様が描いてある。
映画を観たあとだと、飛沫防止シートすら嬉しい。


許可をいただいて店内の写真を撮影。外から見ても特徴的だった四角い窓、中から見るとこんな感じです。

角丸な正方形の窓、外側の鉄格子がおしゃれ。窓の外には満開の桜。
劇中でも、喪服姿の男女がこの席に座ります。

映画の世界そのものだし、それ以前にめちゃくちゃ可愛くて大興奮。角丸の窓、おしゃれな鉄格子、射し込む光、開け放されたドアと窓いっぱいに広がる満開の桜。よすぎる……。

この物件はもともと店主・由美子さんお気に入りのスナックで、お店を畳むと聞いて「それなら私が」と引き継がれたのだそうです。


ところで、小さな店内を見回すと『春原さんのうた』のポスターが目に入るのですが——

店の隅。淡い青緑の壁に映画のポスターや映画祭のトロフィーなどが雑然と置かれる。
さりげなさすぎる『春原さん』コーナー

問題はその周辺に雑然と置かれた、じつは貴重なものたち。ずばり、海外の映画祭で『春原さんのうた』が受賞した賞状やトロフィー! なんでも「杉田監督がお店の前に置いて帰った」のだとか。ってそんな不用心な…!笑

杉田監督は日常的にキノコヤさんへ通われているらしく、反対側の一角に設けられた書籍コーナーには監督の私物も多数混ざっているそうです。

ティファニーブルーの大きな戸棚のほか、大小の本棚が並ぶ。
いろいろありそうな書籍コーナー

ちなみにわたしが反応したのは真正面の萩尾望都コーナー。赤い装丁の全集だ! 『一度きりの大泉の話』まである! お話を伺ってみると、以前『一度きりの大泉の話』の感想会なんてものを開催し盛況だったとのこと。さぞや濃ゆい会になったのでしょうね。


さて、まだまだ続きます。お昼時だったのでナポリタンを注文。映画の中でも何かしらのパスタ食べてましたが、あれはナポリタンだったのかな。1回しか観ていないので細かい記憶が……。

楕円形の白いお皿に盛られたナポリタン。
茶店ナポリタン!

劇中にも登場したこのお皿、軽いんです。こういう素材だったんだ。そういえば映画の中でタバスコの瓶ほとんど中身入ってなかったですよねと言うと、それが「リアル」なんです、とのお言葉いただきました(笑) なお、この日はタバスコしっかり入ってました。

食後にはコーヒー(すっきりしていてブラックでもすごく飲みやすかった! 障がいのある焙煎士やバリスタさんが活躍する焙煎所「SOCIAL GOOD ROASTERS」のものだそう)と、おすすめの「田芋(たいも)パイ」を。

カップに入ったコーヒーと、木のお皿に置かれた揚げ餃子のようなパイ。
タイル張りのカウンターも可愛い

揚げ餃子のようなこのパイ、薄紫色をした田芋という沖縄のお芋の餡が入っていて、ほのかに甘く、上品なのにクセになる逸品でした。温めてあって、それがまた最高に美味しくて……。また食べに来なければ。

カウンターなのをいいことに、いろいろ『春原さんのうた』の裏話もお聞きすることができました。例えば劇中の「キノコヤ」は主人公・沙知と由美子さんが二人で回しているけれど、実際には由美子さんお一人で回しているそうです。二人もいたら狭くて大変!とか。あと、2階の窓に映像を投影しているシーンがありましたね。あれも実際にやっているそうですよ。


2階の窓といえば、そう、ここからがメインディッシュです。映画の中で非常に印象的な使われ方をしている2階の窓際、桜をひとりじめできる席。お客さんが帰られたタイミングで、上がらせていただきました。それがこちら。

桜の見える窓際の席、なんの変哲もない、ただのそれだけ。しかしたまらなく美しい。

映画を観た方なら「!!!」となること必至の、あの席です。まさにあのまんまの、あの席です。

わたし聖地巡礼的なことはよくやるほうですが、ロケ地はあくまでロケ地、映画の世界とは別物だと思っていました。でもこの「2階」は、すごかった……。映画そのままに、いやもしかしたら映画以上に幸せかもしれない春の空気が充満していて、空間にこんなうっとりすることはそうそうないってくらい、うっとりしました。

パンフに載っている劇中カットと一緒に、2階をパシャリ。
お店で買ったパンフと共に

眼下にはお花見や撮影で幸せいっぱいの人々。方や、ちょっとした高みの見物でコーヒー片手に目の前の桜をひとりじめできるわたし。ああなんか、ずっとここにいたい。ここで昼寝がしたい。

多幸感でどうかしちゃいそうだったので、振り切るように1階へ降りておいとましました。キノコヤさん、ありがとうございました。必ずまた来ます。


店を出たあとは、名残惜しさで周辺の川沿いをしばらく散歩。杉田監督の映画はキノコヤさん近辺で撮影されていることが多いらしく、この日の夜にポレポレ東中野さんで鑑賞した『ひとつの歌(2011)』にも「あ、これは!」という風景が出てきたりしたのですが、それはまた別の記事に書くとして(→書きました)。

駅へと続く通り。桜の木のそばに、大きな郵便局がある。
この郵便局も、劇中で大切な役割を果たします。


この記事では最後にもうひとつおまけとして、『春原さんのうた』主人公・沙知さんの自宅最寄り駅をご紹介いたしましょう。駅の名前は「小竹向原(こたけむかいはら)」。東京メトロ西武鉄道が通る駅です。沙知さんはこの駅から聖蹟桜ヶ丘のキノコヤまで通勤しているのですが、乗り継ぎがうまくいっても1時間はかかるルート。なかなか遠いですね。

せっかくなので、わたしも実際に聖蹟桜ヶ丘から小竹向原まで行ってみました。劇中何度も出てくるあの地上出口に、出れるかな?

小竹向原駅、ごくありふれた地上出口。
出れた!

沙知さんが何度も待ち合わせやお見送りをしていた場所。うれしい。iPhoneのカメラなんでズームが貧弱ですけど、アングル的にはもっと引いて望遠寄りで撮るとあの感じになりますね。

上の写真と同じ場所を、遠くから望遠寄りで撮影。
この感じ

まあ完全に住宅地という感じで何もなかったので、それらしいアパートないかな〜と少し散策してから(それらしいアパートはいっぱいあった)、さっさか新宿へ戻りました。新宿三丁目まで12分199円、いいところ!


そんなわけで以上、『春原さんの歌』ロケ地探訪記でございました。なんといってもキノコヤさん、本当に素敵なお店だったのでお近くの方はぜひ行かれてみてくださいませ。

キノコヤ正面からの写真、別バージョン。

キノコヤさん InstagramTwitter


キノコヤさんがたっぷり出てくる映画『春原さんのうた』も引き続き大プッシュ。ぜひご覧ください。

追記:数週間後、新緑のキノコヤさんにも行きました。これもまた、幸せすぎる空気……。杉田監督が掘ってきたという筍のパスタもいただきました。

すりガラスが新緑に染まる 薄緑のすりガラスをクローズアップ

早くまた行きたい……。