ようやく観ました、マーティン・スコセッシ監督による話題のNetflix映画『アイリッシュマン』。3時間半という長尺をしっかり乗り切るため、原作本上下巻を読んでからの鑑賞です。
概要
1975年アメリカ、当時「大統領に次ぐ権力を持った男」とまで言われた大物ジミー・ホッファ(劇中ではアル・パチーノ)が失踪。その行方は未だわかっていない。しかし、長年ホッファの右腕を務めていた男フランク・シーラン(劇中ではロバート・デ・ニーロ)が、2004年に自らのインタビュー本において「自分が殺した」と告白。その書籍『アイリッシュマン』を原作として制作されたのが本作である。
そもそものお話
まず、『アイリッシュマン』という原作があります。劇中ではロバート・デ・ニーロが語り部として演じるフランク・シーランの、晩年の発言をまとめたインタビュー本です。
難しいのかなと思ったら意外と掴みがよく、2日半くらいで一気に読み切ってしまいました。『ゴッドファーザー』的な裏社会のお話にちょっとでも興味があればどんどん読み進めてしまえるはず。ジミー・ホッファの影響力を物語るように、登場するエピソードは多岐に渡ります。
著者チャールズ・ブラントは、かつてシーランの弁護士を務めたこともある経歴の持ち主。FBIにも口を割らなかったシーランが、この著者には心を開き、生い立ち、ホッファと過ごした日々、そして告白まで、その生涯の全てを語っています。
心を開いたといってもインタビューの期間はなんと1991年から2003年(シーランは同年に死去)。忍耐の産物…! 時間をかけて抽出された濃厚な内容になっていることは言うまでもありません。
- 作者:チャールズ ブラント
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2019/11/06
- メディア: 文庫
- 作者:チャールズ ブラント
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2019/11/06
- メディア: 文庫
下巻の半分は2016年に加筆された後日譚からなっているのですが、これがまたすごい。2004年の初版発行時には「命の危険を感じて」オフレコにしていたことを「(もう関係者ほぼ死んだし)そろそろいいだろう」と書いてるのです。命がけ!
原作を読んでいたほうがいいかどうか。どちらかといえば読んでおいたほうがいいです。まずとにかく登場人物が多く、やっかいなことに様々な呼び名が混在していて、おまけに時間軸も複数あるため、事前にある程度の主要人物を頭に入れておいたほうが有利です。
アル・パチーノ演じるジミー・ホッファについても、アメリカではエルヴィス・プレスリーやビートルズと同じくらい有名らしいのですが日本での知名度はかなり低いため、予習しておくに越したことはありません(映画の会話シーン等でも、原語では名前が出てくるけど日本語字幕には反映されない、なんてケースが多い模様)。
灯台下暗しなところではタイトルの「アイリッシュマン」、これはシーランの呼び名なのですが、なぜ彼がこう呼ばれているのか、劇中で説明はなかったように思います(そもそもアイリッシュマンと呼ばれているシーン自体が多分ない)。
また、原作の原題でもあり、劇中では印象的なテロップと会話で登場する「あちらこちらの家にペンキを塗っているそうだな」という言葉。これについても劇中ではその意味について説明はなかったはずですが、原題になっているくらいなので大事なところです。映画版は原題も『The Irishman』なんですね。
まっさらならまっさらでも楽しめると思いますが、とても興味深いノンフィクションなので単純におすすめです。
満を持して映画を観た
3時間半、集中できるように携帯は切り、申し訳程度のプロジェクターでなるべく映画館的な環境を作り、自宅鑑賞。ん〜、堪能。
活字から想像していたものが映像として動いていることがまず嬉しいし楽しいですよね。原作を読んでいるが故の違和感、みたいなものも最初のうちはありましたがすぐ慣れました。本作の中心となる三人 ──デ・ニーロのシーラン、パチーノのホッファ、ジョー・ペシのラッセル(ブロマンスなトライアングルのもう一点)── が、役柄ではなく本人としてそこにいるようにいつしか思えました。
原作ではそこまで親密とは感じられなかったシーランとホッファの関係も、映画だと本当に熱い友情があって、そのぶんラストへの道のりがつらくて。友情と愛情の先に、ラッセルとシーランのあの決断と行動があったのだろうなと思える描き方になっていて見事です。
あくまで原作をなぞっていくタイプの映画化で、原作を先に読んでいた今回の場合はストーリー展開に対する感想をさほど抱けないのがちょっと残念なところですが、完全初見の場合はどういう感想になるんでしょうかね。
また、本作が基にした2004年版の原作では、前述のアブない事情によりインタビュアーが気配を消しています。それもあってか、時間軸の最上層で老いたシーランが語りかけている相手もまたカメラのレンズでしかありません。ラストシーンでシーランが「おれだ。あのことで話をしたい」とでも電話をかけてくれてたら本につながっていいのになあ、なんて思ったりもしました。ちょっとあの終わり方は、やや寂しい。
まだ反芻する時間が足りないながらも、とりあえずの感想および原作紹介でした。ああそう、今回のでデ・ニーロをすごい好きになった気がします。カトリーヌ・ドヌーヴもだけど、おじいちゃんおばあちゃんになってから魅力に気付く俳優さんもいるのだな。なお最新技術で若返ったデ・ニーロはピエール瀧にしか見えませんでした。いい役者だったなあ、瀧さん。
(2019年142本目) Netflix映画ですが、そこそこ上映劇場あります。立川シネマシティも年末年始にかけてくれるっぽいですよ。