シネマ・チュプキ・タバタにて、映画『MINAMATA -ミナマタ-』を観ました。水俣病の実情を取材したことで知られるアメリカ人写真家W・ユージン・スミスを主人公とした実話ベースの物語で、本作のプロデューサーでもあるジョニー・デップ自らユージンの役を演じています。
水俣病ってすごくメジャーな公害病であると同時に正直よく知らない病気でもあって、今回鑑賞したのも何かしら知れたらいいなというくらいの気持ちでした。後から軽くWikipedia等で調べてみると結構脚色している部分はあるようで、劇映画的にしすぎている気がしなくもないのですが、何はともあれ「知るきっかけ」となることが最優先だとすればその点では非常に入りやすい作品だったかなと思います。
ジョニー・デップ演じる写真家ユージンは、言われてもジョニー・デップだと分からないほど。というか観ているあいだ彼をジョニー・デップだとは一度も意識しなかったし、なんなら庵野秀明監督に似てるなあとしか思わなかった(つまりアイリーンはモヨコさんに……?)。さておき、「人を失望させるのが得意な男」っぷりに説得力があって、かつ魅力的でもある、よい主人公でした。
いきなり余談で、ニューヨークのユージンの部屋にトランペットやピアノがあるのはなんでだろうと思っていたら、これもWikipedia情報にすぎませんが彼は一時期トランペッターやピアニストなどジャズマンたちと共同生活をしていたのですね。そしてなんとその時期のことが『ジャズ・ロフト』という映画になって、ちょうど今公開されているそうな。書きながら知りました。気になる!
真田広之さん、浅野忠信さん、國村隼さんといったそうそうたる日本人キャストが脇を固めているのも見どころです。特に國村隼さんに至っては水俣病加害者側の最高責任者たるチッソ株式会社社長役。キャスティングの「わかってる」感がすごい。
また、ユージンの妻アイリーンを演じた美波さんという方、わたしお名前存じ上げなくて、どこかで見たお顔だなとは思ったんですがフィルモグラフィにピンと来なかったので見てない可能性もある。なんにせよ美波さん、とても美しかった。たいへん魅力的なキャラクターでした。ちなみにアイリーンさんご本人はまだまだご存命で、本作も鑑賞し各媒体にコメントを寄せておられます。
この記事を読んでいて驚いたのが、「セルビアとモンテネグロに70年代の水俣を再現」していると。日本撮影もあるけど多くの部分が海外っていうことなのでしょうか。全然気付かなかったな。少し懸念していた「日本がどう描かれるか問題」も、少なくとも言葉や文化の面では全くの杞憂で、もはや日本映画ではないことを忘れて観ていました。日本人スタッフもかなり入っているのでしょうね。
エンドロールではユージンの実際の作品たちが見られるのかと思いきや、水俣病同様に未解決の公害が際限なく示されていきます。世界中の誰が観ても当事者性を持てるように。ジャーナリズムよ、目覚めろ。そんなメッセージを感じました。
なお本作、ジョニー・デップのスキャンダルが関係して本国では未公開となっていたのがこの度公開されることになったそう。スキャンダルの実情をよく知らないので一口に良かったと言えるのかどうかわかりませんが、ジャーナリズム的にはとりあえず良かった、はず。
ちょっと、肝心の水俣病については今回何も書けませんでしたけども、まだ書きたい思いが溢れるほど知れてはいないというところでもあるのでしょうね。わたし的にはあくまで「知るきっかけ」として、良質な作品でした。
(2021年208本目/劇場鑑賞)
ユージンとアイリーンによるこちらの写真集が本作の原作となっているようです。ドキュメンタリー「阿賀に生きる(1992)」
現在シネマ・チュプキにて『MINAMATA -ミナマタ-』と併映されているのが、新潟県の阿賀野川流域を舞台とした1992年公開のドキュメンタリー映画『阿賀に生きる』。こちら、知る人ぞ知る伝説的なドキュメンタリー作品らしくてですね、わたしにはそのエポックメイキングっぷりをあまり感じ取れませんでしたが、ただひとつ「人の手によって不器用に作られたデコボコ感」は非常に強く感じました。決して素通りはしていかない作品です。
で、なぜチュプキでこれが併映されているか、そしてわたしがなぜ『MINAMATA』と同じ記事に書いているか。それはずばり「新潟水俣病」が背景にある作品だからです。新潟水俣病は熊本水俣病(『MINAMATA』で扱われている水俣病)より10年くらいあとに確認された「第二水俣病」とのことですが、熊本水俣病と同じく「加害企業の企業城下町で公害が発生していることの複雑さ」があり、白黒はっきりとさせることが難しい。そのあたりの事情が本作からは『MINAMATA』よりも分かりやすく見えてきました。
ただ本作は単に水俣病のドキュメンタリーというわけではなく、水俣病という背景もあった上での「人生いろいろあるよね、しみじみ」な作品であるところがおもしろいです。いつ亡くなってもおかしくないくらいのおじいちゃんおばあちゃんたちが主役なのでちょっとヒヤヒヤするんですけど、同時に現在30代半ばである自分の半世紀後とかに思いを馳せてしまうんですよね。80過ぎてから初めて弟子を持った船大工のおじいちゃん、30年ぶりに鈎流しの釣りをやってみる元ベテランのおじいちゃん、もしくは「お話中大変恐れ入りますがじゃがいもどこいった?」みたいな老年夫婦の会話。
公害、過疎化、高齢化、ネガティブな要素しかないように思える阿賀の生活ですけど、何かしら「いいなあ」と思える部分もあって。仲間がいて酒がうまけりゃ最高、そうねえ、そんな余生が送れたら最高なのかも知れない。囲炉裏端でうつ伏せになって。あれはあれで、豊かだなあ。などなどとぼんやり考えるのでありました。
(2021年209本目/劇場鑑賞)
どちらの作品もシネマ・チュプキ・タバタにて字幕&音声ガイド付きで12/17(金)まで上映されています。『MINAMATA』は音声ガイドと一緒に日本語吹き替え(字幕朗読)も聴けます!(あと音声ガイドがとてもいいです!)