353log

主に映画の感想文を書いています

映画「くじらびと」「大海原のソングライン」「地球交響曲 ガイアシンフォニー 第九番」|シネマ・チュプキ12月後半プログラムまとめて感想

東京・田端のユニバーサルシアター「シネマ・チュプキ・タバタ」に一日籠って、12月後半のプログラムから『くじらびと』『大海原のソングライン』『地球交響曲 ガイアシンフォニー 第九番』を観てきました。3本ともドキュメンタリー作品です。


チラシとパンフレット


くじらびと(2021)

1本目は石川梵監督作品『くじらびと』ヒーリング系かと思わせて物凄いパワーとエネルギーの作品でした。舞台はインドネシアのラマレラという村。この村は作物が育たない土地で、鯨漁が村の生活を支えているのだそうです。

序盤は波の音がただただ心地良く、うつらうつらとしていました。わたしはチュプキでは必ずイヤホンから音声ガイドを聴いているので、目をつぶっていてもさほど問題ありません。というのは言い訳ですが、まあとにかくふわふわざっぱーんとゆるめに鑑賞しておりました。しかし途中でパキッと目が覚めます。若い漁師が海でマンタにさらわれ、帰らぬ人となってしまったのです。

遺体が見つからない場合は巻貝を遺体に見立てて埋葬するというしきたりがあるそうで、それだけ漁師の事故が多いのでしょう。村人たちは文字通りに嘆き悲しみ泣き暮らしますが、しばらくすると村人総出で「新しい舟」を造ることに。作業を通して心の復興を図ります。記憶に新しいところで、ひとつ前の朝ドラ『おかえりモネ』を思い出しました。津波で妻を亡くして船を降りた漁師と、そんな父を見ながらも漁師となり新しい船の購入を目指す彼の一人息子。海と共存することの生半可ではなさをあらためて感じました。

3ヶ月後、出来上がった舟とともに漁師たちは再び海へ挑みます。クライマックスとなる鯨漁のシーンは思わず前のめりで(※最後列だったので)、瞬きもできないくらい食らい付いて観ました。優れたドキュメンタリー映画は最終的に劇映画になる、もしくは劇映画をも超越する、とわたしは思っているのですが、本作もまさにそれ。ハリウッド顔負けの一大スペクタクルでした。鯨一頭を何艘もの舟で取り囲んで、それでもあれほど翻弄されるとは。

ドローン撮影により真上から漁を俯瞰できるのも圧巻で、深く蒼い海と鯨の鮮血、蒼と赤のコントラストが目に焼き付きます。ラスト、鯨の「眼」から少しずつそして遥か上空まで引いていくショットも息を呑みました。ドローンの普及がドキュメンタリー界にもたらしたものはかなり大きいのではないでしょうか。

大海原のソングライン(2019)

2本目はティム・コール監督作品『大海原のソングライン』。これはまたなんとも独特な作品でした。環境破壊についての問題提起がベースにはあるのですが、表面上は音楽を軸にした、ある種ミュージックビデオのような作品となっています。

一体どんなミュージックビデオなのか。オフィシャルの文章を引用すると「台湾から出発してオーストラリア、ニュージーランド、マレーシア、さらに太平洋の向こう側に位置するマダガスカル、そしてイースター島に至るまで16の島国に残る伝統的な音楽やパフォーマンス」の数々が、なんと海を超えてコラボレーションしていくんです。地球規模のリモートセッションという感じですが、制作は2019年なので時代を先取りしていますね。

浜松市楽器博物館にも置いてなさそうな民族楽器の数々を見れるのも楽しいところで、タイコ叩きとしてはもうなんでもいいから叩きたい衝動に駆られながらの82分でした。また、極めて民族色の強い演奏・パフォーマンスの場に極めて近代的な録音機器やイヤホンなどが紛れ込んでいることのちょっとしたシュールさも非常に不思議な世界観を作り出していて好きでした。

地球交響曲 ガイアシンフォニー 第九番(2021)

3本目は龍村仁監督作品地球交響曲 ガイアシンフォニー 第九番』。この『地球交響曲』シリーズ、わたしは全く存じ上げずにいきなり『第九番』からの鑑賞となりましたが、実際は1992年公開の『第一番』から9作続いているオムニバス・ドキュメンタリーとのこと。30年間にわたる、龍村監督のライフワークなのですね。

今作では、世界的な指揮者・小林研一郎さん(愛称コバケン)がベートーヴェン「第九」を作り上げていく過程のドキュメンタリーと、考古学者スティーヴン・ミズンさんやノーベル生理学医学賞受賞者の本庶佑さんにスポットを当てた一見「第九」とは関係のないように思える別ジャンルのドキュメンタリーが、並行して進んでいきます。

どちらも興味深いけど、繋がりあるのかな。正直そう思いました。しかしこれが見事に繋がったのでした。例えば、スティーヴン・ミズンさんが沖縄の「シチ祭り」へ行ったときのこと。このお祭りでは、伝統的な衣装を着た人々が砂浜に立てられた3本の柱を囲んで歌い踊ります。踊る人々の足跡は、波がすぐに消してしまいます。ミズンさんは「私が考古学者として『3本の柱の跡』を発見したとする。果たして、こんな歌い踊る祭りが行われていたと想像できるだろうか」というようなことを言います。

その考え自体が個人的にすごくおもしろく、確かにそうだよなあと大きく頷いていたのですが、ここでピン!とコバケンさんに繋がります。200年近く前にベートーヴェンが書いた「音符=柱の跡」から想像力をひたすらに膨らませ、真の「第九」を導き出す。そんな作業をしている指揮者は、つまり考古学者じゃないか! ドキュメンタリーの構成の奥深さを感じました。

なおこの日はプロデューサーの龍村ゆかりさんが上映後にご登壇され、制作秘話など興味深いお話を沢山伺うことができました。また、なるべく多くの感想を聴きたい!ということで最終的には挙手のやまない感想会に発展したのも楽しかったです。わたしも上に書いた気付きのところを感想としてお伝えできて、非常に満足度の高い時間となりました。

この年末、チュプキでは本シリーズの全作上映をイレギュラーに組んでいるようですので、ご興味ある方はチェックしてみてください。

というわけで以上、チュプキ12月後半ラインナップ3本(前半から継続して『MINAMATA -ミナマタ-』も上映中)まとめての感想でした。12/31(金)までこのプログラムで上映されています。

それから、直前のお知らせとなってしまいますが12/22(水)にはチュプキ5周年と運営母体シティライツの20周年を記念したイベント『みんなで開こう、広げよう、ユニバーサル上映会』が王子の「北とぴあ」にて開催されます。シンポジウムのほか、初となるチュプキ製作のドキュメンタリー映画『こころの通訳者たち~what a wonderful world~(『<片隅>たちと生きる 監督・片渕須直の仕事』の山田礼於監督作品!)』のお披露目上映もあるとのこと。

わたくしも微力ながら場内スタッフ&観客として参加予定です。平日日中、もしご都合つくよという方おられましたらぜひお越しください。

(2021年219〜221本目/劇場鑑賞)