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「EMOTION=伝説の午後・いつか見たドラキュラ」は確かに凄かった|自主映画時代の大林宣彦監督作品雑感・16mm編

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商業映画デビュー以前の大林宣彦監督作品を集めたDVD大林宣彦 青春回顧録 DVD SPECIAL EDITION』を購入、鑑賞しました。前回の記事ではDISC1の8mm作品6本について書きましたが、今回はDISC2に収められている16mmの4作品を紹介します。

なかでも1966年の『EMOTION=伝説の午後・いつか見たドラキュラ』について興奮気味に語るつもりです。よろしくお願いします。

『喰べた人(1963/16min)』

客が食べるのを見ていたら気分悪くなって倒れちゃったウェイトレスさん。目が覚めるとオペ室と化した厨房で彼女は開腹されており、お腹の中からいろいろなものが……。みたいなシュール系の作品。面白いけれどありがちといえばありがちで、あまり「大林宣彦」という作家性は感じない一本でした。8mm側のフィルモグラフィに近いかなと思います。先が長いのでこれは早々に切り上げ。

『Complexe=微熱の玻璃あるいは悲しい饒舌ワルツに乗って葬列の散歩道(1964/14min)』

厨二かよ、っていう長いタイトルについてはDVDの解説映像にて監督がしっかり説明をされていたので書きおこしておきましょう。「Complexe=大変複雑な集合体。悲しい饒舌。とにかくいろんな価値観のものをとっ散らかったように喋るおもちゃ箱のような饒舌体のフィルムに乗せて、それがひとつのリズムを持ってワルツのように、そしてその生きて動いている人々の姿も時が過ぎれば無くなるであろう仮初めのものだから葬列の、しかも葬列といっても暗くなくて散歩道である、と」。うん、そう解説されると短いタイトルに見えてこないこともありません。「大林映画の原点になるキーワードが全部含まれてる」のだそうですが、確かに「葬列の散歩道」は大林映画の適切な表現だし、ワルツに乗った葬列の散歩道なんて完全に『野のなななのか(2014)』じゃないか、などと感嘆してみたり。

肝心の内容はというと生身の人間を使ったストップモーションアニメみたいな作風が主で、「座ったまんま階段を降りてくる人」「直立不動で町内を動き回る人」といったような結構ベタなコマ撮りシークエンスが展開されるのですけど、しかしこれがものすごい滑らかな動きをしておりまして、生半可なコマ撮りじゃないのですよ。幼い頃から「一日ひとコマ撮る」というようなフィルムとの付き合い方をしてきた大林監督でなければ、「ボールは友達」ならぬ「フィルムは友達」な基盤を持った監督でなければ、おそらくこの芸当はできないのではないかと思いました。なんて考えを見透かしているかのように、ラストでは愛娘・千茱萸さんがフィルムと戯れるシーンが登場します。

『EMOTION=伝説の午後・いつか見たドラキュラ(1966/38min)』

最近買って読んでいた『文藝別冊 大林宣彦』というムック本がありまして、これ寄稿がメインの本なので関係者のみなさんが大林監督についてあれこれと熱く語っておられるわけですが、『ドラキュラ』に人生狂わされた人の多いこと多いこと。カルト的人気のあった作品とは聞いていたけど、そんなにすごいのかと思いつつ、ただ内心ちょいとばかしナメていたわけですね。しかしごめんなさい、これは本当にすごかった。

どれくらいすごいのかというと、『Complexe』含むここまでの8mm・16mm作品はまだ「才能ある若き映画監督」の作品としてカテゴライズできちゃうと思うのですが、その点『ドラキュラ』はもう完全に大林宣彦」でしかないのです。

前作の「おもちゃ箱のような饒舌体のフィルム」がますます進化した本作では、タイトルから連想される吸血鬼ものはもちろん、例えば西部劇、時代劇、アイドル映画、ホラー映画、サイレント映画、と縦横無尽に映画の世界を駆け巡り、そして極め付けに中原中也の詩が朗読される……。何が恐ろしいって、今ここに書いた説明文はそのまま2020年の新作『海辺の映画館─キネマの玉手箱』へ流用できるということです。大林宣彦という「映画そのもの」な作家が1966年の本作から2020年まで半世紀以上の間ほんっとうに同じことをひたすらやってきたのだと再再々確認できる、なるほど大納得の人生狂わし映画でした。

まだまだ言い足りないんですけど、なんていうんですかね、「自主製作のすごい映画」ってまあ、せいぜいこんなもんかなくらいの「ナメ」があると思うんですよ。当時これを作ったのはすごいね、くらいの。でもこの『ドラキュラ』はそんなの完全に超越した「大林宣彦」を見せつけられる。極論を言えば「映画作家には2種類いる。大林宣彦か、それ以外かだ(詠み人知らず)」の分岐点として存在しているのが『ドラキュラ』。否、過言ではないと思いますね。これはどえらい映画です。大林宣彦ってひとはどえらい作家です。あらためて。あらためて。

『CONFESSION=遥かなるあこがれギロチン恋の旅(1968/70min)』

さてもうだいぶ息切れしてしまいましたが。こちらは70分と自主映画時代最長尺です。相変わらず長いタイトルは、俳句のように「遥かなる〜〜 あこがれギロチン〜〜 恋の旅〜〜」と読むのが風流な模様。監督曰く「この作品を作ろうと思った時の気分は、やや重たかった」とのことで、1960年代終盤の空気感が反映された個人的な「CONFESSION=告白」の映画、みたいです。尾道で撮られているのも特筆すべき点。

『ドラキュラ』が大林映画の「陽」だとすれば本作は「陰」で、印象としては『花筐/HANAGATAMI(2017)』が前半部は特に近いですかね。実際この頃から大林監督は『花筐』の映画化を構想していたそうですから全く不思議ではありません。「ポールとヴィルジニー」が出てくるあたりもどんぴしゃです。また『野のなななのか』もいろいろと近い。顔以外の全身をチープに合成してみたり、やたらと章が多かったり。唱歌の使い方、お遊びのインターミッションに過剰なクレジット、のちへ繋がる点は挙げたらきりがありません。

売れっ子CM作家であるのをいいことに(?)、終盤では意味深な「ハウス クリームシチュー」が登場。奇しくも『HOUSE/ハウス(1977)』で商業映画デビューを果たすまであと10年近くあるのですが、なんなんでしょうこの濃厚なキャリアは。ここからHOUSE?! ここから始まるの?! やっと?! っていう感じで気が遠くなります。

そんなわけで、8mm作品群より圧倒的に「大林宣彦」が強くなった16mm作品群。特に『EMOTION=伝説の午後・いつか見たドラキュラ』は大林映画を語る上で掛け値なしに必見の作品でした。大林映画を多く観ていればいるほど「すごいなあ……」とため息が止まらないはず。未見の方は、DVD買ってでも観る価値ありです。大ありです。

(2020年149〜152本目/DVD購入鑑賞)

大林宣彦青春回顧録 DVD SPECIAL EDITION

大林宣彦青春回顧録 DVD SPECIAL EDITION

  • 発売日: 2001/05/23
  • メディア: DVD
大林宣彦 (KAWADE夢ムック 文藝別冊)

大林宣彦 (KAWADE夢ムック 文藝別冊)

  • 発売日: 2017/10/28
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
前述の『文藝別冊 大林宣彦』。大林チルドレンの皆様が語るドラキュラ偏愛はもちろん、大林一家の家族対談から始まって非常におもしろく読める一冊です。ユリイカの分厚い総特集号はさっき届いたのでこれから読み始めます。たのしみ。