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映画「野いちご(1957)」雑感|タイムスリップもある、ベルイマン的ロードムービー

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朝に『第七の封印』を観て、昼下がりに『野いちご』を観る、という謎のベルイマン集中履修をしました。いや、ただ単にTSUTAYA DISCASで借りてたのを一気に観ただけなんですけども。というわけで、イングマール・ベルイマン監督の『野いちご』を鑑賞しました。

『野いちご』というと個人的には、ウディ・アレン監督が好きな映画!という印象です。正確には、ウディ・アレン作品のなかでウディ・アレン演じる男がしょっちゅうタイトルを口にする作品、ですかね。わたしがベルイマン監督の名前を知ったのがそもそもウディ・アレン作品の台詞からだったので、ベルイマン=野いちごの人、として長いこと認識していました。

ストーリーは結構シンプルで、ほんの1日の出来事が描かれています。主人公の老教授は、長年の功績を称えられて名誉賞を与えられることに。しかし授与式の前の晩に不吉すぎる悪夢を見た教授。飛行機か汽車か何かで行くはずだったのでしょうが、自分の車で行くぞ!と翌朝急に予定を変更します。

早世した妻とのことなど諸事情あって人との交流を避けて久しい教授でしたが、図らずもこの道中では様々なイベントが発生。かくかくしかじかいろんな人との交流を経た教授は、ちょっとだけ人生前向きになって、その夜はいい夢も見られましたとさ。っていうお話。意外や、ロードムービーなのです(それで言うと『第七の封印』もロードムービーでした)。

まず最初になかなかインパクト大なのは「悪夢」。かんかん照りで無人の街。針のない時計。棺を乗せて走る無人の馬車。「針のない時計」がすっごい絶妙にいやな感じで最高なこの夢、忘れた頃に正夢として断片的に実現するのですが、どれも教授に直接降りかかることではなかったのが面白いです。

若い頃に住んでいたあたりへ立ち寄った際には、夢うつつにタイムスリップしてかつての恋人と会ったりもします。野いちごポイントです。てっきりこの場面中心の映画なのかと思っていましたが、ひとつの通過点にすぎません。ここは少ない情報量ながら教授周辺の家系図を把握していけるようなつくりになっていて秀逸でした。のちにウディ・アレン監督が『アニー・ホール(1977)』でオマージュしたと思われるシーンも登場!

道中、ヒッチハイクをしている若い男女3人組と出会って元気をもらったり、げんなりするような夫婦喧嘩を見て我が身を振り返ったりする教授。問題山積みのまま凝り固まった人生でしたが、今からでも間に合うところは少しずつほぐしていこうか、と小さな一歩をいくつか踏み出し、その晩の「いい夢」へと繋がって終わります。

90分の短尺に夢やら過去やらいくつもの出会いやらと様々な要素が盛り込まれているためシンプルとはいえ結構複雑な部分もあって、じつは中盤で睡魔に襲われて15分くらい昼寝休憩を挟みました(そしたら金縛りにあって、リアルな映画体験ができました)。でも、最後はしっかり分かりやすく「いい後味」に着地。「野いちご」という優しげな言葉の持つイメージからそう遠くない作品として記憶できそうです。

(2020年115本目/TSUTAYA DISCAS

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  • メディア: DVD