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映画「スズさん〜昭和の家事と家族の物語〜(2021)」感想|この「家事」を継承できていないのはなんという後退だろう

ドキュメンタリー映画『スズさん〜昭和の家事と家族の物語〜』を観ました。ひとつ前の『神在月のこども(2021)』に続き、新年一発目にシネマ・チュプキ・タバタにて鑑賞した(感想書きを2週間くらい寝かせてしまった)作品です。


映画「スズさん〜昭和の家事と家族の物語〜」ポスター
映画「スズさん〜昭和の家事と家族の物語〜」ポスター


ちょっと前置きが複雑なのですが、まず、昭和26年に建てられた木造2階建ての住宅をそのまま「博物館」にした施設「昭和のくらし博物館」が東京都大田区にあります。現在その館長さんをつとめておられる小泉和子さんという方のお母様が、本作のタイトルにもなっている「スズさん」です。

昭和のくらし博物館」では、昭和の貴重な資料として様々な「家事」の記録映像をスズさん協力のもと撮影しました。そしてその映像が「記録映画保存センター」に寄贈され、そこで本作の監督・大墻敦さんに繋がり、スズさんがかつて経験した横浜大空襲のことなども織り交ぜた新たなドキュメンタリー映画として再構成されました。

なお「昭和のくらし博物館」は、『この世界の片隅に(2016)』の片渕須直監督はじめスタッフが何度も通い、制作の参考にしていたのだそうです。つまり『この世界の片隅に』のヒロイン、こちらは平仮名の「すずさん」が劇中でしている家事の数々を、本作では実際の映像で見ることができます。そんな映画です。前置きが長くなりました。

第1章「生い立ちと横浜大空襲」

印象的だったのは、挿入される「学童疎開プロパガンダ映画」ですね。まるで南の島でも紹介するかのようなテンションで「学童疎開はいいぞ!」とアピールしまくる、こんなのがあったんですねえ……。僕たち!私たちは!ってあんた明らかに成人男性やんけ、なナレーションも怖かった。

戦前のスズさんの暮らしとしては、徳川のお家に奉公に出てそこで家事スキルを高めていったというエピソードがおもしろかったです。大河ドラマ『青天を衝け』を観ていたおかげで「徳川の時代と昭和が地続きである感覚」を得られていたのですんなり入れました。『神在月のこども』では『いだてん』を観ていなくて後悔したけれど、今回は大河鑑賞がちゃんと効いて嬉しい!

第2章「ちいさなおうち」

建築家かつ公務員だったスズさんの旦那さんが国の基準にしっかり沿って設計したという、言わば当時のモデル建築的な住宅。それが現在まで残り「昭和のくらし博物館」となっているわけですが、このおうちが今で言うデザイン狭小住宅みたいな、要は「なんということでしょう」なつくりになっていて感動しちゃいました。そこが見どころです。

第3章「昭和の家事の記録」

本作の白眉は、やはりこれですね。前述の「家事の記録映像」を中心とした章で、家事というものがいかにハイレベルな特殊技能であるかを突きつけられました。生活に関係するあらゆるものについて「こうすれば、こうなる」を知り尽くしていて、適切な手法、適切な道具を用いてそれらを実現していく。なんという職人芸だろうと。そして確実にこの技術を「継承できていない」現代の我々は、なんと後退してしまっているのだろうと。

チュプキで最近観たドキュメンタリーだと『明日をへぐる(2021)』でも『くじらびと(2021)』でもいいですが、自給自足でゼロから物を作り出せる人々を見ると本当に豊かだなと思いますし、文明的な生活に浸かりすぎている我々の「電気なかったら死ぬ」感とでも言いますか、危うさを非常に感じます。

といったところで、2022年のはじめから「ドキュメンタリーはおもしろい……」と強く強く再認識させられる作品でした。ずるずる感想書きを遅らせているうちにチュプキでの上映は終わってしまいうっかりですが、機会があれば是非ともご覧いただきたい一本です。

(2022年6本目/劇場鑑賞)

ちなみにこちら大墻敦監督がチュプキで舞台挨拶された際のレポートですが、さりげなく抜粋要約をお手伝いしておりました。あわせてお読みください。