「ウォッチメン」原作コミック('86)、映画版('09)、HBOドラマ版('19)を一気に摂取した記録
本稿は『ウォッチメン』と名のついた各種作品を初めて摂取する方向け、より細かく言えばドラマ版を観たいんだけど予習は必要? と悩んでいる方向けのガイド記事、のようなものを目指しています。書いているのは、まさに一週間前くらいまでその状態だった人です。なお、大きなネタバレはありません。
目次
はじめに: 3つの『ウォッチメン』
2020年6月現在、『ウォッチメン』というタイトルが指す作品は3つあると認識しています。
- 1986年に出版されたコミック
- 2009年に公開された実写映画
- ザック・スナイダー監督作。時代設定含め、原作をかなり忠実に再現。
- 2019年に放送されたドラマシリーズ
- HBO製作。原作世界の34年後、2019年のアメリカが舞台。
ついでに言うと宇多丸チルドレンなわたし的には、ライムスター宇多丸氏のラジオ番組内コーナー「週刊映画時評ムービーウォッチメン」も連想するタイトルです。というかそこが最初でした。
コーナータイトルの由来っぽい映画『ウォッチメン』、観ておかないとな。でも3時間くらいあるからあんま気軽に観れないな。と結局ずるずる観ないままでいたら、今度は天下のHBO様がドラマ版を作り出し、おっとこれはますます避けられない状況になったぞ。そんなわけでようやく重い腰を上げたのであります。
3作品の関係性
まず、非常に評価と人気が高い1986年の原作コミックが絶対的に存在しています。そしてそれをものすごく頑張って実写化した2009年の映画版はある程度評価されるも、改変されたラストが賛否を分けました。また、原作者アラン・ムーア本人の公認も得られていません。それは2019年のドラマ版も同様なのですが、こちらは原作を飛び出したオリジナルの続編だという大きな違いがあり、人種問題などにも踏み込んだ現代的アレンジを含め高く評価されているようです。
本稿はこの3作品を読んだ/観たうえで書いています(映画のディレクターズカット版2種は未見です)。
『ウォッチメン』はこんな話
一応あらすじ、というか原作&映画版のプロローグを書いておきます。
共通の現代史が存在する世界でヒーローたちが暗躍するおもしろさは『X-MEN』シリーズを、スーパーヒーローという存在をダークでシニカルに描くおもしろさは『ザ・ボーイズ』などを連想させる作品です。ユニバースに属さない単独の作品であるところも初心者に優しいと言えましょう。
摂取の記録
わたしの場合は【映画版→ドラマ版(並行してコミック)→おさらいで映画版】の順番で摂取しました。理想的な順番かどうかは分かりかねますが、とりあえず「この順番だとどうだったか」を記録しておこうと思います。結論としては悪くないです。
1. 映画版『ウォッチメン(2009)』初見
全く前情報を入れずに、というわけではなく宇多丸さんの映画評などいくつか耳に入れてからの鑑賞でしたが、この初見の感想は、正直「後半眠かった」。掴みは良かったものの、いまひとつ感情移入できないキャラクターたちと時系列の分かりづらいストーリー、なんやねんな展開etc...。単品で感想記事を書くのはやめておこう、と思いました。ただし映像作品としてのクオリティは十分に高いです。(2020年89本目/U-NEXT)こだわりのない鑑賞ならここで終わるところ、本作に関してはちゃんと向き合いたいタイトルであるし、宇多丸さんによる「どうか原作を読まずに判断してくれるな」という訴えを聴いていたので、それに従ってみることにします。
2. 原作コミック『ウォッチメン(1986)』購入
WATCHMEN ウォッチメン(ケース付) (ShoPro Books)
- 作者:アラン・ムーア
- 発売日: 2009/02/28
- メディア: 単行本
早速少し読み始めてみた感想は、「まるで映画版の絵コンテのようだ」。実際に映画版ではコミックのひとコマひとコマを絵コンテがわりにして撮影した、と聞きます。つまりそれぐらい映画版は「原作を忠実に実写化」したものだったのだな、と認識。というか、そもそもの位置付けとしてまず原作で物語の流れは知った上で、その世界が実写化されていることを楽しむための映画版なのでしょう。この分厚いコミックを読み終えた頃には、映画版で分からなかった部分も理解度が深まっているに違いありません。
3. ドラマ版『ウォッチメン(2019)』視聴
厳密にはコミックより先にドラマ版を観始めました。現在1シーズンのみで各話60分前後の全9話と、気軽に入れる作品です。そしてとにかく面白い!! 映画版で改変されてしまった「要」の部分をまず元に戻し、完全オリジナル脚本の続編でありながら映画版で映像化しきれなかった原作の魅力を補完し、かつ原作にもない新解釈で非常に現代的なテーマを盛り込んで……と、まあ見事なのです。これは確かに高評価が頷ける作品でした。
この作品について書くにあたり求められているのはおそらく「映画を観ておくべきか」ということでしょう。上述の順番で観てきた身としては、「観ておいてよかった」と思いました。詳しくは後述します。
4. コミックを読み終えて、映画版を再鑑賞
一週間ほどかけてコミック読了。ものすごい情報量、漫画なのに圧倒的な文字数、士郎正宗さんの『攻殻機動隊』原作コミックを連想するような作品でした。カルト的人気のポジションとしても攻殻は近いかもしれませんね。
ここで当初の予定どおり、映画版を再鑑賞です。やはり掴みは良し、そしてコミックからの再現度がものすごいなあと新たな感動があります。2017年にハリウッドで実写映画化された『攻殻機動隊(ゴースト・イン・ザ・シェル)』も、細部はどうあれ、原作愛をビシビシ感じる「よくやったなあ」の作品だったことを思い出しました。
今回は原作片手に(重いので実際は両手に)観ていましたが、ページの進み具合と映画の進み具合がほぼ同じなのも感心。コミックがちょうど真ん中まで来たころ、映画もちゃんと折り返し地点、っていうようなことです。よくまあここまで忠実に作ったものです。
しかし、完璧な実写化作品と言える前半に対して、後半は明らかに息切れしていることが再鑑賞ではっきり見えてきました。再現してやろうという意気込みも、脚色の具合も、そして極め付けにラストの改変です。大きく意味合いを変えてしまったこの改変により、「終わりよければ」の逆をいってしまったことは否めません。原作を読んだことで全体の理解度は上がりましたが、原作のラストを知ってしまったことで結局、初見時と大差ない「うーむ」な感情が残るのでした。
原作を知らないと楽しみづらい。でも原作を知っているとそれはそれで楽しめないところがある。……とはいえドラマ版の予習として手っ取り早いのは原作コミックより映画版。なんとも難しいポジションの映画版です。
どの順番で摂取するべきか
とりあえず映画版を観ておくのがいい、かも
ドラマ版の舞台は2019年という「現代」ですが、あくまで原作世界から34年が経過した「違う世界線の2019年」になっており、原作世界の事情を知らないと理解不能な状況がところどころ出てきます。なので映画もしくはコミックで「34年前」をあらかじめ知っておくことは間違いなくメリットになります。
理解不能な状況、の最たるところは「火星」と「イカ」です。ただし「イカ」は原作から改変されて映画版には出てきません。映画版ラストの大展開が本来は「イカ」であった、「イカ」は「怖いもの」だ、とだけ認識しておけばよいでしょう。火星については映画版にも出てくるので問題ありません。
もうひとつ映画版に出てこない特殊な状況で「ロバート・レッドフォード大統領」なんてのがありますが……、まあこれはロバート・レッドフォードが大統領だよ、と思っておけば大丈夫です。ちなみにドラマの世界ではニクソンが5選してます。スーパーヒーローの存在は歴史を大きく変えたのです。
原作コミックからのほうが良さそうでは?
原作コミックを最初に読むのはもちろん最も正統なルートなのですが、ただ、コミックはかなり読みごたえがあり、手っ取り早くドラマ版の予習をしたいという向きには不適切な気がします。
日本人的にはアメコミ特有のクセもやや障害となってくるので、まずはビジュアルとして入りやすい映画版で世界観を掴み、改変された「差分」だけは知識として頭に入れておいてドラマ版を視聴。こりゃ原作読まずにいられねえぜ、な気持ちが高まってきたらコミックを買って読み込む。つまりわたしのルートですが、悪くなかったです。
以上、結局ぐるぐるしていて結論が出ていないとも言えるのですが、少しでも参考になれば嬉しいです。本稿では作品の内容について殆ど触れられなかったので、特にドラマ版の感想はまた改めて書けたらと思っています。ドラマ版、すごく面白かったです! そこだけ最後に強調しておきます。