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主に映画の感想文を書いています

映画「明日をへぐる(2021)」感想|和紙の原料「楮(こうぞ)」農家のドキュメンタリー

毎度お馴染みシネマ・チュプキ・タバタにて12月前半プログラムの3本ハシゴをしてきました。今回はドキュメンタリー2本とノンフィクション1本。わたしはチュプキを「箱推し」しているので概要もろくに見ず「かかってるから」というだけの理由で最近は観に行っているのですけど、それがドキュメンタリーともなると本当に未知のジャンルを図らずも深く知ることになったりして大変おもしろいです。

この日1本目に観た『明日をへぐる』「和紙の原料となる楮(こうぞ)農家」のドキュメンタリー。はい、全く未知のジャンルでした。でもこれが門外漢でも非常に楽しめる構成となっていて、かなり秀逸なドキュメンタリーだと思いました。


ドキュメンタリー映画「明日をへぐる」ポスター
ドキュメンタリー映画「明日をへぐる」ポスター


前半ではまず楮という植物(茎)の収穫と、それを巨大な蒸し器(ポスターのモチーフにもなっている)で蒸すさまと、地域の人たち総出で皮を剥きその皮からさらに表皮を「へぐって」いく作業と、なんていう第一次産業の伝統的職人芸をじっくり見ることができます。驚愕の地道な作業です。小学生の頃に紙漉き体験をしましたが、あれもその前にこんな大変な工程があったのでしょうか……。

高度成長期・国策としての林業がもたらした弊害といった話とも繋がっていくので、個人的に思い出深い(チュプキで最初にお手伝いさせていただいた)一作『花のあとさき ムツばあさんの歩いた道(2020)』に重なるところもありました。


いっとき栄えた楮農家も現在では和紙の需要が激減したりして衰退の一途を辿っているそうなのですが、ふと、そういえばルーブル美術館だったかで美術品の修復作業に障子紙か何かが使われているのだけど作り手さんが減ってきていて技術の継承も難しくて、なんて話を聞いたなあ、アトロクで。なんてことを思い出したりもしました。

この特集ですね。31分あたりや45分あたりからそういう話が出てきます。

で、なんですけど、そう思いながら見ていたらなんとこのドキュメンタリー、後半まさにその美術品修復的な話が出てくるんです! こーれが面白くて。うわーーこれがそれかーーと。半年前のラジオの特集を覚えてるくらいですからね、興味あったんですよね。さほど興味ないつもりで観始めたドキュメンタリーが、じつはドンピシャ興味あるとこに繋がったという、嬉しいパターンですね。かといってもちろん伝統技術の継承問題が解決しているって話ではないので、嬉しいだけでは終われないんですが。

またもうひとつ面白かったのが、冒頭からちょいちょいスティールパンの演奏が劇伴として使われているんですけど、なんでかなーと思っていたら最後の最後でスティールパンのバンドが登場しまして。そんでもっておもむろにラヴェルの「ボレロ」を演奏し始めて、エンドロールなんです。この瞬間、うわ、なんてぴったりなエンディング曲なんだと。安定したリズムの供給と地道で正確な繰り返しが要求され、かつ決して衰退してはならない。和紙の話で、まさかボレロにこんなメタファーを感じるとは……。

そんなわけでかなり面白い、大満足のドキュメンタリーでございました。バリアフリー版もデフォルトで用意されていて、音声ガイドのナレーションはなんと笠井信輔アナウンサーです。シネマ・チュプキでは12月17日(金)まで上映されています!(珍しく宣伝できる時期に観れました)

(2021年207本目/劇場鑑賞)

公式サイトには音声ガイド関連のコンテンツも多数掲載されていましたので併せてどうぞ。