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主に映画の感想文を書いています

映画「ホドロフスキーのDUNE」と1984年版「デューン/砂の惑星」を観た 〜ヴィルヌーヴ版の予習として〜

先週からドゥニ・ヴィルヌーヴ版の『DUNE/デューン 砂の惑星』が公開になっていますが、「ドゥニ・ヴィルヌーヴ版」とか書いておきながらわたし、この『DUNE』というSF作品のことをそもそも全く存じ上げず。せっかくなら予習してから観るか〜と関連2作品を鑑賞しました。


映画「ホドロフスキーのDUNE」ポスター
映画「ホドロフスキーのDUNE」ポスター

1本目は2013年公開のホドロフスキーのDUNE』。こちらはなんと〈実現しなかった映画化企画をドキュメンタリー映画化したもの〉です。デューンのデュの字も知らずにこんなマニアックなもん見て楽しめるのだろうかとも思ったんですけど、どっこいこれが超おもしろかったです。

まずはその「実現しなかった映画化企画」自体がすごい。なんていうかもう完全に「ぼくの考えた最強の映画」なんですよ。そしてそれを満面の笑みで語ってくれるアレハンドロ・ホドロフスキー監督自身が強烈に魅力的で。めちゃくちゃ美味しそうな餅の絵を描ける、映画監督としてひとつの理想形だと思いました。

その餅の絵、とにかくすごいです。キャストひとつ取っても、ミック・ジャガーに出てもらおう! オーソン・ウェルズに出てもらおう! ダリ(ぐんにゃり時計のダリですよ)に出てもらおう! ピンク・フロイドに音楽やってもらおう! みたいな。しかもその交渉が一時は実際ちゃんと成立しているのがすごい。

スタッフたちもホドロフスキー監督がいちから気鋭の才能をハンティングしていって。プロジェクトは頓挫してしまうわけですが、映画史的にはここで集まったメンバーたちが他のプロジェクトでリユニオンして『エイリアン』や『ブレードランナー』に繋がっていくとかいう、くらくらしちゃうエピソードの数々。「存在していない映画が後世に大きな影響を与える」だなんて大袈裟そうに聞こえて、これはどうやらマジな話です。

ホドロフスキー監督、わたし的には大林宣彦監督が重なって見えました。大林監督って自作の解説をとくとくと語れるお方で(DVDには必ず長尺のディレクターズトークが収録されています)、誰もが引き込まれてしまう語り口だし、すごくいい映画を観た気分にさせられてしまう。でも実際の作品は往々にしてアバンギャルドホドロフスキー監督もカルト映画の始祖らしいので、もしこの企画が実現していたとして、しかし本作を観て多くの人が思い浮かべるような作品にはならなかったかもですね。

それはさておき、大林監督が言うところの「フィロソフィー」の部分をしっかり映像作品として残した本作は、〈正真正銘ホドロフスキー監督版『DUNE』を観た〉という不思議な擬似記憶を植え付けてくれました。何を言ってんだって感じですが、予備知識ゼロで観てもおそらく同じ感想に行き着くと思います。非常におもしろく、存外に感じ入ってしまうドキュメンタリーです、おすすめです!


映画「デューン/砂の惑星」ポスター
映画「デューン/砂の惑星」ポスター

で、そのあと観たのが1984年公開の「実現した映画化企画」ことデューン/砂の惑星。監督はデヴィッド・リンチ! まあじつは『ホドロフスキーのDUNE』を観るとこのリンチ版を観る気はだいぶ失せてしまうんですけど(笑) でもまあせっかくなので観ておきました。途中で起きてられなくなったので2日に分けました(お察し)。

ざっくり言えばB級映画の類に入ると思います。「カルト映画」と呼んでしまうとちょっと褒めの要素が強くなる。そんなに褒めてないです。大林映画に例えるなら、奇しくも原作にDUNEの影響があるという『漂流教室(1987)』でどうでしょう。

なんかふと思ったのは、『時計じかけのオレンジ(1971)』ってめちゃめちゃよくできてるんだなって。テイスト的には意外とかなり似てるはずなんですけど。いきなりスパチカねんねとか言われてもすんなり楽しめるの、すごいわ。

突っ込みながら観るのが楽しいタイプの映画ではあります。うそでしょってくらい最初から最後まで突っ込みどころに満ちてます。でもヴィルヌーヴ版の予習として観るのはあまりおすすめしません。目下わたしの心配事は、シャラメも「チャークサ!!」すんのかな……ってことです。

(2021年177〜178本目/U-NEXT)

ヴィルヌーヴ版、近日中に観てきます。ちなみに『デューン/砂の惑星』はデヴィッド・リンチの前にリドリー・スコットで企画が進んでいたそうです。そんなリドリー・スコット監督の最新作『最後の決闘裁判』が非常に素晴らしかった……。原作本を読み終えるまで感想はおあずけですが、こちらもぜひ映画館でご覧くださいませ(追記:書きました)。


さらに追記:ヴィルヌーヴ版、観ました。「ヴィルヌーヴ版の予習として観るのはあまりおすすめしません」と書きましたが訂正します。観ておいたほうが楽しいです。