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映画「ミスミソウ(2018)」感想|白銀のB級スプラッタ

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同名コミックを原作とした映画ミスミソウを観ました。悪質ないじめの果てに家族をも失った女子中学生が復讐者と化していく物語です。ずっとマイリストの底に沈んではいたのですが、ふいにAmazonが「観ない?」と通知してきたのでじゃあ観ようかなと。

ミスミソウ

ミスミソウ

  • 発売日: 2018/08/01
  • メディア: Prime Video

雪らしきところに寝そべった少女と「赤」。このビジュアルはすごく印象的であると同時にすごく怖そうでもあって、Jホラー系だったらいやだな〜とか思ったりもしてたんですけどそういう系では意外となく。ただし斜め上、いや斜め下か?のバイオレンス映画ではありました。

感想としても予想外の「落ち」と「上がり」があったので、順を追って書いていくことにします。

先に苦言を述べておきたい

正直この映画、少なくとも前半かなり苦痛でした。映画館で観てたら帰りたくなってたと思います。それは怖いとかではなく単純にクオリティ的な話。なんなんだこの陳腐さは。なんなんだこの全員大根な感じは。そういう演出だと言ってくれ。そんな気持ちでした。

あとから原作コミックをつまみ読み(U-NEXTで『ミスミソウ 完全版』のサンプル6つを読みました)してみたところ、どうやらこれかなり忠実に映画化されています。コミックを絵コンテにして撮っているように思えるほどです。しかし原作はつまみ読みでも面白く、何が違うのかと考えてみると映画版は「ディティールをドラマ的に描きすぎている」のかなと。

物語の主な要素となる「いじめっ子」を生身の人間にした場合、どうしてもリアル寄りのドラマ作品として見てしまう。それにしてはやけに棒読みな演技と、イメージビデオかな?っていう嘘臭さ満点の映像が、「ドラマ作品としては質が低い」という印象をもたらしてしまう。

さらに、セリフ少なめの原作に対して映画版では当然ながら背景のキャラクターたちもそれぞれに「キモーい」「マジありえないんですけど」といったガヤのセリフを発する。これは原作のテンポ感を損なうだけでなく、それがあまりにも嫌な感じを生成しているため「ドラマ作品としての質は高くないのに胸糞のレベルは高い」というとにかく不快な印象になる。

もっとも、この物語は「悪質ないじめ」の果てに「家と家族を焼かれる」という尋常ではない展開をみせていくわけで、そのストーリーは胸糞以外の何物でもない。そういう意味では「とにかく不快」な前半の演出はヒロインの行動動機として必要な描写ではあるし、のちのカタルシスを高めてくれるものではある。が、しかし、それにしてもクオリティが低い。低すぎる。合成の雪にすら腹が立つ。

とまあ、加点タイプのわたしが珍しく「金返せ」と思うほどの前半だったのでございました。なお2021年1月末現在PrimeVideoで会員特典です(無料)。

が、後半からそのネガティブな印象はだいぶ持ち直すことに。

カルトムービーならいいか

中盤、ヒロインが復讐を開始する最初の場面。すり鉢状のあそこ(原作と寸分違わぬ再現っぷり)でせきを切ったように起こるスプラッタ三連発。「あれっ??」と。これ、もしかしてギャグなB級スプラッタ映画でした?? カルトムービー的なやつでした?? そういうことなら、いいと思いますよ!!

リアルな話じゃないと分かれば一転すっかり楽しくてですね、彩度の高い血糊と雪景色のコントラスト、振り切った特殊メイク、なによりスピード展開にウヒョーとなってしまいました。え、待って待って、ていうか復讐開始から十数分でもうほぼ全員殺しちゃってない?? あと一時間以上あるんでない?? 大丈夫??

そんな心配をよそに、劇中では新たなサイコパス爆誕したり、拍手喝采除雪車シーンが振舞われたり(いやあ、素晴らしい、マジで)、百合トライアングルが明らかになったりと出血大サービスもとい大出血サービスを連発しながらバッドエンドへ猪突猛進。ああ、なんだ、ほんともう、こういうことならそうと言っていただければ、金返せとか言いませんでしたのに。

白と赤のコントラストも物語が進むにつれ強調されていって、ヒロインの黒髪と真っ赤なコート、対する敵役の金髪と全身真っ白な衣装など、「雪と血」だけにとどまらない映画的なビジュアルがとてもよかったです。観ながら『ドラゴン・タトゥーの女(2011)』の続編『蜘蛛の巣を払う女(2018)』を連想していたのですが、そういえば宇多丸さんも言っていた。うっすら記憶に残っていたのかも。

原作者さんが絶賛しているならいいか

後半ですっかり上がったとはいえ、観終わったときはネガティブな印象も拭えてはいなかった本作。少しでも浄化しようとインタビューを読み漁っていたら、原作者・押切蓮介さんがこの映画化をすごく気に入っておられることが分かって、「ならいいか」と。

特にわたしがすごく好かないなと思っていた前半のドラマ的描写を、押切さんはむしろ好ましく思っていたようで。漫画家さん的には、描きたかったけど描ききれなかった部分なのかもしれませんね。

押切さんのインタビュー、どれも面白いのですが(意思がブレブレだから、と事前に書いてきた回答メモを読み上げるスタイルが素敵)、例えばこれなどお人柄が出ていてすごくよかった。

役者さんたちが雪の上を転げ回りながら演じている姿を見て、ああ僕はどうして冬を舞台にしてしまったんだろうと後悔が。常夏にしておけば皆さんこんな苦労しなくてよかったのに……。

──(笑)。でもあの雪景色があるからこその「ミスミソウ」ですよね。

僕はぬくぬくと修正液で雪を描いていただけなので……。「ミスミソウ」山田杏奈×清水尋也×大谷凜香×内藤瑛亮 / 押切蓮介インタビュー (3/3) - 映画ナタリー 特集・インタビュー

好き!! ってなりました。

あとこれは全く偶然だと思いますが、わたし本作、あまりの負の連鎖に『復讐者に憐れみを(2002)』という韓国映画を連想していたのです。加害者も被害者も全員死亡タイプのお話なんですけど、シリアスさと裏腹に『ぼのぼの』のアニメがテレビで流れてたりするんですよ。パク・チャヌク監督が『ぼのぼの』の大ファンなんだそうです。で、なんの話かというと、本作と『ぼのぼの』には、じつは繋がりがあったみたいで。

──『ミスミソウ』は、押切先生の作品では定番となっている「お化け」や「妖怪」といった怪異が一切登場せず、自身初となる「普通の人間が創り出す恐怖」を描いた作品です。このような設定にしたのはなぜなのでしょうか?

驚かせたかったんですよ。『ぼのぼの』のいがらしみきお先生が『Sink』とか『I【アイ】』とかを描き始めたことに衝撃を受けて、僕もこうなりたいって。『でろでろ』の作者が『ミスミソウ』を描いたら驚くだろうという下心で描き始めたんです。【インタビュー】「“胸糞悪い”という感想でもいい」漫画家・押切蓮介、『ミスミソウ』を語る。 - ライブドアニュース

あれっ、ほんとに『ぼのぼの』出てきた! とびっくり。

みんな楽しそうだからいいか

押切さん以外のインタビューもどれも良くて。読めば読むほど、楽しんで作ってたんだなあというのが伝わってきて、「ならいいか」がますます強まってしまいました。

まず驚いたのは、内藤瑛亮監督が「クランクイン一ヶ月前にオファーされた」こと。ピンチヒッターだったんですね。あれこれ整わない環境で、しかし最大限に楽しみながら、キャストともいい関係を築きながら撮影していたことが分かって、どうしようそんな映画に苦言を。

指が切断される場面がありますよね。本来ならCG部のほうから「こうやって撮ってください」って指示をもらうんだけど、CG部が決まってない状態でクランクインを迎えてしまい。みんな「どうしよう!?」という状態だったんですが、「そう言えば『マッドマックス』のメイキングで、片腕がなくなった人が緑色のテープを腕に巻いてたな。“緑”を巻いとけばいいんじゃない?」ってなって。「ミスミソウ」山田杏奈×清水尋也×大谷凜香×内藤瑛亮 / 押切蓮介インタビュー (2/3) - 映画ナタリー 特集・インタビュー

こんなエピソードも面白いですね。

主演の山田杏奈さんは当時まだ10代でお若いのにものすごくしっかりと受け応えされているのが印象的で、例えばこれ。

青春映画なんですよね。切り取り方は普通とは違うんですけど、やっぱり根底にあるのは友情とか憎しみだったりするので。そういう意味では、違う切り取り方をした青春映画だと思います。山田杏奈『ミスミソウ』インタビュー 17歳の目力(めぢから)女優が目指した“エンタテインメントな残酷さ”と中高生ならではの感情 | SPICE - エンタメ特化型情報メディア スパイス

この映画を「青春映画」と言い切る強さ。かと思えばウィットにも富んでいて、

原作者の押切先生が現場にいらした時は、私は包丁を刺したままご挨拶しました(笑)。映画『ミスミソウ』主演・山田杏奈 インタビュー | Cinema Art Online [シネマアートオンライン]

かわいい。山田杏奈さん、今後益々のご活躍に期待です。

そんなわけで『ミスミソウ』、おすすめかと問われたら言葉を濁してしまうけれど、少なくとも後半は楽しかったし鑑賞後に調べて得たことも多かった。よい映画体験でした。

(2021年24本目/PrimeVideo)

ミスミソウ

ミスミソウ

  • 発売日: 2018/08/01
  • メディア: Prime Video