岩井俊二週間、もうしばらく続きます。1996年の作品『スワロウテイル』を鑑賞しました。CHARAが主演し、劇中のバンドYEN TOWN BAND名義でリリースされた「Swallowtail Butterfly 〜あいのうた〜」もヒットした作品です。
プロローグ
むかしむかし
円が世界で一番強かった頃
その町は移民たちであふれ
まるでいつかのゴールドラッシュのようだった
円を目当てに円を掘りに来る街
そんなこの街を移民たちは こう呼んだ
“円都〈イェンタウン〉”
でも日本人はこの名前を忌み嫌い
自分たちの街をそう呼ぶ移民たちを
“円盗〈イェンタウン〉”と呼んで蔑んだ
ちょっとややこしいけどイェンタウンというのは
この街と この街に群がる異邦人のこと
がんばって円を稼いで祖国に帰れば大金持ち
夢みたいな話だけど
何しろ ここは円の楽園 …イェンタウン
そしてこれは
イェンタウンに潜むイェンタウンたちの物語(映画冒頭より引用)
雑感
すごく引き込まれるプロローグだったので丸々引用してみました。プロローグで心掴まれる映画はいい映画。本作も、ここのところ一気に観てきた岩井作品のなかでは異質な、でも非常に好みな映画でした。
円盗という蔑称で呼ばれる移民たちが底辺の暮らしから“とある手段”で這い上がる。一時は順風満帆かと思われたが……みたいな物語で、中心となるのは、上海からの円盗で娼婦をしているグリコ(CHARA)、同じく上海からの円盗ヒオ・フェイホン(三上博史)、母を亡くした円盗二世の少女アゲハ(伊藤歩)の三人。
日本映画だけど主要人物は全員「中国系の移民」役で、でもそれを演じているのは日本人、というかなり不思議な作品です。特に序盤は英語、中国語、日本語の入り混じった言語が飛び交う面白い世界観。セリフに限らず、いわゆる「外国映画に出てくる日本描写」のインチキ感を日本人が作ってみたらこうなる、みたいな、インチキ臭いのになぜか許容できてしまう謎の仕様になってます。日本にこんなサイバーパンク?映画があったんだなあと驚きました。
なんとなく、タランティーノが『キル・ビル(2003)』でやりたかったのってこういうことなのかな、などと思いながら観ていたのですが、あとで調べてみたところ本作のプロデューサー前田浩子さんはその後『キル・ビル』も手がけていたようで、意外な繋がりを発見。映画ジャンキーのタランティーノは本作くらい当たり前に観ていそうですし、影響を受けている可能性はあるかもしれません。(追記:『キル・ビル』では「リリイ・シュシュ」の楽曲が劇中に使われているそう。となると、影響下にあることは間違いない)
ここまで『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?(1995)』『Love Letter(1995)』『四月物語(1998)』『ラストレター(2020)』と岩井作品を観てきて、どれもとてもフェティッシュな少女性の描き方が印象に残る作品でしたが、本作は一転エロスとバイオレンスなほうに振れていて、いや〜この、岩井監督のエロスもよいですね。美しい。あと、上記全作品に共通して「声の小さいヒロイン」が必ず出てるのもフェチを感じておもしろいですね。
お話云々よりも世界観にすっかり魅了されてしまい、150分が長く感じない映画でした。好きな人はすごく好きなやつだと思います。
(2020年17本目/PrimeVideo)
「Swallowtail Butterfly 〜あいのうた〜」は好きでよく聴いてたし、YEN TOWN BANDという妙なアーティスト名も馴染みのあるものだったけど、その「YEN TOWN」の何たるかを数十年越しに知れたのもよかったです。ちなみにわたしがとびきり好きなCHARAはスカパラとコラボした「サファイアの星」。